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平成24年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/2

2 適当な住居がない者に関する取組
(1)更生保護施設

ア 更生保護施設の沿革及び現在の配置・収容人員

更生保護施設は,頼るべき親族等がいない者,生活環境に恵まれない者,あるいは,本人に社会生活上の問題があるなどの理由で,すぐに自立更生ができない刑務所出所者等を保護して,その円滑な社会復帰を支援している施設である(第2編第5章第5節2項参照)。

その先駆けは,明治21年(1888年)に,静岡の民間事業家である金原明善が,更生を誓って刑事施設を出所した者が,行き場がなく自害したとの実話に接し,そうした者を社会の中で保護するため,「静岡県出獄人保護会社」を設立し,刑務所出所者に衣食住を提供したことと言われている。以後,民間篤志家や宗教家による釈放者保護事業が発展し,明治後期及び大正期の大規模恩赦の実施を契機に,刑務所出所者を保護する民間施設(団体)が急増した。

その後,昭和25年に公布,施行された更生緊急保護法によって,こうした保護施設(団体)は「更生保護会」と規定されるとともに,国が保護を委託した場合は,委託費が支給されるなど現在の制度の基礎が作られ,さらに,平成8年の更生保護事業法施行により,更生保護法人制度が創設され,更生保護会が「更生保護施設」に改称されるなどし,今日に至っている。

平成24年4月1日現在,更生保護施設は全国に104施設ある。その内訳を見ると,男子施設90,女子施設7及び男女施設7となっている。収容定員の総計は2,329人であり,男子が成人1,834人と少年314人,女子が成人134人と少年47人である。施設ごとの定員は,4人から110人と幅が広いが,定員が15人以上20人以下である施設が約7割(69施設)である。運営母体は,20年までは更生保護法人のみであったが,24年においては,更生保護法人により101施設,社会福祉法人,特定非営利活動法人及び社団法人によりそれぞれ1施設が運営されており,近年において,運営母体の拡大が見られる。


更生保護施設の外観と居室の様子
更生保護施設の外観と居室の様子

7-2-2-2図は,更生保護施設の分布状況を都道府県別に示したものであり,全ての都道府県に少なくとも1施設設置されているものの,女子施設及び少年施設が少ないこと,東京都には20施設,北海道に8施設,福岡県に7施設,愛知県に6施設等,複数の施設がある都道府県も見られる一方,1施設のみの県も多く,設置場所が偏在していることが分かる。


7-2-2-2図 更生保護施設の分布状況
7-2-2-2図 更生保護施設の分布状況

イ 入所者・退所者の状況

7-2-2-3図は,更生保護施設に新たに委託を開始した人員の推移(昭和53年〜平成23年)を示したものである。仮釈放者の人員は,昭和60年前後には5,000人を超えていたが,平成元年以降は,4,000人前後で推移し,23年は3,820人であり,収容委託人員に占める仮釈放者の人員の比率は,近年において55%前後である。刑の執行終了者の人員は,昭和50年代から平成14年にかけて緩やかに減少し,近年は1,000人前後で推移しており,収容委託人員に占める刑の執行終了者の人員の比率は,14年(10.2%)以降緩やかな上昇傾向にあり,23年は16.0%である。仮釈放者又は刑の執行終了者以外の者は,人員,収容委託人員に占める比率ともに,10年頃から,増加,上昇傾向にある。


7-2-2-3図 更生保護施設への収容委託人員の推移
7-2-2-3図 更生保護施設への収容委託人員の推移

7-2-2-4図は,昭和48年度から平成23年度までの年間収容人員を,実人員及び延べ人員で見たものである。年間の被保護者の実人員は,3年度(6,954人)を底として,以後増加と減少を繰り返しながら緩やかに増加し,23年度において8,624人であるところ,延べ人員は,2年度(46万9,017人)を底として,以後ほぼ一貫して増加し,23年度において67万4,650人である。被保護者の平均在所日数(延べ人員を実人員で除した数)が延びており,経済情勢の悪化による就職難等から,被保護者の自立が困難になっている状況がうかがえる。


7-2-2-4図 更生保護施設被保護者実人員・延べ人員の推移
7-2-2-4図 更生保護施設被保護者実人員・延べ人員の推移

7-2-2-5図は,平成23年度における,更生保護施設退所者の状況(在所期間及び退所時の職業)を示したものである。在所期間を見ると,86.3%の者が6月未満で退所しており,1月未満での退所者も22.4%と少なくない。退所時の職業は,労務作業が40.9%と最も多い。なお,退所者の8割以上は円満退所しており,退所者の主な退所先は,借家(28.1%),就業先(17.4%),親族・縁故者(14.8%)であって,更生保護施設が,自立のため,あるいは,親族・縁故者等との関係の再構築のための機能を果たしていることがうかがえる(法務省保護局の資料による。)。


