前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択

平成22年版 犯罪白書 第7編/第2章/第3節/3

3 重大再犯と短期再犯の状況

前項では,重大事犯者(調査対象者)について,本件犯行の内容,犯罪歴,本件による矯正及び更生保護の段階における処遇等の別に再犯の有無を含む再犯状況を見たが,この項では,重大事犯の再犯の確定記録(調査が可能であったものに限る。)を用いて出所後の状況等を調査した結果も踏まえ,重大事犯者による重大再犯について特徴的な点を見る。また,重大事犯者の中には出所後極めて短期間で再犯に至る者もいる(7‐2‐3‐2‐20図7‐2‐3‐2‐21図参照)ので,再犯の確定記録等を用いて,本件による出所後1か月未満で再犯の犯行に及んだ状況等についても見ることとする。

(1)重大再犯の状況

調査対象者のうち,重大再犯があった者は,合計88人であるが,そのうち,重大再犯の確定記録の調査が可能であった者は,75人であり,本件の罪名ごとに,重大再犯の罪名別の件数(複数の罪名又は複数の重大再犯があるときは重複計上)を見ると,7‐2‐3‐3‐1表のとおりである。

7‐2‐3‐3‐1表  重大再犯の状況(罪名別)

ア 殺人の事犯者

本件犯行が殺人である調査対象者(再犯の確定記録の調査が可能であった者に限る。以下この項の(1)において同じ。)のうち,重大再犯がある者は,5人(5件)である(本件犯行が殺人及び強姦である者1人を含む。)。

殺人の再犯がある者は,2人であり,1人は,性交渉を拒否されたことに激高して交際していた女性に対する殺人未遂の犯行(本件犯行)に及んで服役し,粗暴犯の再犯(「再犯」とは,本件による出所後の犯行により禁錮以上の刑の言渡しを受けて確定したことである。)があった後,以前から接客を受けていたいわゆる風俗嬢からサービスを拒否されて同人を殺害したもの(強姦未遂による保護処分歴がある。)である。もう1人は,少年時から暴力団員として活動し,殺人未遂による保護処分歴や粗暴犯等による前科5犯(この項では,前科は,本件犯行前のものに限って犯数を数えて記述する。)を有し,債権取立てのトラブルによる殺人未遂の犯行(本件犯行)で服役し,満期釈放後,飲酒中,被害者から悪口を言われたと思い込んで激怒し殺人未遂の再犯に至ったものであり,本人にはアルコールに対する依存傾向も認められる。

強盗の再犯がある者は,1人であり,強姦目的で女性を尾行し,騒がれて,同人に対する殺人未遂の犯行(本件犯行)に及び,仮釈放後,両親のもとに帰住し職にも就いていたが,家出をし,風俗店での遊興費等に充てるため,飲食店での強盗殺人未遂の再犯に至ったものである。

強姦の再犯がある者は,2人であり,1人は,強姦致傷等の犯行及び被害者の売春の相手方となった際のトラブルから同人を殺害した犯行(本件犯行)で服役し,満期釈放後に,強姦致傷の再犯に至ったもの(財産犯等による前科4犯がある。)であり,1人は,店員の対応に不満を抱いて同人に対する殺人の犯行(本件犯行)に及び,満期釈放後,強姦致傷の再犯に至ったもの(強姦未遂等による保護処分歴及び殺人未遂等による前科5犯がある。)である。

イ 傷害致死の事犯者

本件犯行が傷害致死である調査対象者のうち,重大再犯がある者は,3人(3件)である。

そのうちの1人は,暴力団員として活動し,共犯者(暴力団員)の犯行を容易にする傷害致死幇助の犯行(本件犯行)で服役し,覚せい剤取締法違反の再犯があった後,飲酒中,他の暴力団員に絡まれて激高し同人を殺害する再犯に至ったものであり,1人は,暴力団の周辺者として活動し,薬物の密売に絡んだ傷害致死の犯行(本件犯行)で服役し,仮釈放後,いわゆるヤミ金融の取立てに際して傷害致死の再犯に至ったものである。残りの1人は,不仲であった職場の同僚に暴行を加えて死亡させる犯行(本件犯行)で服役し,満期釈放後に,暴力団員から依頼されて報酬を得る目的で殺人未遂の再犯に至ったもの(この項の(2)において事例<1>として引用する。事例<2>〜<5>についても同じ。)である(財産犯前科5犯がある。)。

