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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/3 

3 刑務所出所者等の社会復帰の支援

(1)入所中から出所後までの一貫した就労支援

 犯罪や非行に及んだ者の円滑な社会復帰を図り,再犯・再非行を防止するためには,これらの者が職に就き,安定した生活基盤を築くことが肝要であり,就労の確保は極めて重要である。
 このため,刑事施設,少年院及び保護観察所においては,従来から,受刑者等に対し,勤労意欲を高めさせるなど,就労に関する指導を重視してきたが,近時,以下のとおり,就労支援のために様々な措置が講じられている。
 まず,刑事施設及び少年院においては,平成18年度から,キャリアコンサルタントや産業カウンセラー等の資格を有する就労支援スタッフを配置し,受刑者等に自己の職業適性の理解を促すとともに,職場での円滑なコミュニケーションの方法を習得させるなど具体的な就労場面を想定した指導を行っている(就労支援スタッフは,21年度においては,61の刑事施設,12の少年院に配置されている。)。また,刑事施設においては,従来から,受刑者に職業上有用な知識や技能を習得させるために職業訓練を実施しているが,20年度には,CAD技術科,総合美容技術科を新設するなど,雇用情勢に応じた種目の拡大にも努めている(第2編第4章第3節2項(3)参照)。
 こうした指導等により,受刑者等に就労に必要な基本的な態度や職業上の知識・技能を習得させることに加え,その求職活動を促し,実際の就職に結び付けていくための支援も必要である。そのため,平成18年度から,法務省と厚生労働省が連携して,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している。この施策は,刑事施設,少年院及び保護観察所並びに公共職業安定所が連携する仕組みを構築した上で,支援対象者の希望,適性等に応じて,個別的な就労支援を計画的に行うものである。具体的には,刑事施設及び少年院においては,支援対象者に対し,公共職業安定所職員による職業相談,職業紹介,職業講話等が実施されている。また,保護観察対象者(更生緊急保護申出者を含む。)に対しては,支援対象者ごとに,保護観察所と公共職業安定所の担当者等からなる就労支援チームが適切な支援方法・内容の選定等を行った上で,公共職業安定所において職業相談・職業紹介を行うほか,対象者の就労能力向上のためにセミナー・事業所見学会(112回)や職場体験講習(12回)を実施するとともに,事業者の雇用を促進するために身元保証制度(1,521人)やトライアル雇用制度(211人)を活用した支援が行われており(( )内は,20年度における実績である。),これらにより,同年度には2,138人が就職した(法務省保護局の資料による。)。
 さらに,これらの施策が十分に機能するためには,刑務所出所者等の雇用について,幅広い業種において,事業者の理解を得ることが必要である。これまで,保護観察所においては,更生保護関係団体の協力を得て,協力雇用主の拡大に努めてきたが,平成20年度からは,刑事施設等と連携しつつ,産業・雇用に関わる行政機関,地域の経済団体等にも参加を求めて,刑務所出所者等就労支援推進協議会を開催し,刑務所出所者等の雇用について理解・協力を求めることにより,協力雇用主の開拓・拡大を図っている。

(2)福祉的な支援を必要とする者に対する社会復帰支援

 平成21年度から,法務省,厚生労働省等が連携し,以下のとおり,受刑者及び少年院在院者のうち,高齢者又は障害を有する者であって,適当な帰住予定地がないなど,特に自立が困難な者の円滑な社会復帰を促進するための取組を行っている。
 刑事施設及び少年院においては,社会福祉士,精神保健福祉士を配置し,入所・入院中から福祉的な支援に対するニーズの把握,福祉の申請手続等の援助を行っている。平成21年度においては,62の刑事施設に社会福祉士が配置(うち8施設には精神保健福祉士も配置)されるとともに,3の少年院に社会福祉士,2の少年院に精神保健福祉士が配置されている。
 また,保護観察所においては,円滑な福祉への移行を図るため,入所・入院中から,刑事施設等との密接な連携の下,厚生労働省が都道府県単位で整備を進めている地域生活定着支援センターと協働して,福祉等実施機関と連絡調整を取りながら福祉的な支援等が確保できるよう生活環境の調整を行っている。さらに,釈放された後に直ちに福祉による支援を受けることが困難な者については,更生保護施設で受け入れ,福祉への移行準備を行うとともに社会生活に適応するための指導・訓練を実施している。そのため,57の更生保護施設には,福祉に関する専門的資格や実務経験を有する福祉スタッフを配置している。

(3)自立更生促進センター等の設立

 自立更生促進センター等は,適当な引受人がなく,かつ,民間の更生保護施設では受入れが困難な仮釈放者及び少年院仮退院者等の改善更生と自立を促進するため,保護観察所に附設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,その再犯を防止することを目的とするものである。
 特定の問題性に応じた重点的・専門的な処遇を実施する自立更生促進センターとして,平成21年6月,成人男子の仮釈放者14人を定員とする北九州自立更生促進センターが開所され,運営を行っているほか,福島自立更生促進センターの運営開始に向けた準備も進められている。また,主として農業の職業訓練を実施する就業支援センターとして,19年10月に男子の少年院仮退院者12人を定員とする沼田町就業支援センター(北海道)が,21年9月に成人男子の仮釈放者等12人を定員とする茨城就業支援センターがそれぞれ開所され,運営を行っている。

(4)地域社会の理解の促進

 従来から,刑事施設,少年院及び保護観察所における処遇の実施に当たっては,地域の関係機関,民間自助団体,更生保護関係団体等の協力を得てきたところであるが,今後,受刑者等の改善更生・社会復帰を一層促進し,再犯防止を図るためには,更に広く社会全体の理解・協力を求めながら,社会的受皿を拡大する必要がある。
 こうした中,平成21年1月,全国規模の経済団体・企業等の発意により,刑務所出所者等の雇用の拡大を支援する全国就労支援事業者機構が設立されたほか,福祉関係団体においても,刑務所出所者等の社会復帰を積極的に支援しようとする取組が行われている。
 法務省では,こうした民間団体における活動等と連携協力するとともに,地域社会の更なる理解・協力を得るために,広報活動の計画的な実施に努めている。