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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/4 

4 犯罪少年の地域別考察

(一) 人口の地域間移動

 最近における,わが国の人口現象の著しい特色の一つとして,大都市およびその周辺への人口の集積があげられる。これは,もとより,人口移動の激しさを表わしているものである。犯罪少年の地域別考察に先だって,わが国の人口が,地域によって,どれほど異なるか,人口の地域移動の面から検討しておきたい。
 昭和四〇年における国勢調査の結果から,都道府県別人口の増減をみると,昭和三五年から四〇年までの五年間に,総人口においては五・二%の増加がみられたにかかわらず,四六都道府県のうち,人口が増加したのは,二一の都府県であり,北海道と二四の県では,人口が減少している。出生率が低下したとはいえ,人口の自然増加(出生と死亡の差)がマイナスとなった府県は,ないわけであるから,人口が減少したところは,人口が他府県へ移動していることを示している。
 そこで,さらに,昭和三五年から四〇年に至る五年間の,各県における人口の自然増加を差し引いて,人口の流出入による増減をみると,人口が流出超過であったのは,四六都道府県のうち,北海道および三五の県である。したがって人口が流入超過であったのは,六大都市を含む都府県と,その隣接県(埼玉,千葉および奈良)および広島の一〇都府県であった。このように,わが国の人口移動は,東京,大阪,名古屋を中心とする三つの巨大都市圏への,農村,低開発地域からの人口集中であり,しかも,それは,青少年人口を主軸として行なわれている。たとえば,昭和四一年三月中学卒業者の県外就職率は三一・八%であり,このうち七〇・七%は,東京,大阪,愛知,神奈川等の大都市を含む大工業地域に就職している。また,同年の高等学校卒業者の県外就職率は二七・八%であり,そのうちの七九・三%は,前記四都府県に就職している。
 人口の都市地域への集中が,犯罪の都市集中をもたらす基盤ともなっており,ことに,都市へ集中する青少年層の多くは,新規に,学校を卒業して就職した者であることから,都市地域における青少年問題の一つとして,勤労流入少年が,職場への不適応と,刺激の多い都市の社会環境の影響から,非行にまで脱落するケースの多いことは,しばしば指摘されてきた。人口の地域移動に関連する犯罪および非行の問題として,今後も,その成行は注視されなければならない。

(二) 犯罪少年の地域差

 都市では,農村地城に比較して,犯罪や非行の発生が多い。その理由として,都市は,人口の移動が激しく,人口も周密であるために,摩擦が起こりやすいこと,連帯意識も乏しく,匿名性も強いことなどがあり,また,歓楽地帯が発達し,不健全娯楽の刺激や道徳の混乱も起こりやすいことなどがあげられる。
 しかし,最近では,交通機関の発達やマス・メディアの普及が,都市の周辺地域,さらに農村地域にまで都市化を進展させ,従来の農村地域での文化や価値体系を変革させつつあり,これが,犯罪の量的,質的面にも影響を与えはじめている。
 犯罪少年の地域差について,まず,都市と農村地域における犯罪の推移を検討してみよう。農村地域としては,第一次産業人口の占める割合が高く,かつ,人口の流出も多い六県(岩手,秋田,山形,福島,島根および鹿児島)を選んで,最も都市的性格の濃厚な六大都市と対比した。
 II-24表でみると,六大都市における刑法犯検挙人員の人口比は,昭和三五年には一八・五であったが,四〇年には一九・八,四一年には一八・九であって,昭和三五年を基準にすれば,四一年の増加率は二%であった。これに対して,農村地域における刑法犯検挙人員の人口比は,昭和三五年には一〇・〇,四〇年には一一・八,四一年には一二・七であって,この間の増加率は二七%である。大都市地域と,農村地城とを比較すれば,刑法犯検挙人員の人口比は,農村地域のそれに比して,大都市において,常に,著しく高い。しかし,その推移傾向は,大都市では,むしろ,停滞的であるのに対し,農村地域では,上昇傾向が著しいことがうかがえる。これは,先にも述べたとおり,農村地域においても,都市化の進展に伴って,都市的文化の波及が,少年の非行化を促進させる一因となっているのではあるまいか。