ウ 強盗の事犯者

本件犯行が強盗である調査対象者のうち,重大再犯がある者は,35人(43件)である(本件犯行が強盗及び強姦である者9人を含む。)。

強盗の再犯がある者は,29人である(そのうち,強盗殺人・同未遂の再犯がある者は3人)。29人のうち3人には,2回,強盗(強盗又は同致傷)の再犯がある。前科を有する者は,29人のうち,19人であるが,8人には,窃盗による保護処分歴(1人は少年時の窃盗前科)及び3犯以上の窃盗前科がある。再犯の犯行時の生活状況を見ると,29人のうち,住居不定であった者は18人(62.1%),無職であった者は23人(79.3%)であり,本件犯行時に住居不定であった者は9人(31.0%),無職であった者は13人(本件犯行時の就労状況が不詳の者等を除いた27人に占める比率は48.1%)であるのに比して相当悪化している。また,再犯の原因・動機を見ると,29人のうち,13人は,生活困窮が大きな原因であると見られ,6人は,遊興費に充てる金員を得るというのが動機であり,13人には,再犯の犯行時にギャンブル耽溺の問題が見られる。

殺人の再犯があった者は,4人である。2人は,強盗の犯行と殺人の犯行による再犯があった者であり,そのうち1人は,ゲーム喫茶店での強盗致傷の犯行(本件犯行)で仮釈放後,覚せい剤の使用及びギャンブルに耽溺し,その資金を得るために,再び,ゲーム喫茶店での強盗致傷の犯行及び同店店員に対する殺人の犯行等の再犯に至ったもの(粗暴犯による保護処分歴がある。)であり,1人は,強盗強姦の犯行(本件犯行)で満期釈放後,短期間で暴力行為等処罰法違反の犯行に及んで服役し,服役中から「生きていても仕方がない」などと考え,満期釈放の当日に,強盗殺人の再犯に至ったもの(それに先立ち殺人予備の犯行に及んだ。事例<2>)である(財産犯等による保護処分歴及び強盗致傷等による前科3犯がある。)。殺人のみの再犯があった者は,2人であり,1人は,無為徒食の生活を送り,路上での強盗殺人の犯行(本件犯行)に及び,仮釈放後,両親のもとに帰住し,職にも就いていたが,契約期間の満了で無職となり行き詰まりを覚えて,刑務所に戻りたいなどと考え,殺人未遂(通り魔)の再犯に至ったものである。もう1人は,強盗致傷の犯行(本件犯行)で仮釈放された後,本人の暴力が原因で別居した妻を逆恨みして,妻子を殺害する再犯に至ったものである。

強姦の再犯があった者は,6人であるが,そのうち5人は,本件犯行が強盗強姦の犯行又は強盗及び強姦の犯行である者であり,実質的には,強姦の同種再犯である。

放火の再犯があった者は,1人であり,殺人前科1犯,放火前科1犯を含む前科12犯があり,コンビニ強盗(本件犯行)で満期釈放された後,短期間で,刑務所に戻るしかないと考え,そのために器物損壊(焼損)の犯行に及んで服役し,その後,同様の経緯・動機から傷害で服役し,さらに,満期釈放後,短期間で,同様の経緯・動機から放火の再犯に至ったもの(事例<3>)である。

