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2 保護観察対象者に対する処遇
(1)処遇の実施者

保護観察は,通常,一人の保護観察対象者を保護観察官と保護司が協働して担当する態勢により実施されている。保護観察官は,1人で多数の保護観察対象者を担当し,保護観察の開始時に,保護観察対象者と面接し,改善更生への動機付けを図るとともに,面接結果や関係記録等に基づき,保護観察の実施計画として,処遇の目標や指導監督及び補導援護の方法等を定める。保護司は,それぞれが1人から数人程度の保護観察対象者を担当し,保護観察官が定めた実施計画に沿って,面接,訪問等を通じて保護観察対象者やその家族等と接触し,指導・援助を行う。その経過は,毎月,保護司から保護観察所の長に報告され,保護観察官は,これを受けて,保護司と連携し,必要に応じて保護観察対象者や関係者と面接するなどして,状況の変化に応じた処遇上の措置を講じている。

(2)遵守事項と生活行動指針

前記のとおり,遵守事項には,全ての保護観察対象者が遵守すべき一般遵守事項と,保護観察対象者ごとに定められる特別遵守事項がある。

一般遵守事項は,<1>健全な生活態度の保持,<2>保護観察官や保護司の呼出し・訪問に応じるなど,保護観察を誠実に受けること,<3>住居を定め,届け出ること(仮釈放・仮退院の場合を除く。),<4>届け出た住居(仮釈放・仮退院の場合は,その許可の際に定められた住居)に居住することと住居を離れる場合に事前に許可を得ることなどを内容としている。

他方,特別遵守事項は,<1>犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動の禁止,<2>健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動の実行又は継続,<3>指導監督を行うために事前に把握しておくことが重要と思われる生活上又は身分上の特定の事項の申告,<4>特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を受けること((3)イ(イ)参照)などの事項について,保護観察対象者の改善更生に特に必要があると認められる範囲内で具体的に定められる。特別遵守事項は,これを遵守させることが必要な保護観察対象者に対して,保護観察開始時又は保護観察中の状況に応じて随時定められるが,必要がない事項は取り消される。

保護観察対象者には,遵守事項のほか,生活習慣や交友関係の改善等を図るため,生活行動指針が定められることがあり,生活行動指針は,本人に通知され,遵守事項とともに,指導の基準となる。

(3)処遇の実施方策

保護観察対象者に対する処遇は,個々の対象者の状況に応じて実施されなければならず,問題性の深い対象者にはより重点的に保護観察を実施するために処遇に段階を設ける段階別処遇と,対象者が抱える類型的な問題性に応じた効率的な処遇を実施する類型別処遇を軸とし,様々な施策に基づいて,処遇の充実が図られている。


ア 段階別処遇

段階別処遇は,保護観察対象者を,改善更生の進度や再犯の可能性の程度及び補導援護の必要性等に応じて,4区分された段階に編入し,各段階に応じて,保護観察官の関与の程度や接触頻度等を異にする処遇を実施する制度である。

無期刑又は長期刑(執行刑期が10年以上の刑)の仮釈放者は,社会復帰に種々の困難があるため,仮釈放後1年間は,最上位の段階に編入し,必要に応じて複数の保護観察官が関与するなどして,充実した処遇を行っている。


イ 類型別処遇等の問題性に応じた処遇

(ア)類型別処遇及び特定暴力対象者に対する処遇

保護観察対象者には,薬物依存があること,暴力団員であることなど,保護観察処遇を実施する際にその改善に留意すべき類型的な問題が認められる者や,中学生,高齢者等,その環境的条件に応じて処遇上特別な配慮をしなければならない者がいるが,そうした者には,これまでに蓄積された実務経験に基づく問題の対処方法を全ての保護観察官や保護司が活用して処遇を行うことが効果的・効率的である。そのため,保護観察処遇に,類型別処遇の制度が導入され,類型的な問題のある保護観察対象者は,その類型に認定し,実務経験を踏まえて体系化された処遇指針や留意事項に沿って,問題に応じた効果的な処遇が行われている。

平成22年末における仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の主要な類型の認定状況は,2-5-2-5表のとおりである。


2-5-2-5表 保護観察対象者の類型認定状況
2-5-2-5表 保護観察対象者の類型認定状況

一部の保護観察所では,保護観察対象者に対する集団教育(「無職等」の類型認定者に対する就労能力向上のためのセミナーの実施等)を行ったり,「覚せい剤事犯」の類型認定者の保護者・引受人に対する講習会を実施する(平成22年度には,17庁で延べ53回実施され,延べ797人の保護者・引受人が参加した。)などの手法による処遇も行われている。

また,仮釈放者又は保護観察付執行猶予者のうち,暴力的犯罪を繰り返していた者でシンナー等乱用・覚せい剤事犯・問題飲酒・暴力団関係・精神障害等・家庭内暴力のいずれかの類型に認定された者,及び極めて重大な暴力的犯罪を犯すなどした者は,特定暴力対象者と指定し,段階別処遇における上位の段階に編入し,保護観察官が頻繁に対象者やその家族と面接するなどして,生活状況の綿密な把握に努め,問題が生じているときは,迅速にその改善に向けた指導を行うほか,関係機関とも連携して特定暴力対象者に指定した理由である類型上の問題の改善に努める(暴力団からの離脱に向けた支援,保健医療機関での薬物依存の治療や断酒自助グループへの参加についての助言等)などの処遇が実施されている。


(イ)専門的処遇プログラム

ある種の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対しては,その傾向を改善するために,専門的処遇プログラムとして,心理学等の専門的知識に基づき,認知行動療法(自己の思考(認知)のゆがみを認識させて行動パターンの変容を促す心理療法)を理論的基盤として開発された,体系化された手順による処遇が行われている。

