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 平成21年版 犯罪白書 第7編/第2章/第2節/3 

3 執行猶予の取消し

 7-2-2-4表は,執行猶予を言い渡された者について,保護観察の有無別の人員及び取消事由別の取消人員等の推移(最近20年間)を見たものである。
 平成20年における執行猶予取消人員6,355人のうち,再犯により禁錮以上の刑に処せられたことを理由とする者は,94.8%(6,026人)を占めている。
 ところで,ある年の執行猶予言渡人員と,同じ年の執行猶予取消人員とでは,その対象が異なるので,前者に対する後者の比率は,厳密には,執行猶予の取消率を意味するものではないが,執行猶予取消しのおおよその傾向を見ることはできる。そこで,ある年の執行猶予言渡人員に対する同じ年の再犯により禁錮以上の刑に処せられたことを理由とする執行猶予取消人員の比率(以下,この編において,「執行猶予取消率」という。)を見ると,平成20年では,13.6%であり,執行猶予言渡罪名別(言渡人員が100人以上のものに限る。)では,毒劇法違反が41.1%と最も高く,次いで,覚せい剤取締法違反(25.5%),窃盗(25.2%)の順であった(検察統計年報による。)。

7-2-2-4表 執行猶予言渡・取消人員等の推移

 7-2-2-5図は,窃盗及び覚せい剤取締法違反について,保護観察率(執行猶予言渡人員に占める保護観察付執行猶予言渡人員の比率をいう。以下,この編において同じ。)及び執行猶予取消率の推移(最近10年間)を見たものである。
 保護観察率は,若干の増減はあるものの,低下傾向にあり,特に覚せい剤取締法違反において顕著である。すなわち,窃盗では平成11年に18.5%であったものが20年には13.4%(10年間で5.1p減),覚せい剤取締法違反では11年に16.2%であったものが20年には9.1%(10年間で7.0p減)まで低下している。また,窃盗の保護観察率は,最近10年間を通じて,犯罪全体の水準よりも一貫して高いが,覚せい剤取締法違反の保護観察率は,12年には窃盗に近い水準にあったものが,18年から犯罪全体の水準とほぼ同程度まで低下している。
 他方,執行猶予取消率は,窃盗及び覚せい剤取締法違反のいずれにおいても,単純執行猶予(保護観察の付かない執行猶予である。以下同じ。)及び保護観察付執行猶予のそれぞれで,犯罪全体の水準と比較して,顕著に高く,ここでも,これらの犯罪の再犯性の高さが示されている。なお,保護観察付執行猶予を言い渡された者は,単純執行猶予を言い渡された者よりも執行猶予取消率が高いが,これは,そもそも,家庭環境や生活状況等の更生のための諸条件がより劣悪な者の場合,単純執行猶予ではなく,保護観察に付される傾向があり,保護観察付執行猶予を言い渡された者は,相対的に再犯リスクが高い者が多いことなどによるものと推測される。

7-2-2-5図 保護観察付執行猶予言渡人員・保護観察率・執行猶予取消率の推移(罪名別)