エ 強姦の事犯者

本件犯行が強姦である調査対象者のうち,重大再犯がある者は,31人(37件)である(本件犯行が殺人及び強姦である者1人と強盗及び強姦である者9人を含む。)。

強姦の再犯がある者は,20人であるが,強盗強姦・同未遂の再犯がある者を含めると,31人中,24人である(なお,強盗強姦も強姦であるとすると,本件犯行が「強姦」である調査対象者のうち,重大事犯の再犯がある者は35人となるが,その35人で見ると,強盗強姦・同未遂の再犯がある者を含め,強姦の再犯がある者は,27人である。)。この24人のうち,11人は,再犯の犯行が面識のない被害者宅に侵入するという態様の強姦・同未遂・同致傷の犯行を含む者であるが,そのうち9人は,本件犯行も同様の態様の犯行を含むものである。また,8人は,複数回,強姦・強盗強姦を繰り返した犯行による再犯があるが,そのうち4人は,本件も複数回の強姦・強盗強姦の犯行を繰り返していた者である。犯罪歴を見ると,24人のうち,7人に強姦前科があり(そのほか,1人に強制わいせつによる前科がある。),この7人のうち,4人は,強姦又は強制わいせつによる保護処分歴もある。生活状況を見ると,再犯の犯行に強盗を含み,又は再犯の犯行が強盗強姦・同未遂である者10人では,再犯の犯行時に住居不定であった者は4人(40.0%),無職であった者は8人(80.0%)であり,本件犯行時に比して悪化しているが,再犯の犯行に強盗を含まず強姦のみである者14人では,再犯の犯行時に住居不定であった者は5人(35.7%),無職であった者は5人(35.7%)であり,再犯時の無職率は高くはない。

強盗の再犯がある者は,16人である(そのうち,強盗殺人の再犯がある者は1人)。その16人のうち,10人は,強盗・同致傷・強盗強姦の犯行と強姦・同未遂・同致傷の犯行による再犯がある者若しくは強盗致傷の再犯があった後に強姦未遂の再犯があった者(6人)又は強盗の再犯が強盗強姦・同未遂の犯行による者(7人)であり,実質的には,強姦の同種再犯でもある。強盗強姦・同未遂による再犯がある者(7人)は,いずれも,再犯の犯行は,強盗の犯行の際に偶発的に強姦の犯行にも及んだというのではなく,強姦を主たる目的とする犯行であると見るべきものである。強姦の再犯又は強盗強姦・同未遂の再犯がある者を除くと,強盗の再犯がある者は,6人であるが,そのうち4人は,本件犯行が強姦及び強盗の犯行である者であり,また,3人は,再犯の強盗は女性を狙った犯行であり,そのうちの1人は,強盗の犯行の際にその被害者に対する強制わいせつの犯行に及んでいる。

放火の再犯がある者は,1人であり,再犯は共犯者(親族)の依頼を受けて犯行に加担したものである。

オ 放火の事犯者

本件犯行が放火である調査対象者のうち,重大再犯がある者は,11人(13件)である。

放火の再犯がある者は,8人であり,1人は,本件犯行後,2回,放火の再犯がある。この1人は,放火前科1犯を含む多数の前科を有し,ストレス発散の目的による放火の犯行(本件犯行)で服役し,その後,侵入窃盗で服役した後,2回,満期釈放から短期間で刑務所に戻ろうと考えて放火の犯行に及ぶことを繰り返したものである。また,1人は,窃盗を繰り返す生活(窃盗前科4犯)に嫌気がさし,受刑願望から放火の犯行(本件犯行)に及び,仮釈放後,帰住先に指定された更生保護施設に帰住せず,憂さ晴らしの目的による器物損壊(焼損)の犯行で服役し,その後,満期出所から短期間で同様の目的による同様の犯行で服役した後,再び,満期釈放から短期間で,同様の目的から放火の再犯に至ったものである(事例<4>)。このほか,4人は,不満・ストレスの発散等を動機とする放火の犯行(本件犯行)で,釈放後,同様の動機から放火(3人は連続放火)の再犯に至ったもの(1人には放火前科1犯を含む前科2犯があり,1人には財産犯前科1犯があり,1人には財産犯前科4犯がある。)である。これらの6人は,いずれも,家族もなく孤独な生活を送っていた者であり,そのことが受刑願望や放火に気晴らしを求めることの背景になっているとうかがわれる。さらに,2人は,憤まん・怨恨から相手方宅に放火する犯行(本件犯行)で服役した者であるが,そのうちの1人は,本件で釈放後,恨みから相手方宅に放火して居住者を殺害する再犯(殺人・同未遂及び放火)に至ったものであり,もう1人は,侵入窃盗の犯跡を隠ぺいするために侵入先の住居に放火する犯行(本件犯行)も繰り返し,本件で仮釈放後,窃盗未遂による再犯があった後,これと同様の動機から放火の再犯に至ったもの(財産犯による保護処分歴及び前科がある。)である。

