前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成21年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/3 

3 覚せい剤

(1)対象事件及び対象者の概要

 調査の対象とした覚せい剤事犯者は,前記のとおり519人であり,男女の比率は,男子74.8%,女子25.2%であった。
 初回執行猶予時の量刑は,懲役期間については,1年6月が401人(77.3%)と圧倒的に多く,執行猶予期間については,3年が398人(76.7%)と圧倒的に多かった。
 保護観察の有無別構成比は,7-3-1-3-1図のとおりである。
 保護観察に付された者は,全体で6.9%(36人)であり,男女別で見ると,窃盗の場合とは逆に,女子の方が,保護観察に付された者の比率が高い。

7-3-1-3-1図 保護観察の有無別構成比(男女別)

 調査対象者の年齢層別人員は,7-3-1-3-2図のとおりである。
 窃盗と異なり,男子は,30歳代の者が最も多く,そこから年齢層が上がるに従って減少している。女子は,20歳代が最も多く,年齢層が上がるに従って減少している。

7-3-1-3-2図 調査対象者の年齢層別人員(男女別)

 共犯者別構成比は,7-3-1-3-3図のとおりである。
 全体的に「共犯なし」の比率が高いが,女子は,「共犯あり」が3分の1以上であり,特に交際相手が共犯者である比率が高い。

7-3-1-3-3図 共犯者別構成比(男女別)

 調査対象者の居住状況別構成比は,7-3-1-3-4図のとおりである。
 全体的に「家族・親族と同居」が多い(52.0%)が,女子について見ると,男子と比べ,「交際相手・友人知人と同居」の比率が顕著に高く,4人に1人以上の割合であった。

7-3-1-3-4図 居住状況別構成比(男女別)

(2)再犯状況

 以下,調査対象者の属性及び犯行状況等の別に,再犯の有無を比較し,検討する。
 ア 全般的状況
 まず,調査対象の覚せい剤事犯者全体について,再犯状況を見ると,7-3-1-3-5図のとおりである。
 覚せい剤取締法違反による再犯(覚せい剤取締法違反のみによる再犯のほか,これとその他の罪名の犯罪による再犯の場合を含む。以下,この節において「覚せい剤の再犯」という。)がある者が128人(24.7%),その他の罪名の犯罪のみによる再犯がある者が26人(5.0%)であった。
 男女別に見ると,男子の方が,再犯率が高い。また,男女共に,再犯に及んだ者の再犯罪名は,覚せい剤取締法違反が大半であるが,特に,女子は,再犯者28人中,1人を除き,覚せい剤の再犯である。

7-3-1-3-5図 再犯状況(男女別)

 再犯に及んだ者について,再犯期間を男女別に見ると,7-3-1-3-6図のとおりである。
 再犯期間は,窃盗と比べるとやや長いが,再犯に至った者のうち過半数が,2年以内に再犯に及び有罪判決が確定している。なお,男女別に見ると,男子の方が,再犯期間が短い傾向が見られる。

7-3-1-3-6図 再犯期間別構成比(男女別)

 イ 各種事情ごとの再犯状況の分析
 年齢層別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-7図のとおりである。
 50歳以上の年齢層を除き,年齢層が上がるに従って,覚せい剤の再犯率は高くなっている。

7-3-1-3-7図 再犯状況(年齢層別)

 調査対象事件における共犯の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-8図のとおりである。
 男子では,共犯の有無の違いで再犯率に大きな差は見られないが,女子については,「共犯あり」の者の再犯率は,「共犯なし」の者の約2倍と顕著に高くなっている。先に見たように,女子は,調査対象事件において「共犯あり」の者の比率が高く,他人に勧められるなど,他人からの影響で覚せい剤を使用することが少なくないとうかがわれるが,そうした者は,覚せい剤の再犯に及ぶ可能性も,より高いといえる。

7-3-1-3-8図 再犯状況(男女別・共犯の有無別)

 居住状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-9図のとおりである。
 「単身(住居不定・ホームレス)」の者は,再犯率が最も高いが,居住状況による再犯率の違いは,窃盗(7-3-1-2-13図参照)と比べると小さい。

7-3-1-3-9図 再犯状況(居住状況別)

 就労状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-10図のとおりである。
 窃盗事犯者(7-3-1-2-14図参照)と同様,就労状況が不安定な者ほど,再犯率が高い。

7-3-1-3-10図 再犯状況(就労状況別)

