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令和元年版 犯罪白書 第6編/第1章/第2節/1
第2節 犯罪被害についての実態調査
1 概説

刑事政策として効果的な治安対策を考える場合,その前提として,犯罪の発生状況を正確に把握しておくことが必要不可欠である。そのためには,<1>警察等の公的機関に認知された犯罪件数を集計する方法と,<2>一般国民を対象としたアンケート調査等により,警察等に認知されていない犯罪の件数(暗数)を含め,どのような犯罪が,実際どのくらい発生しているかという実態を調べる方法(暗数調査)がある。<2>の暗数調査は,定期的に実施することにより,<1>の認知件数との経年比較が可能となる。<1>と<2>は,犯罪情勢を知る上で言わば表裏一体のものであり,お互いを相補う形で活用することによって有効な刑事政策を考えることができる。

英米では,かなり以前から暗数調査の重要性が認識されている。米国では1973年(昭和48年)から毎年,全国規模の暗数調査が実施され,英国(イングランド及びウェールズ)では,1982年(昭和57年)から全国規模の暗数調査が実施(2000年(平成12年)までは数年ごとに実施,2001年以降は毎年実施)されており,刑事政策を考える上での重要な資料とされている。また,1989年(平成元年)には,犯罪被害の国際比較を目的として,国際犯罪被害実態調査(ICVS: International Crime Victims Survey)が開始されており,その後も第5回調査まで,おおむね4年ごとに多数の国・地域で標準化された質問票を用いた調査が実施され,これまで78か国・地域の30万人を超える人々が参加している。

我が国では,法務総合研究所が,平成12年に,国際犯罪被害実態調査に参加して第1回犯罪被害実態(暗数)調査(12年調査)を実施し,以後4年ごとに,16年に第2回調査(16年調査),20年に第3回調査(20年調査),24年に第4回調査(24年調査。なお,同調査は,「安全・安心な社会づくりのための基礎調査」と題して行われた。),そして,直近では,31年1月から2月にかけて第5回調査(31年調査。なお,同調査は,「安全・安心な社会づくりのための基礎調査」を副題として行われた。)を実施した。各調査は,層化二段無作為抽出法により全国から選んだ16歳以上の男女を調査対象者としているが,対象者数は各回で異なり,12年調査及び16年調査では3,000人,20年調査では6,000人,24年調査では4,000人,31年調査では6,000人であった。また,24年調査は,主に訪問調査員による聴き取り方式を用いた20年調査までと異なり,郵送調査(質問紙を調査対象者に郵送し,回答を記入の上返送してもらう方式)によったが,31年調査では,主に訪問調査員による聴き取り方式とした。31年調査について,過去の訪問調査員による調査方式と異なる点は,調査対象者が自ら回答を記入する方式(以下「自計方式」という。)による被害調査(性的事件(強制性交等,強制わいせつ,痴漢,セクハラ等をいい,法律上必ずしも処罰の対象とならない行為を含む。以下この節において同じ。)等の被害調査が該当)について,調査対象者が回答を調査員に提出する方法だけでなく,郵送又はインターネットによって提出する方法を選択可能としたことである。