7-2-2-5図 更生保護施設退所者の状況
7-2-2-5図 更生保護施設退所者の状況

ウ 更生保護施設の運営

7-2-2-6図は,平成22年度における全国の更生保護施設の経常収入及び支出を項目ごとに合計し,それぞれが総収入及び総支出に占める割合を算出したものである。更生保護施設の運営形態は,施設規模の違いや少年の受入れの有無,収益事業の有無等によって様々であるが,収入においては更生保護委託費が大部分を占めていること,支出においては人件費等の事務費,食費や水道光熱費等の宿泊保護費が多くを占めているという特徴がある。


7-2-2-6図 全国更生保護施設の経常収入・支出
7-2-2-6図 全国更生保護施設の経常収入・支出

エ 更生保護施設における処遇

更生保護施設では,刑務所出所者等に対して,基本的な処遇として,生活指導,金銭管理指導,交友関係に関する指導,就労に関する指導,飲酒に関する指導,福祉や医療のあっせん等が行われている。さらに,更生保護施設ごとに,刑務所出所者等の問題性や,社会復帰のためのニーズに応じた処遇が行われている。その主なものとして,薬物や飲酒の問題を持つ者に対し,それらに依存しない生活を維持することを目的とする「酒害・薬害教育」,対人関係をうまく築くことができない者等に対して,対人場面での適切な振る舞い方等を体験的に学ぶ「生活技能訓練(SST)」,心情の安定を図るため,雑誌などから好きなイラストや写真を切り抜いて台紙に貼ることで,言葉にできない感情等を表現する「コラージュ療法」(芸術療法の一種),自立の準備のための「料理教室」,「就労支援講座」,「法律相談会」等がある。平成23年度においては,34の更生保護施設が酒害・薬害教育を,42の更生保護施設がSSTを,15の更生保護施設が就労支援講座を,8の更生保護施設がコラージュ療法を,7の更生保護施設が法律相談会を実施している(法務省保護局の資料による。)。このほか,定期的に地域の清掃活動を行ったり,絵手紙,書道,工芸等の教養講座を設けて余暇の善用を指導したり,餅つきやクリスマス会等の行事により生活意欲の向上を図るなど,様々な取組がなされている。


更生保護施設におけるミーティングの様子
更生保護施設におけるミーティングの様子

更生保護施設におけるパソコン教室の様子
更生保護施設におけるパソコン教室の様子

事例1 専門家の協力を得て,酒害・薬害教育を行っている事例

女性を対象とする更生保護施設Aでは,薬物やアルコール等の依存の問題を抱える在所者が多いことから,専門家の協力を得て,薬物問題を含め,女性に必要な精神保健知識を学ぶための勉強会を,10年以上にわたり行っている。勉強会は,月1回,平日の夜間に開かれ,原則として在所者が全員参加している。内容は,薬物問題,アルコール依存,ギャンブル,異性問題,心身の健康等をテーマにした専門家(精神科医,保健師,臨床心理士,弁護士等)による講義と,質疑応答が主であり,必要に応じ,SSTやロールプレイ等も行われている。その他,薬物事犯者に対しては,薬物依存症リハビリテーション施設の協力を得た勉強会を,アルコールの問題を持つ者に対しては,アルコール依存症者の自助グループの協力を得た勉強会を,ギャンブルの問題を持つ者に対しては,女性のギャンブル等の問題のリハビリテーションセンターの協力を得た勉強会を,それぞれ実施し,在所者が,自らの気持ち,考え及び問題点を認識し,その改善に向けて取り組むとともに,問題を一人で抱え込まず,必要なときに周囲に助けを求める力を高めることを目指している。


事例2 SSTを取り入れた処遇を行っている事例

成人男性を対象とする更生保護施設Bでは,コミュニケーション能力の改善,社会性の涵養を目的に,15年以上前から,生活指導にSSTを取り入れている。指導は,月に2回,週末の午前中に実施しており,原則として,施設在所者は全員参加としている。指導者には,研さんを積んだ施設職員のほか,精神保健福祉士等の専門家を招いており,また,近隣にある大学の学生が,ボランティアで,記録係等として参加協力している。SSTで取り上げる課題は,就職面接場面を想定したものや,頼みごとの仕方や誘いかけの断わり方等,参加者のニーズを反映したものとし,ロールプレイや討議などにより,理解を深めている。参加者は,会場(施設の食堂兼娯楽室を利用)の準備や後片付けを自主的に行っており,参加回数を重ねるにつれて自信や積極性を高めていくことが多い。


