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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第2節/1

1 英国とフィンランドにおける社会復帰支援の取組
(1)英国

英国(この節ではイングランド及びウェールズをいう。)では,刑務所収容人員が,特に1993年から2008年にかけて年平均で4.0%の勢いで増加していたことを受け,2012年には1993年の収容人員のほぼ倍となった(各年6月30日現在)。増加の要因としては,実刑が選択される事件の増加,性犯罪等に対する厳罰化の傾向に伴う刑期(収容期間)の長期化等が挙げられている。受刑者の特徴を分析した結果,2012年6月までの1年間に12か月未満の短期拘禁刑の言渡しを受けた6,000人以上の者が,10回以上の社会内刑(community sentence)の受刑歴を有していたこと,12か月未満の短期刑受刑者の約半数が,出所後1年以内に再犯に及び,それによって有罪認定又は警告等の法廷外処分を受けていること(以下この節においてこのような再犯を「1年以内再犯」という。)等,刑を科すことが必ずしも更生につながっていない実情が明らかになり,法務省は,2013年5月「更生処遇の変革:改革のための戦略」(Transforming Rehabilitation: A Strategy for Reform)を発表して,主に次の4点につき制度改正等を進めてきた。

まず,2014年犯罪者更生法(Offender Rehabilitation Act 2014)により,刑期が2年未満の受刑者に対し,釈放後,最低12か月の保護観察期間が設けられた。改正前は,12か月未満の短期刑受刑者は,刑期の半分の執行を終えると必要的に釈放されるものの,その後保護観察に付される定めがなかったことなどから,同法の制定によって,全ての受刑者に対し,12か月の実質的な保護観察期間を確保しようとしたものである。

2点目は,社会内処遇の実施主体の変更で,従来,矯正・保護行政を所管する全国犯罪者管理庁(National Offender Management Service。2017年度から,刑務所・保護観察庁(Her Majesty’s Prison and Probation Service)に名称変更)の指揮の下,全国35地域の保護観察トラスト(Probation Trust)が保護観察実務を担っていたのを,全国7地域に新設した公的組織である保護観察サービス(National Probation Service)が危険性の高い犯罪者や,性犯罪又は配偶者間暴力の前歴を有する者等の保護観察処遇を担当することとする一方,それ以外の者の保護観察処遇は,全国21地域の社会内更生会社(Community Rehabilitation Companies)が担うという制度に改めた。社会内更生会社制度は,社会的企業(本節2項参照)等の民間による柔軟な発想から効果的な支援策が講じられることを期待して導入されたもので,2014年6月の新制度開始時点では公営組織であったが,入札手続を経て,2015年2月から民間を主体とする8事業体による運営に切り替わっている。

3点目は,刑務所における受刑中から社会内更生会社による再定着サービス(resettlement service)を受けさせるなど,刑務所内処遇から社会内処遇へ切れ目なく続く社会復帰支援体制を整備した。刑務所においては,新入受刑者に対して,入所から72時間以内に出所後の社会復帰に向けてのニーズの有無を確認することとされる一方,2014年11月までに,刑務所120庁中89庁が再定着施設(resettlement prison)として指定され,できる限り多くの受刑者を,釈放の3か月前には,帰住地に近い再定着施設に移送し,当該施設を担当する社会内更生会社による社会復帰に向けた支援が受けられるようにすることとなった。

4点目は,前記の社会内更生会社による社会復帰支援業務に対する報酬について,成果を意識せず,定型的なプログラムが漫然と実施されることなどを防ぐため,対象者の再犯率の状況等の実質的成果に基づいて金額が増減される成果主義(payment by result)が導入されることとなった。

以上の改革については,保護観察サービス及び社会内更生会社への業務移管や, 2014年犯罪者更生法の施行による新規保護観察対象者数の増加等に伴い,社会内処遇の現場における混乱が大きく,新制度による再犯率の減少という成果を論ずるには時期尚早である。しかし,成果主義は,社会復帰支援事業への民間参入の動機付けとしては限定的にしか働かない可能性があること,2015年4月以降に支援対象者として各社会内更生会社に割り当てられた犯罪者の数が,入札時点で各社が予定していたよりも年間で6%から36%低くなる見込みであり,その分,社会内更生会社が実際に得られる報酬が減ることとなると,それによって各運営主体が実施する各種支援やプログラム等の質に好ましくない影響が生じかねないことなどが,今後の課題として指摘されている。

