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平成30年版 犯罪白書 第7編/第5章/第3節/コラム11

コラム11 入口支援における連携の多様化〜東京地方検察庁における社会復帰支援の取組〜

東京地方検察庁においては,平成25年から,社会復帰支援室として,再犯防止・社会復帰支援を担当する検察官,検察事務官及び社会福祉アドバイザーを配置している。社会復帰支援室では,事件を担当する検察官から相談を受けて,被疑者・被告人の入口支援を取り扱っているが,その対応件数は年々増加し,連携の在り方も多様化している。ここでは,高齢者が関わる事案における連携について紹介する。

近時,社会復帰支援室においては,高齢被疑者に認知症の可能性がある場合,少年鑑別所に,認知機能に関する検査を依頼し,その結果を社会復帰支援にいかしていく取組を行っている。認知症の可能性がある者について,その特性を正確に把握し,必要な支援を受けられるようにするため,少年鑑別所法131条(地域援助)に基づき,東京少年鑑別所に対し,法務技官(心理)による被疑者の知能検査等の実施を依頼するものである。

無銭飲食の嫌疑により逮捕された70代の被疑者(生活保護受給者)の事例では,社会復帰支援室の担当職員が,社会福祉アドバイザーの助言を受けて,東京少年鑑別所に認知症に関する検査を依頼したところ,同所の法務技官(心理)による検査の結果,被疑者に認知症の疑いがあると認められたことから,事件担当検察官は,社会復帰支援室との間で打合せを行って被疑者を釈放し,地域の福祉事務所につないで,その支援を受けるに至らせた。平成29年度において,社会復帰支援室から東京少年鑑別所に依頼した被疑者の知能検査等全8件のうち,6件が,このような高齢者の認知症に関する検査を含むものであった。

社会復帰支援室の検察官は,「被疑者について,少年鑑別所の法務技官による認知症のスクリーニング検査で,認知症の疑いがあると判明すると,福祉関係機関の方でも要支援者であると把握して,能動的に対応してくれると感じる。また,被疑者の認知能力等を測る上でも,大変有効であり,被疑者の高齢化が進んでいることを踏まえると,今後,より活発な利用が見込まれる。」と述べる。東京少年鑑別所で地域援助を担当する地域非行防止調整官も,「少年鑑別所法の制定により法律上明記された地域援助の業務を通じ,地域の犯罪防止・非行防止に積極的に協力したい。知能検査以外にも,性格検査を始めとした心理検査の実施や,対象者への効果的な働き掛けに関する助言を行うための専門性があり,検察庁との連携を深め,活動の幅を広げていきたい。また,検察庁以外の機関や個人に対しても,非行や犯罪に関する専門的知識・経験に基づいた相談対応を行っているので,多様なニーズに対応できる少年鑑別所の業務を,幅広く広報して,地域の方々にも利用してもらいたい。」と述べる。

高齢者を被害者とする事例としては,高齢の親に対する家庭内暴力の事案で,社会復帰支援室が,保護観察所と連携し,被疑者の特性を考慮して,自立準備ホームへの入所に至らせたものがある(自立準備ホームについては,第2編第5章第5節3項参照)。高齢の父親に暴行を加えたとして逮捕された被疑者について,簡易鑑定を実施したところ,広汎性発達障害との診断であったが,高齢の両親には,その特性に応じた適切な対応が難しく,それが暴行事案にもつながっていると考えられたため,事件担当の検察官とも相談の上,社会復帰支援室の担当職員が東京保護観察所の職員との間で綿密な調整を行い,被疑者本人の申出を踏まえて同所において更生緊急保護の措置を講じた上,社会復帰支援室の担当職員が,弁護人を交えて本人とよく話し合い,保護観察所の職員による手配で,発達障害等の障害者への対応の実績のある社会福祉法人が運営する自立準備ホームに入所させるように取り計らった。社会復帰支援室の検察官は,「家庭内暴力を行った被疑者が,発達障害や知的障害等を有していると判明しても,両親が既に高齢であると,家庭内だけで障害の特性に応じた対応をするのは難しい場合がある。専門的な知見・経験を有する施設等につなぐことによって,本人も社会復帰のための適切な支援を受けられ,家族も安心して生活できるようになることが期待される。」と,連携の意義を語った。

社会福祉アドバイザーを交えた検討状況【写真提供:東京地方検察庁】
社会福祉アドバイザーを交えた検討状況
【写真提供:東京地方検察庁】