II-24表 地域別少年刑法犯検挙人員(昭和35,40,41年)

 次に,法務省特別調査によって,犯行地域を,大都市(東京都二三区,大阪,名古屋,京都,横浜および神戸の六大都市),中小都市(大都市以外の都市)および郡部にわけて,罪種別の差異をみるとII-25表のとおりである。

II-25表 地域別主要罪種別人員

 いずれの地域においても,窃盗が,最も多く,半数以上を占めているが,都市に比べて,郡部では,その割合がやや少ない。ついで,暴行・傷害が多いが,その割合は,都市に比較して,郡部の方がやや高い。次に,恐喝および強姦が多いが,都市において,恐喝の割合が,郡部より高いのに反して,強姦では,郡部の方が高くなっている。都市で強姦の割合が比較的に少ないのは,娯楽機関が発達して,少年の欲求が満たされやすいことのほかに,不純異性交遊などのかたちで満たされている場合も多いからであろう。その他の罪種では,都市に,あるいは郡部に特徴的であるというものはなく,犯罪内容でみる限り,都市で窃盗,恐喝などの財産的罪種が多いのに対して,郡部では傷害,暴行等の身体犯がやや多くみられる以外は,著しい差異は認められない。
 次に,犯罪少年の質的側面から,非行前歴(検察庁送致の経歴)の有無を,地域別にみると,II-26表のとおりである。大都市では,非行前歴をもっているものは三八・五%,中小都市では三四・〇%,郡部においては二七・五%である。郡部を犯行地とする者は,比較的に非行前歴をもつ者の割合が少ないが,大都市では,それらは著しく高い。一般に,非行や犯罪の深度が加わると,行動圏も拡大するといわれている。刺激の強い大都市では,累犯化していく者も少なくないであろうし,大都市以外の地域で非行化し,非行を重ねるごとに,しだいに地域移動が行なわれ,不健全な歓楽地帯へ,あるいは,類を求めて,ドヤ街やスラムなどの非行地域へと,犯罪少年が移行していくことを示唆しているものではあるまいか。

II-26表 地域別非行前歴の有無別人員

(三) 犯罪少年の地域移動

 社会の変動につれて,犯罪の態様も異なってくるが,最近の交通機関の発達は,犯罪者の移動をも,きわめて容易にし,犯罪も,広域化の傾向にあるといわれている。
 犯罪者および犯罪少年が,どの程度の地域にまたがって,犯罪や非行を重ねているかを明らかにすることができないので,ここでは,少年および成人事件について,かれらの居住地と犯行地との関連をみることにしよう。
 II-27表は,少年,成人別に,詐欺,強盗,窃盗および恐喝について,居住地と犯行地との関連を示したものである。少年では,四種の罪名を平均してみると,居住地と犯行地とが,同一都道府県内であったものは,九三・〇%であり,犯行地が,居住地以外の都道府県のものは七・〇%である。これに対して,成人では,居住地と犯行地が同一都道府県内であるものは八八・四%,居住地以外の都道府県であるものは一一・六%である。犯罪の程度が進むと,行動圏も広まるといわれているように,成人に比べれば,少年の犯行は,比較的に狭い地域に限られているものが多いのであろう。

II-27表 少年および成人事件の主要罪名別犯行地と居住地の関連

 これを罪名別にみると,少年,成人ともに,窃盗,恐喝などでは,犯行地が居住地と同一都道府県内のものがきわめて多い。強盗のような凶悪な犯罪になると,少年においても,居住地以外の都道府県で犯罪を行なうものが,かなり多くなっている。
 次に,少年の犯行地域別に,居住地と犯行地との関連を示すと,II-28表のとおりである。全体の七七%は,居住地と同一の市内または,同一の町村内で犯罪が行なわれ,同一都道府県内のものは一六・五%,他の都道府県で犯罪を行なうものは六・五%であり,少年では,犯罪の行動圏は,きわめて狭いといえよう。これを,少年の犯行地別にみると,大都市を犯行地とする少年では,中小都市および郡部を犯行地とする少年に比較して,他の都道府県に居住する少年が多い。これは,一つには,著しい交通機関の発達が,犯罪の行動圏の拡大を容易にしているためではあるまいか。

II-28表 犯行地と居住地との関係