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平成22年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/3

3 罪名ごとの考察

調査対象者について調査・分析した結果に基づき,重大事犯の罪名ごとに,重大事犯者の処遇上留意すべき点を考察すると,次のような点を挙げることができる。

(1)殺人

殺人の事犯者は,一般的に,他人の生命や身体を尊重する意識が希薄であると考えられるが,このことは,粗暴犯の有前科者率が約3割に及んでいる(第2章第1節2項(4)参照)ことにも表れている。他方で,殺人の事犯者の粗暴犯の再犯率は5.5%であるが,粗暴犯前科を有する者では,14%である。

殺人は,動機等において相当に異なるタイプの犯行があるが,その幾つかについて見ると,まず,暴力団の勢力争い等から殺人に及んだ者(24人)は,有前科者率が79%と顕著に高く,粗暴犯の有前科者率も50%であり,他方,再犯率(46%)が高く(7‐2‐3‐2‐2図参照),その再犯は,財産犯,薬物犯,粗暴犯と様々な犯行にわたり,規範意識の欠如や粗暴性向が大きな問題であることをうかがわせる。憤まん・激情から殺人に及んだ者(100人)は,殺人の事犯者の42%を占めている(再犯率は22%。同図参照)が,本件犯行の判決を見ると,憤まん・激情を抱くに至った背景として,感情統制力の欠如や他人を暴力で支配しようとするゆがんだ考え方(なお,憤まん・激情による殺人のうち,約2割は,配偶者又は交際相手に対する犯行であった。)などの問題を有する者が少なくないことがうかがわれた。一方,前記のとおり,近年,親族に対する殺人が増加傾向にあるが,親族に対する殺人の事犯者(71人)は,それ以外の殺人事犯者と比べ,前科数が少なく(7‐2‐1‐2‐3図参照),再犯率も低く(7‐2‐3‐2‐1図参照),介護疲れ等から親族を殺害した者では,再犯がある者はいない(7‐2‐3‐2‐2図参照)。

(2)傷害致死

傷害致死の事犯者も,粗暴犯の有前科者率が3割を超え(第2章第1節2項(4)参照),他方,粗暴犯前科を有する者(25人)は,再犯率が50%を超え,粗暴犯の再犯率も40%と高い。

(3)強盗

強盗の事犯者は,財産犯の有前科者率が3割を超え(第2章第1節2項(4)参照),前記のとおり,強盗の事犯者全体で財産犯の再犯率及び強盗の再犯率は25%,8.3%であるが,強盗前科を有する者(28人)及び3犯以上の財産犯前科を有する者(52人)では,財産犯の再犯率は50%以上であり,強盗の再犯率も20%を超えている(7‐2‐3‐2‐7図参照)。

本件犯行時の就労・居住状況を見ると,強盗の事犯者は,無職であった者が60%と高く,住居不定であった者も30%を超え(第2章第1節2項(3)参照),強盗の再犯があった者の再犯の犯行時の生活状況を見ると,無職であった者は80%近く,住居不定であった者も60%を超え(第2章第3節3項(1)ウ参照),就労・居住状況が不良であることが,強盗の大きな要因となっていると思われる。また,本件犯行時にギャンブル耽溺の問題を有していた者(49人,強盗の事犯者の13%)は,強盗の再犯率が16%と高く(7‐2‐3‐2‐15図参照),強盗の再犯があった者では,再犯の犯行時にこの問題を有していた者が半数近くであり,この問題も,強盗の要因になっていることがうかがわれる。

犯行態様別に見ると,本件犯行が住宅強盗である者は,強盗の再犯率が18%と高く,他方,事後強盗に該当する者では低い(もっとも,窃盗等の再犯は少なくなく,再犯率は強盗事犯者全体と変わらない。7‐2‐3‐2‐5図参照)。

(4)強姦

強姦の事犯者は,強制わいせつを含む性犯の有前科者率が13%であり(第2章第1節2項(4)参照),前記のとおり,強姦の事犯者全体で強制わいせつを含めた性犯の再犯率は16%であるが,強制わいせつを含む性犯の前科を有する者では,強制わいせつを含む性犯の再犯率が38%にも及び,性犯罪を繰り返す者は,更に性犯罪の再犯に及ぶリスクがより大きいことがうかがわれる。

また,強姦は,住宅内を犯行場所とする事件(平成21年における認知件数)が半数近くを占める(7‐1‐1‐7表参照)が,本件犯行が面識のない被害者宅に侵入する態様での強姦である者は,強姦の再犯率及び強制わいせつを含む性犯の再犯率が,それぞれ,23%,30%と高い。

なお,強姦の事犯者は,本件犯行時に無職であった者の占める比率が30%と低く(第2章第1節2項(3)参照),強姦の再犯に及んだ者の再犯時の無職率も高くはなく(同章第3節3項(1)エ参照),就労状況が安定していることは,強姦の抑制要因としてはほとんど意味を持たないと考えられる。

(5)放火

放火は,殺人と同様に,動機等において相当に異なるタイプの犯行があるが,放火の再犯率は,本件犯行の動機が「受刑願望」である者(4人のうち2人),「不満・ストレス発散」である者(35人のうち5人)で高く(7‐2‐3‐2‐2図参照),そのうち,放火の再犯があった者は,孤独な生活を送り,疎外感が放火の犯行の背景になっている者が多い(第2章第3節3項(1)オ参照。さらに,7‐2‐3‐2‐15図参照)。

なお,放火は,その他の重大事犯とは異なり,本件犯行での受刑中に懲罰を受けたことがなかった者でも再犯率は低くなく(7‐2‐3‐2‐16図参照),また,仮釈放者の同種重大再犯率(放火の再犯率)が満期釈放者と異ならないなど,個々の事犯者の再犯リスクを判断することが困難ではないかと思わせる分析結果も表れている。