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 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/2 

2 裁判の執行

(一) 死刑の執行

 死刑の言渡しを受けた者は,拘置所または刑務所内に拘禁され,原則として,判決確定後六か月以内に,法務大臣の命令によって執行されることになっている。しかし,上訴権回復請求,再審請求,非常上告または恩赦の出願もしくは申立がなされたとき,および共同被告人の事件が係属中であるときは,これらの手続が終了するまでの期間は,この六か月の期間に算入しないとされ,さらに死刑囚が心神喪失または妊娠中であるときは,その状態がなくなるまで刑の執行は停止される。死刑の執行は,拘置所または刑務所内の刑場で,絞首して行なわれる。
 昭和三四年から昭和三八年までの五年間に死刑を執行された一一三人について,罪名区分別をみると,II-22表のとおりである。すなわち,強盗殺人,強盗致死が大半で,総数の八二・三%を占め,一般の殺人が,それについで一四・一%となっている。そのほかは,尊属殺人と強盗強かん致死であるが,その数はいずれもわずか二人である。わが国における死刑は,ごくかぎられた罪種について,慎重審理のうえ言い渡されることはもちろんであるが,死刑判決の確定したのちも,再審等の請求,恩赦の出願,あるいは執行停止事由の有無等をきわめて慎重に審議検討したうえで執行されるので,通常,確定から執行までには相当な期間を経過している。

II-22表 死刑執行人員(昭和34〜38年)

(二) 自由刑の執行

 懲役は,刑務所に拘置して定役に服させ,禁錮は刑務所に拘置し,拘留は拘留場に拘置して執行する。この刑の執行を指揮するのは,検察官である。昭和三四年から昭和三八年までの五年間における自由刑の執行指揮の状況は,II-23表のとおりであるが,懲役刑の執行指揮人員が漸減の傾向にあり,反対に,禁錮刑の執行指揮人員が漸増の傾向にあるのが目だっている。

II-23表 自由刑の執行人員(昭和34〜38年)

 ところで,自由刑の執行指揮に際し,勾留中であるなど身柄が拘禁されている被告人については,検察官の執行指揮により,そのまま自由刑の執行に切りかえられる。しかし,拘禁されていない被告人については,検察官が執行のため呼びだし,呼出に応じなければ,収監状を発して収監することが必要となる。後者の場合,自由刑の執行をまぬがれるため,その所在をくらまし逃亡する者(以下これを遁刑者と呼ぶ)もまれではない。かような遁刑者の実態について,法務総合研究所は法務省刑事局の協力を得て,全国調査を実施したが,その調査結果の主な点を述べると,次のとおりである。
(1) 昭和三九年五月三一日現在の遁刑者は,六五五人である。
(2) 右遁刑者につき,逃走時の身柄の状態別に区分すると,保釈中が約六〇%,在宅が約一七%,勾留執行停止中が約一六%となっている。
(3) 国籍別にみると,日本人が約七二%,朝鮮人が約二五%である。
(4) 罪名についてみると,窃盗が約三〇%,詐欺が約一二%,賍物罪,恐かつおよび傷害各約七%,強盗約四%,殺人約三%である。
(5) 刑期についてみると,一年以下の刑が約四八%,一年をこえ三年以下の刑が約三六%である。
(6) 前科の有無についてみると,前科者が約七〇%を占めている。
(7) 逃走期間についてみると,一年以下は約二六%,一年をこえ三年以下が約三〇%,三年をこえ五年以下が約二二%,五年をこえるものが約四二%となっている。
 なお,昭和三六年に法務省刑事局が行なった全国調査によると,同年七月三一日現在の遁刑者は,九〇三人であったが,前記昭和三九年の調査の際には,右九〇三人のうち,三三三人が逮捕収監されている。

(三) 財産刑の執行

 財産刑の裁判も,自由刑のそれとおなじく,検察官の指揮または命令によって執行する。財産別のうち,その主要なものである罰金および科料について,最近五年間のうち,昭和三四年,同三六年および同三八年の調定件数および調定金額をみると,II-24表(1)(2)のとおりである。これによると,罰金は,件数も金額も急激な上昇を示している。反面,科料は大幅な減少をみせていることがわかる。この理由については,既に本章二の1「裁判の概況」において述べたとおりである。

II-24表

 次に,昭和三八年度における罰金および科料の調定件数と調定金額に対する徴収状況についてみると,II-25表のとおりで,罰金の未済率は六・九%,科料の未済率は三・七%である。なお,罰金調定件数の〇・二%および科料調定件数の二・六%が徴収不能決定となっているが,これは主として罰金および科料の刑が確定した者が所在不明のため,刑の時効が完成したことによるものと思われる。

II-25表 罰金および科料の徴収状況(昭和38年)