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令和2年版 犯罪白書 第7編/第5章/第4節/コラム4

コラム4 精神保健福祉センターにおける薬物依存症者の支援

精神保健福祉センターは,精神保健福祉法6条に基づき都道府県及び指定都市に設置されたメンタルヘルスの専門機関で,地域住民の精神的健康の保持増進のため,精神保健及び精神障害者福祉に関する様々な相談等に対応している。その中には薬物問題に関する対応も含まれ,専門の相談員らが,各地域又は相談者個々の事情に応じて,薬物依存症者本人の来所又は電話による相談や回復プログラムの実施,薬物依存症者の家族の来所又は電話による相談,家族教室の実施,保健所等関係機関への技術援助といった多様な取組を行っている。

全国精神保健福祉センター長会常任理事・依存症対策委員会委員長の白川教人氏らが行った調査研究(令和元年12月1日時点)によると,全国の精神保健福祉センター(69か所)のうち,47か所(68.1%)の精神保健福祉センターが薬物依存症者を対象にした回復プログラムを実施しており,これは2年連続での増加であった。ここで実施されているプログラムのほとんどは,薬物依存症者の回復に一定の効果があると認められている認知行動療法のアプローチに基づくSMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program:せりがや病院覚せい剤依存再発防止プログラム)か又はそれに類似したものであることも明らかになったという。また,48か所(69.6%)の精神保健福祉センターでは,薬物依存症者の家族支援として,薬物依存症者の家族のみを対象としたプログラム又は他の依存症と共通のプログラムを実施していた。さらに,薬物依存症者の支援に関して,ダルク,NA,ナラノン,医療機関等と連携している精神保健福祉センターが多くあったほか,保護観察所と連携して支援に当たっている精神保健福祉センターも40か所と,全体の6割近くに上った(ダルク,NA及びナラノンについては,本節5項ないし7項参照)。

このように薬物依存症者に対する支援体制が強化されてきた状況について,白川氏は,平成25年12月のアルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)の成立等により,精神保健福祉センターにおける依存症対策の重要性が強く認識されるようになり,流れが変わり始めたと見ている。引き続いた「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」(27年11月発出。本章第3節参照)の策定には,全国精神保健福祉センター長会の田邉等元会長(前北海道立精神保健福祉センター所長)も関与し,薬物依存のある刑務所出所者等の支援における精神保健福祉センターの基本的な役割が明記された。さらに,刑の一部執行猶予制度(28年6月施行),再犯防止推進計画(29年12月閣議決定)等,再犯の防止に向けた一連の施策が打ち出された。白川氏は,これらが,薬物依存症者に対する精神保健福祉センターの積極的な支援を後押しすることにつながったとしている。

白川氏がセンター長を務める横浜市こころの健康相談センター(精神保健福祉センター)においても,以前から対応していたアルコール,薬物,ギャンブル等の各種依存症に関する相談等に加えて,ここ数年間,回復プログラムの開発・実施等の支援の充実を図っている。同センターでは,Voice Bridges Project(平成29年に開始された,薬物関連犯罪による保護観察対象者の研究と連動して,精神保健福祉センターが同対象者に必要な支援を継続的に行うプロジェクト)等に参加する中で,薬物問題を抱えた当事者に対する担当職員の理解が深まり,関係機関との相互交流が増加するなどの変化も見られているという。そうしたことから,同センターは,令和2年3月に横浜市の依存症相談拠点となった。

精神保健福祉センターや保健所といった各地域に設置されている機関は,メンタルヘルスに関する公の相談窓口であり,相談が無料で受けられるなど,相談・支援を求める人にとって利用しやすい機関の一つである。白川氏は,依存症者に対する支援の一層の充実を図るため,今後,関係機関との「顔の見える関係」を更に強化し,地域における包括的・継続的な支援事例を積み重ねていくことが必要だとしている。

(参考)白川教人「薬物依存症者に対する地域支援体制の実態と均てん化に関する研究 第1報」再犯防止推進計画における薬物依存症者の地域支援を推進するための政策研究 令和元年度総括・分担報告書
依存症の相談に関するリーフレット【画像提供:横浜市こころの健康相談センター】
依存症の相談に関するリーフレット
【画像提供:横浜市こころの健康相談センター】