事例3 職場体験実習等を行っている事例

少年男子を対象とする更生保護施設Cは,昭和30年代の創設以来,敷地内に自動車整備工場を設置し,職業訓練(職場体験)の場を提供している。施設在所少年は,原則として,月曜日から土曜日にかけて,午前3時間半及び午後4時間,自動車整備士の資格を持った作業指導員の下で,職業訓練の実習を受け,働く習慣や社会人として必要なマナー等を身につけ,自立のための準備に取り組んでいる。また,この施設では,自宅等がある少年で,不就労や就業状態が不安定なものについて,1週間から1か月程度の短期間受け入れて職業訓練を施し,就労に必要な生活習慣や職業観を養い,職業人としての基本的な知識を付与するワークキャンプも実施している。こうした実習のほか,施設では,保護司や更生保護女性会の協力の下で,料理教室,基礎学力向上のための学習教室,パソコン教室等が実施されている。さらに,家族関係に問題を抱える少年や,退所後はアパート等を借りて自立する予定の少年が多いことから,施設内には,離れて暮らす家族(保護者等)との面会や保護者の宿泊(在所少年との試験的同居)のための居室と,独立した台所と浴室を備えて一人暮らしの練習ができる居室とが備えられており,就労能力の向上に加え,家族関係の調整や自活能力習得のための取組がなされている。


オ 刑事施設から福祉施設等への移行の間の一時的入所施設としての役割

平成21年度から,法務省及び厚生労働省が連携し,適当な帰住先がなく,かつ,高齢又は障害により直ちに自立することが困難である受刑者等に対する地域生活定着支援事業が開始されたが(本項(4)参照),この事業においては,出所後直ちに福祉による支援を受けることが困難な者は,一旦更生保護施設において受け入れ,福祉への移行準備及び社会生活に適応するための指導や助言を行うことになった。その役割を担うために指定された57の施設(指定更生保護施設)では,福祉の専門資格等を有する職員の配置や,バリアフリー等の必要な施設整備等を行っている。


事例4 指定更生保護施設における取組事例

社会福祉法人が営む指定更生保護施設D(男女ともに対象)は,福祉事業で培ってきたノウハウとネットワークを生かし,高齢又は障害のある刑務所出所者等を中心に受け入れている。施設の建物は,閉鎖した知的障害者入所型施設を転用しており,バリアフリーを始め,高齢者又は障害者を受け入れるために必要な配慮や工夫がなされている。施設では,在所者の特性を見極め,基本的な生活訓練やコミュニケーション指導,健康管理指導や,地域奉仕活動,レクリエーション活動等が行われている。「ふつうの場所でふつうの暮らしを」の実現を目指し,福祉サービス事業所(生活介護,自立訓練,就労移行支援,グループホーム,ケアホーム等)の見学や体験実習等の実施等により,地域生活に適応するための福祉的支援や退所後にサービスを利用する福祉事業所の調整等を行っており,刑事施設出所後,必要な福祉サービスを受けつつ,円滑に地域での生活を始めることができるよう,刑事施設と地域生活をつなぐ架け橋としての役割を担っている。


(2)自立更生促進センター

自立更生促進センターは,親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的とする施設であり,これまでに全国に4庁が開設されている(第2編第5章第2節2項(7)参照)。開所の日から平成24年3月31日までの入所人員は,北九州自立更生促進センター(21年6月開所)は67人,福島自立更生促進センター(22年8月開所。東日本大震災により収容業務を停止した時期がある。)は15人,沼田町就業支援センター(19年10月開所)は28人,茨城就業支援センター(21年9月開所)は39人である。退所者の状況を見ると,4庁それぞれの開所の日から24年3月31日までの退所者合計137人のうち,104人(75.9%)は,所定の入所期間の満了により退所している。退所後の住居を見ると,同じく退所者合計137人のうち,アパート・社員寮が59人(43.1%),親族宅(父母のもとを含む。)が36人(26.3%)となっている。なお,退所時の就労状況は,就職予定が68人(農業関係に就職を予定する15人を含む。),求職中が39人であった(法務省保護局の資料による。)。

