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平成29年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/2

2 薬物事犯者の指導・支援

矯正施設及び保護観察所においては,平成21年4月から,高齢又は障害を有し,かつ,適当な帰住先がない受刑者等について,釈放後速やかに,適切な介護,医療,年金等の福祉サービスを受けることができるようにするための取組として,特別調整第2編第4章第2節5項及び同編第5章第1節2項参照)を実施している。また,検察庁においても,近年,知的障害のある被疑者や高齢の被疑者等福祉的支援を必要とする者について,再犯防止・社会復帰支援の観点から,釈放時に福祉サービスに橋渡しするなどの調整を行う取組が行われている。

このような福祉的支援において,検察庁,矯正施設及び保護観察所は,厚生労働省の地域生活定着促進事業(本項(2)ア参照)により設置された地域生活定着支援センターを始めとする福祉,医療等の関係機関と連携し,対象者が必要なサービスを受けることができるようにする取組を行っている。

高齢・障害犯罪者等の福祉的支援に関与する機関の概要は,7-3-1-5図のとおりである。

7-3-1-5図 高齢・障害犯罪者等の福祉的支援に関与する機関の概要
7-3-1-5図 高齢・障害犯罪者等の福祉的支援に関与する機関の概要
(1)高齢・障害犯罪者等の指導・支援に係る取組
ア 検察庁における社会復帰支援

検察庁においては,福祉,医療等の関係機関との緊密な連携の下で,知的障害のある被疑者や高齢の被疑者等に対する社会復帰支援を実施するため,各庁の規模や実情に応じ,関係機関と継続的に連絡・調整等を行う担当職員を配置し,「社会復帰支援室」,「再犯防止対策室」等の呼称で,検察官又は検察事務官を配置している庁もある。また,東京,大阪等の地方検察庁では,社会福祉士を社会福祉アドバイザーとして採用し,検察官からの相談に応じて,地域の関係機関との連携の下,福祉的支援等に関する助言を行うなどしている。

社会復帰支援等の具体的な取組としては,対象者の帰住予定地の地方公共団体,福祉事務所等に連絡し,対象者が福祉サービスに係る手続を行う際に必要に応じ検察庁の職員が同行して支援したり,医療的な措置が必要な場合には,医療機関の紹介を受けて医療保護入院等の措置につなげるなどしている。また,捜査段階で釈放される起訴猶予者について,保護観察所がその特性に応じた更生緊急保護第2編第5章第3節参照)を実施するのに先立ち,事案の内容や被疑者の状況等に応じて,捜査中の段階から保護観察所と連携し,釈放後の安定した生活に必要な福祉サービスの受給や住居の確保等のために福祉関係機関との調整を図ったり,社会福祉士会,社会福祉協議会,地域生活定着支援センター等に協力を求め,福祉事務所その他の窓口から福祉サービスが提供されるよう調整するなどした上で,その結果も踏まえて,事件の処分を決したり,公判請求した被告人について,求刑において保護観察付全部執行猶予に付するよう意見を述べたりするなど,様々な取組を行っている。

イ 矯正施設及び保護観察所における特別調整その他の福祉的支援

矯正施設及び保護観察所が福祉,医療等の関係機関と連携した福祉的支援は,対象者が矯正施設から出所するのに備え,特別調整を中心に行われている。

特別調整の終結人員(少年を含む。以下同じ。)の推移(最近5年間)は,7-3-1-6図のとおりである。平成28年度の特別調整の終結人員は704人であり,その内訳(重複計上による。)は,高齢者377人,知的障害者234人,精神障害者207人,身体障害者103人であった。

7-3-1-6図 特別調整の終結人員の推移
7-3-1-6図 特別調整の終結人員の推移
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また,特別調整の結果,福祉施設等につながった人員の推移(最近5年間)は,7-3-1-7図のとおりである。その人員は,平成26年度以降はおおむね横ばいとなっている。28年度において福祉施設等につながった人員は468人(取下げ及び死亡を除く終結人員中の74.5%)であり,その主な内訳は,社会福祉施設279人,医療機関44人,民間住宅・公営住宅97人,その他48人であった。

保護観察所は,特別調整対象者以外の生活環境調整対象者について,適当な釈放後の住居があるものの,高齢又は障害により,釈放後に当該住居に居住しながら福祉サービス等を受けることが必要であると認めるときは,地域生活定着支援センターの長に対して協力を求めて,釈放後に福祉サービス等を受けられるよう調整している(以下「一般調整」という。)。

