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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第3節/コラム12

コラム12 認知症高齢者による万引き防止に向けて〜島原市高齢者等見守りネットワーク協議会の取組〜

長崎県島原市が設置した島原市高齢者等見守りネットワーク協議会(以下「協議会」という。)では,高齢者の孤立死や虐待防止に向け,住民や企業・団体と協働し,声掛け等を通じて高齢者を見守り,異変を察したら協議会の中核を担う島原市地域包括支援センター(以下「センター」という。)への相談を促し,必要な支援へつなぐ活動等をしているが,その活動の中で認知症高齢者の万引き防止に結び付く取組がある。

店舗等から高齢者による万引きの通報を受けた警察や事件送致を受けた検察(以下「警察等」という。)において,本人に認知症が疑われる場合はセンターへ連絡し,連絡を受けたセンターは認知症患者の支援に関する企画調整を行う認知症地域支援推進員等を警察等へ派遣し,併せて認知症疾患医療センターから精神保健福祉士が合流し,それら専門職が協働で本人と面接し,支援の要否を判断する。本人は,必要に応じ認知症専門医の鑑別診断を受け,認知症の確定診断を受けた場合,関係機関が協議し,センターが,<1>地域通所サービス,<2>在宅訪問サービス,<3>施設入所サービスなどを調整し,本人を必要な支援へつないでいる。認知症高齢者による万引き等でセンターが警察等から受けた相談件数は,最初の相談があった平成24年から29年まで延べ27件に及ぶが,その大半がこれまで善良な社会生活を営んできた人であるという。

店舗で菓子を万引きし,警察へ通報された認知症高齢者の事例では,警察から連絡を受けた家族が店舗へ弁償するなど誠実に対応したことから,被害届は出されず,警察も事件として扱わなかった。本人の立ち居振る舞いに違和感をもった警察がセンターに相談し,センターが必要な支援へつないだが,その過程で,菓子を万引きされた店舗が協議会へ加入し,店員が認知症サポーター養成講座や高齢者声掛け講習に参加するなどし,本人が来店した際は万引きに至らせないよう適宜声掛けするなどした結果,以後本人の万引きの再発はなかった。

対象者を的確に見立てることや,警察等と円滑に連携するための仕組み作りなど課題はあるというが,家族や周囲の理解を促し,必要な支援を通じて認知症高齢者の万引き防止を図る島原の取組は注目される。

認知症高齢者を想定した声掛け体験【写真提供:島原市地域包括支援センター】
認知症高齢者を想定した声掛け体験
【写真提供:島原市地域包括支援センター】
協議会と協力企業等との協定締結式【写真提供:島原市地域包括支援センター】
協議会と協力企業等との協定締結式
【写真提供:島原市地域包括支援センター】