 さらに,居住状況と就労状況を複合させて,居住・就労状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-11図のとおりである(なお,「単身(住居不定・ホームレス)」で「安定就労」の者はいなかった。)。
 「単身(定住)」,「単身(住居不定・ホームレス)」の場合,「家族・親族と同居」の場合と比べ,全体的に再犯率が高く,また,就労状況の違いによる再犯率への影響は小さいことがうかがわれる。他方,「家族・親族と同居」の場合,「安定就労」の者は,再犯率が相対的に低いが,「不安定就労」,「無職」の者の再犯率は,「単身(定住)」,「単身(住居不安定・ホームレス)」の場合と大きな差はない。すなわち,覚せい剤事犯者は,居住状況が不安定であれば,就労状況にかかわらず,再犯リスクは大きく,居住状況が安定的な者でも,就労状況が良好でなければ,再犯リスクは低くならない傾向がうかがわれる。

7-3-1-3-11図 再犯状況(居住・就労状況別)

 監督誓約の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-12図のとおりである。
 覚せい剤事犯者では,「監督誓約あり」の者が4人に3人以上と多数であるが,「監督誓約なし」の者は,「監督誓約あり」の者と比べ,再犯率が顕著に高く,覚せい剤の再犯率は,「監督誓約あり」の者の2倍以上であり,その他の罪名の犯罪による再犯も含めると,およそ2人に1人が再犯に及んでいる。

7-3-1-3-12図 再犯状況(監督誓約の有無別)

 さらに,監督誓約の有無と就労状況を複合させて,監督誓約の有無別・就労状況別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-13図のとおりである。
 「監督誓約なし」の者は,「監督誓約あり」の者と比べ,全体的に,再犯率が相当高く,「監督誓約なし」で「安定就労」の者の覚せい剤の再犯率は,就労状況が不安定な者と比べると半分以下と低いものの,「無職」ではあるが「監督誓約あり」の者と比べると高い。このことからすると,覚せい剤事犯者についても,窃盗事犯者と同様に,監督者の存在が再犯の抑止要因として大きいことがうかがわれる。

7-3-1-3-13図 再犯状況(監督誓約の有無別・就労状況別)

 調査対象事件の犯行時において暴力団等関係者(暴力団,右翼暴力集団,暴走族その他の地域暴力集団の構成員,準構成員及び周辺者等をいう。以下,この節において同じ。)であったか否かの別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-14図のとおりである。
 覚せい剤事犯者については,暴力団等関係者であるか否かにより,再犯リスクが大きく異なる。暴力団等関係者は,その約4割が覚せい剤の再犯に及んでおり,その他の罪名の犯罪による再犯も含めると,半数以上が再犯に及んでいる。覚せい剤事犯者については,暴力団等から離脱することも,再犯抑止のための重要な要素であるといえる。

7-3-1-3-14図 再犯状況(暴力団等関係者別)

 最後に,保護観察の有無別に再犯状況を見ると,7-3-1-3-15図のとおりである。
 保護観察に付された者は,保護観察に付されなかった者と比べ,再犯率は若干高いが,窃盗の項でも述べたとおり,そもそも,保護観察は,再犯リスクが高い者に対して付されることが多いので,保護観察に付された者の再犯率が保護観察に付されなかった者と大差のない水準に抑えられていることは,保護観察が改善更生・再犯抑止に効果を上げていることの証左と見ることができる(なお,本調査では,覚せい剤事犯者については,保護観察に付された者の数が少なかったため(全体で36人),窃盗事犯者のように更に細分化した分析はできなかった。また,再犯による執行猶予取消率は,保護観察に付された者で30.6%,保護観察に付されなかった者で22.6%であった。)。
 更生保護法の施行により,保護観察に付された場合,薬物の使用を反復する傾向のある覚せい剤事犯者に対しては,特別遵守事項として,簡易薬物検出検査を含む覚せい剤事犯者処遇プログラムの受講を義務付け,これに違反した場合は不良措置を執ることができることとなった。今後,この制度により,保護観察による改善更生・再犯抑止の効果が更に上がることが期待される。

7-3-1-3-15図 再犯状況(保護観察の有無別)

(3)まとめ

 調査対象の覚せい剤事犯者のうち,約3割が再犯に及んでおり,再犯のうちの8割以上が覚せい剤の再犯であった。
 女子については,「共犯あり」の比率が男子より明らかに高いが,「共犯あり」の場合には,再犯率が高い傾向がみられた。
 覚せい剤事犯者についても,居住状況や就労状況は,再犯の可能性に影響する要因であるが,居住状況による再犯率の違いは,窃盗事犯者と比べると小さい上,居住状況が不安定であれば,就労状況にかかわらず,再犯リスクは大きいなど,就労状況の再犯の可能性への影響は,限定的であることがうかがわれた。
 監督者は,窃盗事犯者と同様,その存在が再犯の抑止要因として大きいとうかがわれた。さらに,覚せい剤事犯者については,暴力団等関係者であることが,相当大きな再犯リスクとなっていた。