(3)緊急的住居確保・自立支援対策

ア 緊急的住居確保・自立支援対策とは

刑務所出所者等で,適当な住居の確保が困難な者に対しては,これまで,更生保護施設への入所,協力雇用主(第1節3項(1)参照)等のもとへの住み込み就労及び自立更生促進センターへの入所等の措置がなされてきたが,前記のとおり,更生保護施設の収容には限界があることなどから,社会の中に更に多様な受け皿を確保する方策として,平成23年4月から,「緊急的住居確保・自立支援対策」が開始された。

これは,あらかじめ保護観察所に登録した民間法人・団体等の事業者に,保護観察所が,宿泊場所の供与と自立のための生活指導(自立準備支援)のほか,必要に応じて食事の給与を委託するものである。この宿泊場所を,「自立準備ホーム」と呼び,その形態は,事業者が管理する施設,一軒家,アパートの一室等様々である。


イ 自立準備ホーム

平成23年度における自立準備ホームの登録事業者は166事業者であり,事業者は,社会福祉法人,一般社団法人,特定非営利活動法人,会社法人,任意団体といった様々な法人,団体あるいは個人である。自立準備ホームの形態は,ホームレス等の生活困窮者支援を行う特定非営利活動法人が所有するアパート,社会福祉法人等が運営する障害者の施設やグループホーム,児童福祉法上の児童自立援助ホーム,宗教法人や薬物依存者の自助グループが管理する施設等様々である。薬物の問題を有している者については,薬物依存者の自助グループに委託することや,家庭環境に問題がある少年(少女)については,児童の福祉に精通した事業者に委託するなど,登録事業者が有している専門性や処遇のノウハウを,刑務所出所者等の改善更生に活用することが期待できる。

なお,平成23年度の委託実績は,新規に委託を開始した人員が799人,延べ人員が4万8,149人であり,平均すると一人につき約60日間の委託がなされていることとなる(法務省保護局の資料による。)。

(4)高齢者・障害者等に対する福祉的支援への橋渡し

ア 制度の概要

刑務所出所者等の中には,高齢又は障害により,自立が困難で身寄りがなく,福祉的支援が必要でありながら,適切な支援を得ることができないまま出所し,円滑な社会復帰を果たす上で困難な状況に陥っている者が少なからず存在することが,平成18年に法務省が実施した特別調査等により,明らかにされている。

そうした状況を改善し,矯正施設の被収容者のうち,高齢又は障害を有し,かつ,適当な帰住先がない者について,釈放後速やかに,適切な介護,医療等の福祉サービスを受けることができるようにするため,平成21年4月から,法務省は,厚生労働省と連携し「特別調整」を実施している。この取組の中心となるのは,厚生労働省の地域生活定着支援事業(24年度において,地域生活定着促進事業)により整備が進められた地域生活定着支援センターであり,司法と福祉との多機関連携による支援が目指されている点に大きな特色がある(第2編第5章第1節参照)。

具体的には,まず,矯正施設が,この取組による支援が必要と思われる被収容者を矯正施設所在地の保護観察所に通知し,通知を受けた保護観察所において,その者との面接等により,本人の意向や状況を確認し,特別調整の対象者とするか否かを判断する。その者を特別調整の対象者と選定した場合には,保護観察所は,その者が適切な各種福祉サービス(障害者手帳の発給,社会福祉施設への入所等)を得ることができるよう,矯正施設所在地の都道府県の地域生活定着支援センターに協力依頼をし,地域生活定着支援センターにおいて,受入先等の調整を行う。被収容者の中には,矯正施設所在地以外の都道府県での生活を希望する者もおり,必要に応じて,本人が希望する都道府県の地域生活定着支援センターが調整を行う。また,矯正施設を出所後に福祉施設に帰住(入所)することが決まった場合であっても,受入施設等の事情により,出所後直ちに帰住(入所)することができないような場合には,指定更生保護施設において一時的に受け入れ(本項(1)参照),受入施設の調整や,福祉サービスを受ける準備が続けられる。7-2-2-7図は,この一連の手続の概要を示したものである。


