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平成22年版 犯罪白書 第7編

第7編 重大事犯者の実態と処遇

被害者に極めて重大な危害を及ぼす殺人,強盗,強姦等の重大事犯への対処は,治安を維持する上で,刑事政策上の重要課題である。最近における重大事犯の発生状況は悪化しているとまではいえないが,殺人の認知件数は,ほぼ横ばいの状態であり,強盗の認知件数は,高水準にある上,平成21年には増加に転じるなど,楽観視できる状態ではなく,国民の治安に対する不安感が改善しない原因の一つにもなっていると考えられる。

犯罪対策を考えるためには,犯罪の実態と原因を分析・考察することが重要であり,犯罪者の処遇は,これを踏まえて行われる必要がある。重大事犯は,例えば,同じ殺人であっても,保険金目的によるものもあれば,介護疲れによるものもあるなど,事件ごとに多様である。その一方で,重大事犯を犯す者は,一般的に,大きな資質的な問題を抱えている者が多いといえる。このように,重大事犯者は多種多様で重大な問題性を抱えていると考えられるが,その処遇は,犯罪者ごとに,問題性を的確に見極めてこれを改善し,再犯に及ぶことがないのはもちろん,真に改善更生を遂げ,社会の担い手として社会に復帰するように行われなければならない。

こうした観点から,本年版犯罪白書の特集では,重大事犯者の処遇を充実させるための検討に有益な基礎資料を提供することを目的に,重大事犯の実態を明らかにするとともに,重大事犯者がその後に改善更生し又は再犯に及ぶ原因の分析を行うこととした。

この特集の構成は,以下のとおりである。

第1章においては,各種統計資料等に基づき,重大事犯の発生の実態を見るとともに,その処遇の実情や再犯の状況等を分析した。

第2章においては,重大事犯で受刑し平成12年上半期に刑事施設を出所した者を対象とし,法務総合研究所が実施した特別調査に基づき,重大事犯の実態を分析するとともに,処遇上留意するべき事項の考察を行った。具体的には,第1節において,調査対象者が犯した重大事犯の特徴等を分析し,第2節において,調査対象者の矯正及び保護観察の段階における処遇の実情を概観した上,第3節において,刑事施設を出所した後の10年間での再犯の有無を追跡調査し,再犯に及んだ者とそうでない者との比較等により,重大事犯者の再犯要因の分析を試みた。また,第4節では,重大事犯で受刑し,仮釈放された後,真に改善更生を遂げたと見られる者の事例を紹介した。

第3章においては,重大事犯者の処遇について特徴的な点を紹介した。近年,刑事収容施設法及び更生保護法の下,犯罪者の改善更生と社会復帰を目的とする処遇の充実が図られ,平成12年6月までに刑事施設を出所した前記の特別調査の対象者には行われていなかった処遇も実施されているが,そうした処遇も含め,現在の処遇について紹介するものである。

その上で,第4章においては,第1章及び第2章の分析等を踏まえ,第3章で紹介した重大事犯者の処遇も前提に,重大事犯者の処遇の更なる充実に向けた展望について総括した。

なお,この編において,「重大事犯」とは,殺人,傷害致死,強盗,強姦及び放火をいう。また,特に断らない限り,傷害(傷害致死を除く。),暴行,脅迫,凶器準備集合及び暴力行為等処罰法違反を「粗暴犯」と,窃盗,詐欺,恐喝,横領(遺失物等横領を含む。)及び盗品等に関する罪を「財産犯」という。