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平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節/2

2 再犯防止に向けた総合対策の概要

総合対策では,より総合的かつ体系的な再犯防止対策を構築するに当たり,特に重要と考えられる課題として,「個々の対象者の特性に応じた取組の実施」,「再犯要因分析に基づく施策の重点実施」,「可能な限り具体的な目標設定及びその達成のための仕組みづくり」という三つの視点を強調した上で,当時の再犯の状況と課題を踏まえ,再犯防止のための重点施策として,以下の四つを掲げている。各重点施策とその構成を俯瞰すると,5-2-1-1図のとおりである。

5-2-1-1図 再犯防止のための重点施策
5-2-1-1図 再犯防止のための重点施策
(1)対象者の特性に応じた指導・支援の強化

総合対策は,個々の対象者の特性に応じて,実証的研究及び根拠に基づいた効果的な処遇を強化するとともに,刑務所等での処遇と社会内での処遇との有機的な連携を確保することを重点施策とし,<1>少年・若年者及び初入者,<2>高齢者・障害者,<3>女性,<4>薬物依存の問題を抱える者,<5>性犯罪者,<6>暴力団関係者等再犯リスクの高い者という六つの類型について,対象者の特性に応じた指導及び支援の強化を求めている。そこで,次節以降では,この六つの類型ごとに,近年における施策の概要や法務総合研究所における研究の内容を概観するとともに,指導及び支援の具体例を紹介する。

(2)社会における「居場所」と「出番」の創出

総合対策は,対象者の社会復帰を促進し,孤立化や社会不適応に起因する再犯を防止するため,誰もが「居場所」と「出番」のある社会において,刑務所出所者等が,健全な社会の一員としてその責任を果たすことができるよう,適切な生活環境と一定の生活基盤を確保することを重点施策にしている。

ア 住居の確保

総合対策では,行き場のない者の住居を確保するため,更生保護施設の受入れ機能の強化,民間の自立準備ホーム等の多様な一時的帰住先の確保に努めること,また,刑務所出所者等が地域において住居を自力で確保できるよう,保護観察における生活指導を強化するとともに,住居の確保に資する知識・情報の提供を行うこととされている。さらに,協力雇用主のうち,住み込みでの受入れに積極的な事業主を確保・開拓するなど,就労と結び付く住居の安定的な確保策について検討することが求められている。

住居の確保については,従前より,保護観察所において,刑事施設等に収容された者に対し,収容の早い段階から釈放後の適切な住居の確保等,改善更生と社会復帰にふさわしい生活環境をあらかじめ整えるための生活環境の調整(第2編第5章第1節2項参照)がなされてきたが,平成21年度から,法務省と厚生労働省が連携し,高齢又は障害を有し,かつ,適当な帰住先がない受刑者等に対する特別調整第2編第4章第2節5項参照)が実施されている。刑事施設や少年院では,特別調整の実施体制を強化するため,常勤又は非常勤の社会福祉士等を配置し,関係機関からの依頼や受刑者等の必要性に応じ,円滑な社会復帰に向けた帰住調整等を実施している(詳細については,本章第3節1項参照)。

さらに,保護観察所においては,更生保護施設の収容定員には限界があることなどを踏まえ,平成23年度から,自立準備ホームの登録事業者として,NPO法人等からの新規参入を促進し,保護観察対象者の多様な特性に応じた受入先の確保を図るとともに(第2編第5章第5節3項参照),25年度から,薬物処遇重点実施更生保護施設第2編第5章第5節2項参照)の指定を開始するなど,更生保護施設の受皿としての機能を拡充することにより,出所した後に帰るべき場所のない刑務所出所者等の受入れの促進に努めている。

更生保護施設の外観と居室の様子【写真提供:法務省保護局】
更生保護施設の外観と居室の様子
【写真提供:法務省保護局】
イ 就労の確保

総合対策では,就労先の確保から就労後の職場定着支援までを一貫して行う取組や刑務所出所者等総合的就労支援対策(第2編第4章第2節4項参照)による支援策をより柔軟かつ積極的に活用し,きめ細かな就業相談・紹介等を一層強力に推進することにより,刑務所出所者等の就労支援・雇用確保を充実・強化することとされている。また,刑務所出所者等の雇用上のノウハウや成功事例に関する情報を広く事業者等に提供することにより,実際に刑務所出所者等の雇用先となる協力雇用主を確保することなどが求められている。

刑務所出所者等総合的就労支援対策は,平成18年度から,法務省と厚生労働省の連携により実施されており,刑事施設や少年院において,キャリアコンサルタント等の資格を有する就労支援スタッフを拡充するとともに,支援対象者に対する重点的な就労支援が実施されている。また,25年2月には,民間企業等による「職親プロジェクト」が発足し,官民一体となって少年院出院者や刑務所出所者の社会復帰支援が進められているほか,26年2月からは,「受刑者等専用求人」の運用が開始されている(第2編第4章第2節4項参照)。27年度からは,全国5か所の刑事施設において,公共職業安定所の相談員を駐在させる取組が試行され,28年度は新たに7庁を加えた12庁で実施されている。さらに,受刑者等の就労先を在所中に確保し,出所後速やかに就労に結びつけるため,28年度には,東京矯正管区及び大阪矯正管区に矯正就労支援情報センター室(通称「コレワーク」)が設置され,同室において,全国の受刑者等の職歴,資格,帰住予定地等の情報を一括管理し,出所者等の雇用を希望する企業からの相談を受けて,当該企業の雇用条件に適合する者がいる矯正施設の情報を提供するなど,広域的な就労支援等に取り組んでいる。このほか,刑事施設においては,社会の雇用ニーズ等を踏まえた効果的な職業訓練の実施に努めている(第2編第4章第2節2項(5)参照)。