さらに,矯正施設における特別調整及び一般調整以外の福祉的支援として,刑期が短いなどの理由で特別調整対象者とすることが困難である受刑者や,精神保健福祉法26条に定める通報の対象者等専ら医療的な措置を必要とする者等に対しても,必要に応じて支援や調整を行っている。

7-3-1-7図 特別調整の結果,福祉施設等につながった人員の推移
7-3-1-7図 特別調整の結果,福祉施設等につながった人員の推移
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ウ 矯正施設内における各種取組
(ア)社会福祉士等の配置

刑事施設及び少年院においては,特別調整を始めとした福祉的支援を必要とする者の増加に対応するため,社会福祉士又は精神保健福祉士の資格を有する非常勤職員を配置しているほか,平成26年度からは新たに福祉専門官(社会福祉士又は精神保健福祉士の資格を有する常勤職員)を配置している。社会福祉士等の配置施設数の推移(最近10年間)は,7-3-1-8表のとおりである。27年度以降,福祉専門官の増配置が進められており,29年度は,全国で刑事施設39庁,少年院2庁に置かれている。

7-3-1-8表 刑事施設・少年院における社会福祉士等の配置施設数の推移
7-3-1-8表 刑事施設・少年院における社会福祉士等の配置施設数の推移
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(イ)社会復帰支援指導プログラム

刑事施設においては,福祉的支援が必要と認められるにもかかわらず,支援を拒否する者等が少なくないことなどから,これらの者に対し,福祉に関する基礎的な知識や社会適応力を付与し,出所後,必要に応じて福祉的支援を受けながら,地域社会の一員として健全な社会生活を送るための動機付けを高めさせることを目的として,平成26年度から,一部の刑事施設において,高齢又は障害を有する受刑者等に対する「社会復帰支援指導プログラム」の試行を開始し,29年度から全国的に展開している。同プログラムは,刑事施設の職員による指導のほか,地方公共団体,福祉関係機関等の職員や民間の専門家を指導者として招へいするなど,関係機関との連携の下で実施され,その内容は,生活能力(金銭管理,会話スキル,対人関係スキル等)の習得,動作能力・体力,健康管理能力の習得といった,日常生活を送る上で必要となる基本的な内容に関する指導のほか,各種福祉制度に関する基礎的な知識を習得させるための指導,再犯防止や出所後の生活設計に関する指導など多岐にわたっている。

(ウ)健康運動指導士による指導

高齢受刑者には,運動機能を始めとする身体的機能の低下が認められる者が少なくないところ,こうした受刑者の社会復帰に向けた意欲を喚起し,効果的に矯正処遇を実施するとともに,出所後の社会生活において必要となる体力等の維持・回復を図るため,平成29年度には,刑事施設40庁において,健康運動指導士による身体機能や生活能力を維持・向上させるための指導が実施されている。

(エ)地域連携事業

刑事施設において,認知症傾向のある受刑者の処遇を充実させるため,平成29年度から,女子施設地域連携事業(本節4項(1)参照)を参考にしながら,地域の外部専門家等と連携し,男性を収容する刑務所2庁でも同様の取組が開始されている。

(2)高齢・障害犯罪者等の指導・支援における関係機関
ア 地域生活定着支援センター

地域生活定着支援センターは,高齢又は障害により福祉的な支援を必要とする刑務所出所者等に対し,矯正施設,保護観察所,地域の関係機関等と連携・協働しつつ,矯正施設入所中から出所後まで一貫した相談支援を実施している。

地域生活定着支援センターは,地域生活定着促進事業(平成23年度までの名称は,地域生活定着支援事業)により,各都道府県に設置され,社会福祉士や精神保健福祉士等の専門的知識を持つ職員を含む6人の職員を配置することが基本とされており,<1>保護観察所からの依頼に基づき,矯正施設の被収容者を対象として,受入先となる社会福祉施設等のあっせんや福祉サービスの申請支援等を行うコーディネート業務,<2>そのあっせんにより特別調整対象者を受け入れた社会福祉施設等に対して,対象者の支援,福祉サービスの利用等について助言等を行うフォローアップ業務,<3>刑務所出所者等の福祉サービスの利用等に関して,本人やその家族,更生保護施設,地方公共団体,福祉事務所その他の関係者からの相談に応じて,助言や必要な支援を行う相談支援業務等を実施している。