また,2017年2月には,刑務所長の施設内での保安維持,受刑者の教育,健康維持等に対する責任及び権限を明確化するなど,刑務所内での処遇改革に向けた刑務所及び裁判所法案(Prisons and Courts Bill)が国会に提出されたものの,その後国会の解散に伴い撤回されており,今後の英国における犯罪者処遇制度改革の動きを注視する必要がある。

(2)フィンランド
ア 施設内及び社会内処遇制度の概要

フィンランドでは,刑事裁判により宣告された刑の執行を法務省の管轄下にある刑事制裁庁(Criminal Sanctions Agency)が担っており,三つの刑事制裁管区ごとに未決を含む被収容者の施設内処遇を担う刑務所(prison),社会内処遇を担う保護観察所(community sanctions office)及びアセスメント・センターが配置されている。同国の刑務所には,閉鎖刑務所と開放刑務所があり,開放刑務所では,受刑者が職員による戒護なしで所内又は定められた敷地内で活動を行うことができる。アセスメント・センターは,面接等を通じて拘禁刑受刑者のリスクとニーズを評価し,刑の執行計画を作成するとともに,収容する刑務所を決定する。同国では,罰金未払による換刑としての受刑者や1年以下の短期刑受刑者等の場合は,受刑当初から開放刑務所で処遇することがあるほか,より長期の有期刑受刑者も,アセスメント・センターによる決定を経た上で閉鎖刑務所から開放刑務所へ移送するなど,受刑中の開放処遇を積極的に実施しており,2016年末の収容定員の約3分の1を開放刑務所が占めている。さらに,同国では,近年,予算の効率的な活用が求められる状況にあり,閉鎖刑務所での処遇の効率性等が疑問視されていることなどを受け,閉鎖刑務所から開放刑務所への収容定員の切替えを進めている。

併せて,可能な限り社会内で刑の執行を行うための法制度が整備されている。同国において,18歳以上の成人に対する拘禁刑は,14日以上12年以下(ただし,同時に複数の有期拘禁刑相当の犯罪について刑を言い渡す場合は,最長15年までの刑を言い渡すことができる。)の有期刑又は終身刑として言い渡されるところ,特段の指定がない限り,犯行時の年齢や受刑歴及び刑期の長短に応じた所定の割合の期間を刑務所で受刑すれば,条件付で刑期満了前に刑務所から釈放(conditional release)される。2016年に同国の刑務所(26庁)から釈放された拘禁刑受刑者(3,223人)中の98.9%が条件付釈放者であった。なお,条件付とは,釈放から一定期間内に再犯に及んだ場合,新たに犯した罪の刑期と残刑期とを一つの刑期として合算の上,猶予されることなく実刑として執行される可能性があることをいうが,残刑期が3年を超える場合(終身刑も含む。)であっても,この再犯加算がされ得る期間(probationary period)は,釈放後3年以内に限られている。

2年未満の拘禁刑の言渡しに際しては,1年以上3年以内の期間でその執行を猶予することもでき,拘禁刑の言渡しの約半数が執行を猶予されている。また,執行が猶予されない場合であっても,8か月未満の拘禁刑の場合には,その刑期の長さに応じて14時間から240時間の範囲内で,指定された奉仕場所(地方公共団体や非営利団体が運営する養護施設,病院等)で無償の仕事に従事することを内容とする「社会奉仕」(community service)に代替することができ,同国で言い渡された8か月未満の拘禁刑判決の約3分の1が,社会奉仕の執行に代替されている。

このほか,定められた住居での居住や日中の活動の計画に従うことなどの,刑務所による監督を受けることを前提に,所定の条件付釈放日又は刑期満了日より6か月を超えない範囲で通常の釈放時期より早期に釈放する「監督付自由」(supervised probationary freedom)の制度もあり,2016年には,約700人の受刑者に対し,平均して110日早い「監督付自由」での釈放が認められた。

また,保護観察所による社会内処遇の対象者としては,<1>刑の執行が猶予された者のうち,言渡しにおいて社会奉仕に付された者,<2>残刑期が1年以上の条件付釈放者,<3>犯行時21歳未満であった執行猶予者又は条件付釈放者等であり,これらの社会内における監督や社会奉仕の執行は社会内制裁(community sanctions)と呼ばれる。2016年には,1日平均約3,000人が,社会内制裁の執行を受けた。社会奉仕の適合性等に係る判決前の調査は,保護観察所が担っているところ,2016年中は,約3,000件の調査が行われた。なお,社会奉仕については,その適合性等の調査の結果も踏まえ,長期失業者や障害のある者に対して雇用の機会を提供する事業者である社会的企業(social enterprise,次項参照)を奉仕場所として指定し,執行される場合もある。