7-2-2-7図 特別調整の概念図
7-2-2-7図 特別調整の概念図

イ 地域生活定着支援センター

地域生活定着支援センターは,厚生労働省により各都道府県に1か所ずつ(北海道は2か所)設置され,各都道府県の直営による場合と,民間の法人・団体に業務が委託され,受託者が運営している場合とがある。地域生活定着支援センターには,社会福祉士,精神保健福祉士等の有資格者を含めた6人以上の職員が配置され,刑務所出所者等を円滑に福祉サービスにつなげていくためのコーディネート機能を担っている。業務は,<1>保護観察所からの依頼に基づき,矯正施設入所者を対象とし,福祉サービス等のニーズ内容の確認を行い,受入先施設等のあっせん又は福祉サービス等の申請支援等を行う「コーディネート業務」,<2>コーディネート業務により,矯正施設から退所した後に社会福祉施設等を利用している者に関し,本人を受け入れた施設等に対して必要な助言を行う「フォローアップ業務」,<3>矯正施設から退所した者等の福祉サービス等の利用に関して,本人やその関係者からの相談に応じ,助言や支援を行う「相談支援業務」等が主なものである。これらの業務は,その地域の自治体福祉部局,福祉事務所,年金事務所,医療機関及び社会福祉施設といった様々な関係機関と連携を取って行われる。


ウ 矯正施設における社会福祉士・精神保健福祉士の役割

矯正施設においては,社会福祉士・精神保健福祉士が配置され,被収容者のうち,福祉による支援が必要な者の選定,その者のニーズの把握,円滑な社会復帰に向けた帰住調整等が行われている(第4節2項(5)イ(イ)参照)。


エ 特別調整の実施状況

平成23年度においては,特別調整が終結した人員は509人であり,その内訳は,高齢者が214人,知的障害者が152人,身体障害者が133人,精神障害者が119人(重複計上している。)であった。また,保護観察所による調整の結果,福祉施設等につながった人員は274人で,その主な内訳は,民間住宅が42人,障害者入所施設が30人,保護施設が28人,医療機関が16人,介護保険施設が15人,その他福祉施設等への移行までの指定更生保護施設での一時的受入れ等となっている(法務省保護局の資料による。)。

特別調整の結果,福祉施設等につながった事例を紹介する。


事例5 特別調整により,要介護認定を受け,高齢者向け賃貸住宅での生活に移行した事例

食品を盗んで受刑していた80歳代のA男は,頼るべき親族がなく,排泄や着替えの際に介助が必要で,認知症の様子も見られたこともあり,特別調整の対象者に選定された。特別調整の依頼を受けた地域生活定着支援センターでは,A男と面接を繰り返して信頼関係を築き,A男のニーズを確認していった。地域生活定着支援センターでは,A男の希望に基づき,A男が受刑前に生活していたB市で生活を続けられるよう,B市の介護保険課,福祉事務所,老人福祉施設や救護施設等と連携を取り,釈放後の生活の場や支援体制の調整を行った。その結果,A男の要介護認定がなされ,高齢者向け賃貸住宅に入所できることとなった。満期釈放時には,地域生活定着支援センターの職員がA男を出迎え,生活保護の申請を行うとともに,高齢者向け賃貸住宅での生活を始めるに当たっての手続や身の回りの品の購入等を支援した。高齢者向け賃貸住宅に入居したA男は,通所介護,訪問介護,訪問診療等の福祉サービスを受け,入居施設職員の助言を得ながら,他の入居者とも円滑に交流を持ち,新しい生活に順調に移行している。地域生活定着支援センターは,A男と定期的に面会し,入居施設や福祉事務所等との合同支援会議に参加して,フォローアップを続けている。


事例6 特別調整により,指定更生保護施設入所を経て,グループホームに入所した事例

知的障害及び精神障害があり,家族と疎遠で,一人暮しをしていた40歳代のC男は,窃盗を繰り返して受刑に至った。家族は受入れを拒否しており,一般就労による自立も困難であることから,C男は特別調整の対象者となり,地域生活定着支援センターが支援を開始した。地域生活定着支援センターでは,C男と面接を繰り返し,体調管理,金銭管理,生活習慣の改善等の必要性から,C男には,一人暮らしではなく,適切な支援が得られる施設での生活が望ましいと考え,C男の希望に基づいて,C男の元の居住地であるD市の精神保健福祉部署,民生委員,医療機関,知的障害者グループホーム,障害者就労支援機関等と連携し,生活の場や日中の活動の場の調整を行った。こうした調整により,知的障害者グループホームへの入所及び授産施設への通所が決まった。C男は,満期釈放と同時に,一旦,指定更生保護施設に入所し,職員の助言指導を得ながら,医療機関に通院して体調を整え,授産施設に職業訓練に通い,また,グループホームへの短期入所も体験した。満期釈放から数箇月して,C男は,受入れ態勢が整ったグループホームに入所するに至り,授産施設での作業にも徐々に慣れ,穏やかに地域生活を送っている。