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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第三章/二 

二 精神障害者の概数とその処遇

 わが国の精神障害者の概数については,かなり古い数字ではあるが,昭和四〇年厚生省公衆衛生局から刊行された「わが国における精神障害の現状」の中に,昭和三八年中に行なわれた精神衛生実態調査の結果が示されている。これによると,精神障害者の全国推定数は一二四万人,人口千人について一二・九人である。昭和二九年の調査では,人口千人について一四・八人となっているので,総数では,減少の傾向を示しているということができようが,精神障害者のうち,精神病者は,五七万人で,昭和二九年の調査に比較して,絶対数で一二万人,人口千人あたりの比率で,五・二人から五・九人に増加していることが注意をひく。精神病者のほかには,精神薄弱(白痴および痴愚程度のもの)が四〇万人,その他(中毒性精神障害,精神病質等)の精神障害が二七万人という結果となっている。
 ところで,右に述べた一二四万人の精神障害者のうちには,精神病院に入院を要する者が,約二八万人,精神病院以外の施設に収容を要する者が約七万人,入院または収容を要しないが,専門医の治療や指導を要する者が約四八万人あったとされている。これに対し,わが国の精神科病床数は,昭和四三年二月末現在においても,なお,二二四,二六八にすぎないばかりでなく,人口に比較した病床数にも,著しい地方差のあることが問題となっている。
 精神衛生法によれば,都道府県知事は,医療および保護のために入院させなければ,その精神障害のために自身を傷つけ,または他人に害を及ぼすおそれがあると認めた精神障害者を,本人および関係者の同意が得られなくても,強制的に病院に入院させることができることとしている(同法第二九条,以下これを「措置入院」という。)。この措置入院による入院患者は,年々大幅に増加し,昭和四三年二月末現在で,七二,四七九人に達し,前年同期に比べて,三,七二四人の増加となり,精神科病床数の,約三分の一を占めていることになる。
 次に,精神衛生法によれば,精神障害者またはその疑いのある者を知った場合は,だれでも,その者について,精神衛生鑑定医の診察および必要な保護を都道府県知事に申請することができる(第二三条)とされているし,また,警察官は,これらの者を職務執行中に発見したとき(第二四条),検察官は,これらの者について,不起訴処分を行なったとき,または,自由刑の実刑の言渡し以外の裁判が確定したとき等(第二五条),矯正施設の長は,これらの者を釈放,退院または退所させようとするとき(第二六条),保護観察所の長は,保護観察の対象者がこれらの者であることを知ったとき(第二五条の二),それぞれ都道府県知事に通報の義務を負っている。右に述べた,このような申請または通報について,最近一〇年間の統計を示すと,II-107表[1]および[2]のとおりである。一般からの申請は,昭和三六年を頂点として,その後,しだいに減少の傾向を示しているが,警察・検察・矯正関係からの通報件数は,昭和四一年までの間は,年々かなりの割合で増加してきたものの,昭和四二年になって,前年より,わずかに減少した。ここで,当然のことながら,申請または通報の増減に比例して,精神障害者と認定された者の数が増減していることに留意すべきである。前記の通報件数の内訳としての,警察官,検察官,矯正施設の長の各通報件数の推移をみると,実数も,全体的な増加の割合も,おおむね右に掲げた順序となっている。保護観察所長による通報は,昭和四〇年から行なわれることとされたもので,その傾向を比較することは,まだ困難である。

II-107表