イ 多機関連携による社会復帰支援

我が国と同様,フィンランドにおいても,犯罪をした者の再犯防止に向け,就労の確保は大きな課題となっている。2016年の統計資料に基づき刑法犯で検挙された被疑者について見ると,失業者の占める割合は17.2%と,同国の総人口に占める失業者の割合(7.9%)の2倍以上となっており,年間課税対象所得についても,被疑者の平均所得は2万4,000ユーロと,同国の総人口の平均所得(2万8,800ユーロ)に比べて低く,また,5,000ユーロ未満の低所得者が23.3%(同国の総人口では10.2%)を占めている。

こうした状況を踏まえ,刑務所では,社会内の一般労働市場で必要とされる職業技能と資格の取得に力を入れており,ほぼ全ての施設において,職業訓練が行われている。主な職業訓練の種類は,建設,機械・金属加工,農林業,園芸等である。また,作業を通じた実務的な訓練だけでなく,外部の職業教育機関と連携した講義等の理論的な学習の機会も提供しており,訓練受講者が受刑中に施設外で技能試験を受けることを促したり,釈放後も資格取得に向けた取組を続けられるよう配慮している。2014年には,465人が受刑中の職業教育の対象となった。さらに,許可を受ければ,刑務所から社会内の教育機関に通って教育を受けることもできる。2014年には,141人が施設外の職業教育機関等での学習の機会を得た。

就労支援に関連した特徴的な開放処遇の取組として,「外出・外泊」(prison leaves)の制度が挙げられる。これは,拘禁刑の刑期の3分の2を経過したとき又は特に重要な理由がある場合に,受刑者本人の申請に基づき許可されるもので,社会内での訪問先等,行動の予定をあらかじめ明確にしておくことにより,刑務所から外出・外泊することができるという制度である(2か月間で最長3日)。施設によっては外出・外泊の際に電子監視装置を併用する。受刑者は外出・外泊制度を利用し,受刑中から公共雇用サービス(Public Employment and Business Service)や社会保険庁(Social Insurance Institution)等の関係機関を自ら訪れ,釈放後の就労や生活資金等について相談することができる。2016年には,受刑者から1万7,776件の外出・外泊の申請がなされ,その約8割が許可されている。なお,実際に受刑者により本制度の利用がなされた1万3,348件中,外出・外泊の条件に違反する行為があったのは491件(3.7%)であった。

このような社会復帰支援の取組において,刑事制裁庁は刑務所のみで独自の支援を提供するのではなく,国の他の行政機関や地方公共団体,民間の職業訓練教育機関等と構築した協力体制による社会復帰支援を重視している。さらに,刑事制裁庁は現在,多機関連携による就労支援等の取組として,公共雇用サービスや社会保険庁,地方公共団体等と共に新たな法律に基づくプロジェクトを立ち上げている。2014年に制定された「多機関連携サービスによる雇用促進法」(Act on Multi-sectoral Joint Service Enhancing Employability)は,受刑者に特化しない,長期失業者の雇用促進を目的とした法律であるが,受刑者には社会内で長期失業歴があったり,ヘルスケアを含む社会保障関係のサービスを受けていたりした者が多い状況に鑑み,受刑中から過去に当該対象者に関わってきた行政機関等の関係者にも参加してもらい,総合的な支援を提供しようとしている。このプロジェクトでは,多機関による集中的なアセスメントに基づき,刑終了後に当該受刑者がどのように生活するかを含む,受刑中から出所後まで一貫した一人一人のための多機関雇用計画(multi-sectoral employment plan)を作成し,そのフォローアップと達成状況の評価を実施する。同国の受刑者には薬物やアルコールへの依存の問題を有し,これが失業の背景となっている者が少なくないが,受刑中に刑事制裁庁による依存から回復するための支援等を受けることで,安定した就労が可能な状態となるため,本連携が公共雇用サービスや社会保険庁等の連携の相手機関にとっても互恵的なものとなると見込まれている。

閉鎖刑務所から開放刑務所への切替えのため閉鎖された収容棟
閉鎖刑務所から開放刑務所への
切替えのため閉鎖された収容棟