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平成22年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/2

2 強姦等の性犯罪事犯者に対する処遇

強姦等の性犯罪の事犯者は,被害者が受ける性的な被害を軽く考えるなど思考(認知)にゆがみがあり,また,自己統制力(自らの意志で自己の行動を統制する能力)が弱いなどの問題を抱えている者が多く,その改善更生を図るためには,そうした資質上の問題を改善することが重要である。そのため,現在,矯正及び更生保護の処遇においては,性犯罪の事犯者に対し,「性犯罪再犯防止指導」,「性犯罪者処遇プログラム」による指導が行われている。

(1)刑事施設における「性犯罪再犯防止指導」

刑事施設では,強姦,強制わいせつその他の性犯罪の原因となる認知のゆがみ又は自己統制力の不足がある受刑者に対し,特別改善指導として,認知行動療法を理論的基盤とする「性犯罪再犯防止指導」を実施し,性犯罪の被害を軽くとらえたり,性的欲求を抑えられないのは仕方がないというような考え方が誤っていると気付かせた上,自己の行動を統制するためにはどのように行動すべきであるかを考えさせて,その行動計画を作らせる指導を行っている。

性犯罪再犯防止指導は,その対象となる受刑者を,オリエンテーションを実施した上で特定の刑事施設に集め,専門の職員が認知行動療法等の技法に通じた民間の臨床心理士等と共に実施している。高密度,中密度,低密度の3段階のコースがあり,問題性の程度が大きい者にはおおむね8か月で65〜66単元(1単元は標準で100分)の指導が,中程度の者にはおおむね6か月で35〜58単元の指導が,問題性の程度が低い者にはおおむね3か月で15〜16単元の指導が行われている。グループワークの方法が中心である。なお,性犯罪再犯防止指導の対象者であって,知的能力に制約がある者に対しては,イラストを多用するなどして特別に調整されたプログラムによる指導(75〜95単元)が行われている。

さらに,釈放に近い時期には,メンテナンスとして,復習の指導を行い,自己の行動を統制するための行動計画を改めて考えさせる指導が行われている。

(2)保護観察における「性犯罪者処遇プログラム」

保護観察においては,類型別処遇における「性犯罪」の類型に認定された男性の仮釈放者及び保護観察付執行猶予者に対し,専門的処遇プログラムの一つである「性犯罪者処遇プログラム」に沿った認知行動療法に基づく指導を受けることを特別遵守事項として義務付けている。

性犯罪者処遇プログラムでも,保護観察官が,おおむね2週間ごとに,5回にわたり,保護観察対象者と面接し,性犯罪に及んだときの行動を分析させて犯行に至るまでの幾つかの段階で性犯罪に結び付くおそれのある行動を統制できたであろうことを考えさせ,「性的欲求を我慢できないのは仕方がない」などのゆがんだ認知の変容を促し,性犯罪の被害者の手記を内容とする視聴覚教材等も用いて被害者が受けた被害の大きさを認識させ,性犯罪を繰り返さないための具体的方法を行動計画として考えさせる指導を行っている。また,各回の面接の終了時には,日常生活で考え方を変えると行動が変化する経験を記録させるなどの宿題も与えている。

さらに,5回にわたる指導を行った後も,保護観察官が,定期的に,保護観察対象者との面接を行い,性犯罪を繰り返さないための行動計画をどのように実践しているかを確認するなどして指導を行っている。

なお,刑事施設で「性犯罪再犯防止指導」を受けた仮釈放者については,刑事施設から情報の提供を受け,刑事施設での指導の状況も踏まえた指導が行われている。