専門的処遇プログラムとしては,性犯罪者処遇プログラム,覚せい剤事犯者処遇プログラム,暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種がある。

これらの専門的処遇プログラムは,仮釈放者及び保護観察付執行猶予者のうち,「性犯罪」の類型に認定された者(男性に限る。),覚せい剤の自己使用により保護観察に付された者(保護観察付執行猶予者は,規制薬物の使用を反復する傾向が強い者に限る。),暴力的犯罪を繰り返す者,飲酒運転を反復する傾向を有する者に対し,その処遇を受けることが特別遵守事項として義務付けられて,実施されている。

専門的処遇プログラムによる処遇は,保護観察官が,5回にわたり,保護観察対象者に面接し,ワークシートに書き込ませるなどの方法で自己の問題性(認知のゆがみや自己統制力の不足等)を考えさせるとともに,ロールプレイング(望ましい行動パターンを理解させるために,身近な社会生活の場面を取り上げて,役割に応じた演技を行わせる)等の方法で,犯罪に至らないための行動方法を指導するという内容で行われている。例えば,性犯罪者処遇プログラムにおいては,性犯罪に及んだときの行動を分析させて,犯行に至るまでの幾つかの段階で性犯罪に結び付くおそれのある行動を統制できたことを考えさせ,「性的欲求を我慢できないのは仕方がない」などのゆがんだ認知の変容を促すなどして,性犯罪を繰り返さないための具体的方法を行動計画として考えさせる指導を行っている。また,覚せい剤事犯者処遇プログラムによる処遇は,簡易薬物検出検査(簡易試薬による尿検査又は唾液検査により,覚せい剤使用の有無を推定する検査)と組み合わせて実施されている。なお,簡易薬物検出検査は,覚せい剤使用を反復する傾向がある保護観察対象者であって,覚せい剤事犯者処遇プログラムに基づく指導が義務付けられず,又はその指導を受け終わった者にも,必要に応じて,断薬意志の維持等を図るために,その者の自発的意思の下で,実施されている(第7編第5章4項(3)イ参照)。

なお,刑事施設で「性犯罪再犯防止指導」又は「アルコール依存回復プログラム」を受講した仮釈放者については,それぞれ刑事施設から実施結果を引継ぎ,一貫性のある指導を行っている。

平成22年における専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員は,性犯罪者処遇プログラムが910人(仮釈放者618人,保護観察付執行猶予者292人),覚せい剤事犯者処遇プログラムが1,387人(同968人,419人),暴力防止プログラムが274人(同162人,112人),飲酒運転防止プログラムが70人(同32人,38人)であった(飲酒運転防止プログラムについては,同年10月に同プログラムによる処遇が開始された。)。また,同年における自発的意思の下での簡易薬物検出検査の実施件数は,7,282件であった(法務省保護局の資料による。)。


(ウ)しょく罪指導プログラム

自己の犯罪により被害者を死亡させ,又は重大な傷害を負わせた保護観察対象者には,しょく罪指導プログラムによる処遇を行うとともに,被害者等の意向も配慮して,誠実に慰謝等の措置に努めるように指導している。

なお,刑事施設で「被害者の視点を取り入れた教育」(第4章第2節3項(2)参照)を受けた仮釈放者については,刑事施設から情報の提供を受け,刑事施設での指導状況も踏まえた指導が行われている。

(4)中間処遇制度

無期刑又は長期刑(執行刑期が10年以上の刑)の仮釈放者は,段階的に社会復帰させることが適当な場合があるため,本人の意向も踏まえ,必要に応じ,仮釈放後1か月間,更生保護施設で生活させて指導員による生活指導等を受けさせる中間処遇を行うことがあり,平成22年には131人に対して実施された(法務省保護局の資料による。)。

(5)就労支援

出所受刑者等の社会復帰には,就労による生活基盤の安定が重要な意味を持つため,従来から保護観察の処遇において就労指導に重きを置いているが,平成18年度から,法務省は,厚生労働省と連携し,出所受刑者等の就労の確保に向けて,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施しており,刑事施設・少年院における支援(第4章第2節2項(6)及び第3編第1章第4節2項(2)参照)とともに,保護観察所では,支援対象者(保護観察対象者及び更生緊急保護申出者)ごとに保護観察所と公共職業安定所の職員からなる就労支援チームにより適切な支援の内容・方法を定めた上で,公共職業安定所において職業相談・職業紹介を行うほか,対象者の就労能力向上のためのセミナー・事業所見学会や職場体験講習を実施するとともに,事業者による雇用を促進するために,身元保証制度やトライアル雇用制度を活用した支援を行っており,これらにより,22年度には2,200人以上が就職した(法務省保護局の資料による。第7編第5章1項(3)エ参照)。

(6)自立更生促進センター

適当な引受人がなく,民間の更生保護施設でも受入れが困難な仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に附設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的とする施設として,自立更生促進センターが設立されている。仮釈放者を対象とし,犯罪傾向などの問題性に応じた重点的・専門的な処遇を行う自立更生促進センターとして,平成21年6月に北九州自立更生促進センター(定員男子14人)が,22年8月に福島自立更生促進センター(定員男子20人)が,それぞれ運営を開始した。また,主として農業の職業訓練を実施する就業支援センターとして,19年10月に少年院仮退院者等を対象とする沼田町就業支援センター(北海道,定員男子12人)が,21年9月に仮釈放者等を対象とする茨城就業支援センター(定員男子12人)が,それぞれ運営を開始している(第7編第5章3項(3)イ参照)。