イ 更生保護施設

更生保護施設(第2編第5章第5節2項参照)においては,高齢又は障害を有する保護観察対象者を多く受け入れている。7-3-1-9図は,保護観察が開始された時点で更生保護施設を住居とした高齢者,精神障害を有する者の人員の推移(最近10年間)を属性別に見たものである。高齢者は平成21年から,精神障害を有する者は23年から,それぞれ大幅に増加している。

7-3-1-9図 高齢者・精神障害を有する者 更生保護施設を住居とした保護観察開始人員の推移(属性別)
7-3-1-9図 高齢者・精神障害を有する者 更生保護施設を住居とした保護観察開始人員の推移(属性別)
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更生保護施設のうち,71の施設が特別処遇の役割を担う施設(指定更生保護施設)に指定されている(平成29年4月1日現在)。特別処遇は,矯正施設出所者等のうち,高齢又は障害を有する者であって,かつ,適当な住居のない者を更生保護施設に一時的に受け入れて高齢や障害の特性に配慮しつつ社会生活に適応するための指導を行うものであり,直ちに必要な福祉サービスを受けることができるようにすることを目的としている。指定更生保護施設では,社会福祉士等の職員の配置や,バリアフリー等の必要な施設整備等がなされ,高齢又は障害を有する者の特性に配慮した社会生活に適応するための指導,医療機関と連携した健康維持のための助言等に加え,地域生活定着支援センターや移行先施設等に対する特別処遇対象者の心身の状況や生活状況に関する情報の伝達,生活保護の申請の支援など,特別処遇対象者が指定更生保護施設を退所した後に円滑に福祉サービスを受けることができるようにするための調整が行われる。

また,特別調整による調整の結果,社会福祉施設等の帰住予定地が確保できたものの,受入施設等の事情により矯正施設からの釈放後直ちには受入施設に入居できないような特別調整対象者についても,一旦指定更生保護施設において受け入れ,特別処遇を実施することがある。

ウ 自立準備ホーム

自立準備ホーム第2編第5章第5節3項参照)は,特別調整において福祉施設等の帰住先を調整中の高齢又は障害を有する受刑者等について,矯正施設に入所中に調整できなかった場合や,矯正施設からの出所後直ちに調整した福祉施設等への入所ができない場合の一時的な受入先としても活用されている。

エ 福祉等の関係機関

検察庁における知的障害のある被疑者や高齢の被疑者等に対する社会復帰支援,矯正施設及び保護観察所における特別調整等の福祉的支援においては,対象者の福祉的ニーズに応じて,本人が行う生活保護の申請・受給,要介護認定,障害者手帳(療育手帳,身体障害者手帳及び精神障害者保健福祉手帳)の申請・取得,障害支援区分認定,各種福祉サービスの利用等について,その窓口となる地方公共団体の福祉関係部局や福祉事務所の協力を得ながら支援を実施しているほか,事案に応じて,地域包括支援センター,障害相談支援事業者,保健所・医療機関等に相談し,その協力を受けるなど,多機関連携による支援を実施している。

また,矯正施設からの出所後等に受入先となる社会福祉施設には,生活保護法(昭和25年法律第144号)に基づく救護施設,医療保護施設,授産施設等,介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく介護老人福祉施設,介護老人保健施設等,障害者総合支援法に基づく障害者支援施設等様々な施設があり,刑務所出所者等がそれぞれの特性に応じ社会で生活するために必要な福祉サービスを受ける重要な施設となっている。

(3)刑事司法と福祉をつなぐ社会福祉士等

検察庁,刑事施設,少年院及び更生保護施設に配置されている社会福祉士及び精神保健福祉士は,地方公共団体を始め上記の関係機関との窓口として,高齢・障害犯罪者等に対する福祉的支援において,刑事司法と福祉をつなぎ,対象者を福祉サービスに橋渡しするとともに,地域における関係機関の支援ネットワークを構築する上で,重要な役割を担っている。

(4)地方公共団体が主導する新たな取組

検察庁,刑事施設,少年院等が高齢・障害犯罪者等に対する福祉的支援を実施するに当たり,地方公共団体から福祉サービスの提供等に係る協力を受けるなど,地方公共団体は,地域における更生支援のネットワークの重要な機関である。近年は,地方公共団体が,高齢・障害犯罪者等の更生支援に関与する関係機関のネットワークを構築・運営し,そのネットワークを活用して対象者への更生支援を実施し,併せて市民への広報・啓発活動を行ったり,地方公共団体の福祉保健総合計画や福祉関係機関の協議会の枠組みに高齢・障害犯罪者等の更生支援を盛り込むなど,地方公共団体が主導する新たな取組が始まっている。