保護観察所においては,平成23年度から,一部の保護観察所において更生保護就労支援モデル事業を開始し,28年度は,実施庁を18庁に拡大して更生保護就労支援事業として実施し(第2編第5章第2節2項(4)参照),地域の雇用情勢等の情報を活用した支援を行うとともに,協力雇用主の新規開拓や研修等を行っている。また,協力雇用主のもとに雇用された者の職場定着の促進及び協力雇用主の不安等の軽減を図るため,25年5月から,職場定着協力者謝金を支給する取組が実施され,27年度からは,これを更に発展させた刑務所出所者等就労奨励金制度が導入され,出所者等を実際に雇用して,就労継続に必要な生活指導等を行う協力雇用主に対し,年間最大72万円(最長1年間)の奨励金を支給するなど,協力雇用主に対する経済的支援を充実・強化している(第2編第5章第5節4項(3)参照)。これらの取組もあり,24年に9,953社であった協力雇用主数は,28年4月1日には1万6,330社と64.1%増加しており,同期間に,協力雇用主に雇用されている保護観察対象者数も758人から1,410人へと86.0%増加した(法務省保護局の資料による。)。

このほか,法務省等の国の機関においても,平成25年5月から,保護観察対象者を非常勤職員として雇用する取組が実施されており(第2編第5章第2節2項(4)参照),27年度は少年鑑別所10庁においても保護観察対象者を非常勤職員として雇用している。

(3)再犯の実態や対策の効果等の調査・分析等

総合対策では,再犯の実態や対策の効果等について,これまでの各機関における調査・分析の成果をいかしつつ,適切な指標を選定したデータ等により把握し,それに基づいて効果的な施策を選択し,必要な資源を集中させ,総合的かつ一貫した観点から施策を実施することが求められている。また,関係機関が個々の対象者に対し一貫性のある処遇を行うとともに,実施された処遇の効果を事後的に検証し,更に効果的な対策につなげるため,刑事手続等の各段階におけるデータの収集の在り方等について検討するとともに,保有している各種資料やデータベース等の利活用を含め,広範かつ有機的な情報連携体制を構築することとされている。

再犯の実態や対策の有効性等に関する総合的な調査研究については,関係部局における処遇効果の検証が行われているほか,法務総合研究所においても,平成21年に公表した研究部報告42で「再犯防止に関する総合的研究」を行い,戦後約60年間にわたる統計資料等に基づき,犯罪・再犯の長期的傾向や罪名別・年齢層別の傾向の分析等を通して,再犯防止に係る課題の抽出を試みている。このほか,法務総合研究所では,再犯防止に関する調査研究(19年版犯罪白書,21年版犯罪白書)を行うとともに,対象者の特性に応じた各種の調査研究を実施しており,その概要については,次節以降で紹介する。

また,法務省では,検察・矯正施設・保護観察所等が保有する情報の一部を共有し,対象者の指導や処遇効果の検証に活用するため,刑事情報連携データベースシステムを開発し,その運用に向けた準備作業を進めている。その概要は,5-2-1-2図のとおりである。

5-2-1-2図 刑事情報連携データベースシステムの概要
5-2-1-2図 刑事情報連携データベースシステムの概要
(4)国民に理解され,支えられた社会復帰の実現

総合対策は,再犯防止のためには,一たび犯罪に陥った人を異質な存在として排除したり,社会的に孤立させたりすることなく,長期にわたって見守り,支えていくことが必要であり,また,社会の多様な分野において,相互に協力しながら一体的に取り組むことが必要であることから,広く国民に理解され,支えられた社会復帰を実現することを重点施策としている。

犯罪予防のための啓発活動として,これまで,法務省の主唱による「社会を明るくする運動」を始めとする広報啓発活動が実施されてきたが(第2編第5章第5節5項参照),再犯の実情や再犯防止対策の概要等についても,国民に分かりやすく説明し,国民の理解や具体的な支援・協力を促進することが重要である。こうした観点から,刑事施設においては,施設の参観希望者を積極的に受け入れており,また,保護観察所においては,福祉等との連携の重要性に鑑み,福祉関係の有資格者や学生を対象とした「保護観察官による更生保護出張講座」を実施している。さらに,平成27年,法務大臣等を隊長とする「再犯防止キャラバン隊」が,福岡県,宮城県,広島県を訪問して,地方自治体や経済団体の代表者等に対する広報を行った。

また,保護司については,その職務の重要性にもかかわらず,近年,高齢化が進行し,定年による退任者の増加が見込まれる一方,地域社会の人間関係の希薄化等の影響により,都市部を中心に後継者確保が困難になっていることから,法務省保護局において保護司適任者の安定的な確保に向けた指針を策定している。さらに,保護司が関係機関等と連携しながら活動するための地域の拠点となる更生保護サポートセンターの拡充が進められており,平成27年度は101か所増設され,合計で446か所に整備されるなど,保護司制度の基盤整備が図られており,長らく減少傾向にあった保護司の数は,28年には増加に転じている(第2編第5章第5節1項参照)。

広報・啓発用CM動画 鉄拳のパラパラマンガ「社会を明るくする運動」より【提供:法務省保護局】
広報・啓発用CM動画 鉄拳のパラパラマンガ「社会を明るくする運動」より
【提供:法務省保護局】