殺人の再犯がある者は,2人である。1人は,放火の犯行と殺人の犯行による再犯がある者であり,1人は,窃盗目的で住居に侵入し,金員を発見できなかったことにいらだって同所に放火する犯行(本件犯行)で服役し,満期釈放後,妻から求められて離婚し,これに失意して同人を殺害する再犯に至ったもの(強姦による保護処分歴及び粗暴犯前科2犯がある。)である。

強盗の再犯がある者は,2人である。1人は,強盗等による前科4犯を有し,本件で仮釈放後に,窃盗等の犯行で服役し,仮釈放された後に,事後強盗致傷(当初の窃盗の手口は万引き)の再犯に至ったもの(その後にも窃盗等の再犯がある。)である。もう1人は,本件による満期釈放後,3回,釈放後短期間で,受刑願望の動機から郵便ポストに点火した紙を投入する犯行(郵便法違反)に及び服役することを繰り返した後,満期釈放後,生活保護の支給金が減額されて自暴自棄になり,単身生活していたアパートを飛び出し,金員に窮して強盗未遂の再犯に至ったものである(事例<5>)。

(2)短期再犯の状況

調査対象者のうち,本件による出所後1か月未満で再犯の犯行に及んだ者(以下この項において「短期再犯者」という。)は,29人であり,本件の罪名別には,殺人3人,傷害致死1人,強盗18人,強姦4人,放火5人であり(2人は,本件犯行が強盗及び強姦である者である。),本件による出所事由別には,満期釈放者24人,仮釈放者5人である。また,短期再犯者のうち,16人には,重大再犯がある(重大再犯の犯行は,本件による出所後1か月未満での犯行に限らない。)。

短期再犯者の本件による出所時の年齢を見ると,20歳代が5人,30歳代が2人,40歳代が7人,50歳〜64歳が12人,65歳以上が3人である。刑事施設への入所度数を見ると,本件による入所が1度目の者(初入者)は5人であり,4度目以上の者が17人である。

本件による出所後に最初に及んだ再犯の犯行は,殺人未遂1人(事例<1>),強盗・同未遂・同致傷6人,建造物等以外放火1人のほか,窃盗・同未遂・常習累犯窃盗7人,恐喝・同未遂3人,器物損壊2人(事例<3><4>),銃刀法違反(ナイフの携帯)2人,郵便法違反2人(事例<5>),傷害1人,暴力行為等処罰法違反1人(事例<2>),覚せい剤取締法違反1人などである。事例<1>の者等を除き,23人は,本件犯行後に2回以上の再犯があり,そのうちの,12人は,本件犯行後に,2回以上,釈放後1か月未満で再犯の犯行に及ぶことを繰り返し,事例<2><3><4>の者は,これを繰り返す形で重大事犯の再犯に至っている。

本件による出所後の短期再犯者の生活状況を見ると,次のとおりである(再犯の確定記録や保護観察所の記録等から最初の再犯の犯行の際の生活状況が不詳である者14人については,最初の再犯の判決時の住居・職業で見た。)。満期釈放者(24人)では,2人を除き,そのほとんどは頼るべき親族等もなく,頼るべき親族がある者も出所後そのもとに帰住せず,住居不定の生活を送っている(1人は,更生緊急保護の申出をして住居の紹介を受けたが,そこで生活していない。)。また,それらの者は,2人を除き,出所後,職に就かず,その2人のうち1人も,出所後,職に就いたものの,続かず,社会での生活に嫌気がさし,憂さを晴らすとともに服役しようと考えて傷害の再犯に至っている。仮釈放者(5人)のうち,2人は,親族のもとに帰住し,職にも就いていたが,その2人のうち1人は,強姦・同未遂(本件犯行)で仮釈放後に,被害者(女性)宅に侵入して避妊具を窃取するなどの再犯に至ったもの(その後に強姦未遂等による再犯もある。)であり,もう1人は,強盗(本件犯行)で仮釈放後に,共犯者(暴力団員)と交際し同人らと飲食中に恐喝の再犯に至ったものである。残りの3人は,頼るべき親族等がなく,更生保護施設を帰住先に指定されて仮釈放を許された者であるが,そのうち1人は,職に就いたものの,短期間で転職するなど不安定な生活を送り,窃盗等の再犯に至ったもの,1人は,仮釈放の数日後に覚せい剤を使用する再犯に至ったもの(覚せい剤取締法違反による前科2犯を含む前科8犯がある。)であり,1人は,事例<4>の者である。