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 平成21年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/2 

2 窃盗を除く一般刑法犯

 窃盗を除く一般刑法犯の認知件数,検挙件数及び検挙率の推移(最近30年間)は,1-1-2-4図のとおりである。
 窃盗を除く一般刑法犯の認知件数は,平成12年から急増し,16年に58万1,463件と戦後最多を記録したが,17年から減少し続け,20年は,44万5,534件(前年比3万3,780件(7.0%)減)まで減少した。
 検挙件数・人員は,平成15年以降,ほぼ横ばい状態であったが,19年から2年連続で減少し,20年では,検挙件数は19万3,904件(前年比1万6,645件(7.9%)減),検挙人員は16万5,362人(同2万194人(10.9%)減)であった(1-1-1-1図も参照)。
 検挙率についても,窃盗を除く一般刑法犯で,かつて90%前後で推移していたものが,平成12年から急激に低下し続け,16年には,37.8%と戦後最低を記録したが,17年から上昇に転じ,20年は,43.5%と,前年よりやや低下したものの,回復傾向にある。

1-1-2-4図 一般刑法犯(窃盗を除く)認知件数・検挙件数・検挙率の推移

 1-1-2-5図は,主要な罪名について,認知件数,検挙件数及び検挙率の推移(最近20年間)を見たものである(CD-ROM資料1-21-3参照)。

1-1-2-5図 一般刑法犯(主要罪名)認知件数・検挙件数・検挙率の推移

(1)殺人(1-1-2-5図[1]参照)

 殺人の認知件数は,おおむね横ばい傾向にあるが,平成16年から19年まで4年連続でやや減少していたところ,20年は1,297件(前年比98件(8.2%)増)とやや増加した。検挙率は,安定して高い水準(20年は95.4%)を維持している。
 なお,通り魔殺人事件(人の自由に出入りできる場所において,確たる動機がなく通りすがりに,不特定の者を,凶器を使用するなどして殺害する事件をいい,未遂を含む。)の認知件数は,平成16年が3件,17年が6件,18年が4件,19年が8件,20年が14件であり,いずれも,被疑者は検挙されている(警察庁刑事局の資料による。)。

(2)強盗(1-1-2-5図[2]参照)

 強盗の認知件数は,平成15年に昭和20年代後半以降で最多の7,664件を記録したが,平成16年から5年連続で減少し,20年は4,278件(前年比289件(6.3%)減)であった。検挙率は,17年から19年まで3年連続でやや上昇し,20年は,前年と同率の61.1%であった。
 なお,深夜スーパーマーケット強盗(午後10時から翌日午前7時までの間に発生した,営業中のコンビニエンスストア・スーパーマーケットの売上金等を目的とした強盗事件をいい,未遂を含む。)の認知件数,検挙件数及び検挙率(最近10年間)は,1-1-2-6表のとおりである。

1-1-2-6表 深夜スーパーマーケット強盗 認知件数・検挙件数・検挙率

(3)傷害・暴行・脅迫(1-1-2-5図[3]〜[5]参照)

 傷害暴行及び脅迫の認知件数は,いずれも,平成12年に急増した。傷害の認知件数は,その後も増加し続け,15年には昭和50年以降最多の3万6,568件を記録したが,平成16年からは毎年減少し続け,20年は2万8,291件(前年比2,695件(8.7%)減)であった。暴行の認知件数は,19年まで増加し続けていたが,20年はやや減少し,3万1,641件(同325件(1.0%)減)であった。脅迫の認知件数は,おおむね増加傾向が続き,20年は2,651件(同98件(3.8%)増)であった。
 傷害,暴行及び脅迫の検挙率は,いずれも,認知件数の急増に伴い大きく低下していたが,平成16年前後ころから上昇傾向に転じている。
 平成20年における傷害,暴行及び脅迫について,認知件数の発生場所別構成比を見ると,1-1-2-7図のとおりである。

1-1-2-7図 傷害・暴行・脅迫 認知件数の発生場所別構成比

(4)詐欺(1-1-2-5図[6]参照)

 詐欺の認知件数は,平成14年から毎年大幅に増加し続け,17年に昭和35年以降で最多の8万5,596件を記録した後,平成18年から減少に転じ,20年は6万4,427件(前年比3,360件(5.0%)減)であった。検挙率は,9年から急激に低下し続け,16年には32.1%と戦後最低を記録したが,17年から上昇に転じ,20年は47.0%(同5.7p上昇)であった。
 近時の詐欺の急増要因の一つは,振り込め詐欺の多発にある。振り込め詐欺とは,いわゆるオレオレ詐欺(親族を装うなどして電話をかけ,会社における横領金の補てん金等の名目で預貯金口座に現金を振り込ませるなどの方法による詐欺事件(恐喝に当たる事件もある。)をいう。),架空請求詐欺(郵便,インターネット等を利用して,架空料金を預貯金口座に振り込ませるなどの方法による詐欺事件(恐喝に当たる事件もある。)をいう。),融資保証金詐欺(実際には融資しないのに,融資するように装った内容の文書を送付するなどして,融資申込みをした者から保証金等の名目で預貯金口座に現金を振り込ませるなどの方法による詐欺事件をいう。)及び還付金等詐欺(税務署や社会保険事務所等を装い,税金や医療費の還付等に必要な手続を装って口座間送金をさせるなどの方法による電子計算機使用詐欺事件をいう。)の総称である。
 振り込め詐欺の急増に対処するため,これまで,犯行グループの首謀者に至るまでの検挙・処罰の徹底,広報啓発活動の推進など,各種の対策が進められてきた。罰則の新設を伴う立法措置も講じられ,まず,平成16年に,金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(平成14年法律第32号)が改正(平成16年法律第164号による改正)されて,預貯金通帳等の不正売買に対する罰則が新設され,この罰則は,同法の廃止に伴い,犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)に引き継がれた。(なお,20年におけるこれらの法律違反による検察庁新規受理人員は合計444人であった(検察統計年報による。)。)また,振り込め詐欺においては,多くの場合,使用者を特定できない携帯電話が犯行に使用されるが,このような携帯電話の匿名性を排除するため,携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号)により,携帯音声通信事業者に,携帯電話に係る役務提供契約締結時等に契約の相手方等の特定事項を確認する義務が課されるとともに,携帯電話等の不正売買等に対する罰則も新設され,さらに,同法の改正(平成20年法律第76号による改正)により,SIMカード(携帯電話に取り付けて通話を可能にするICチップ)の不正売買等も罰則の対象とされた。(なお,20年における同法違反による検察庁新規受理人員は71人であった(検察統計年報による。)。)
 平成20年における振り込め詐欺(恐喝)の認知件数,検挙件数,検挙人員,検挙率及び被害総額は,1-1-2-8表のとおりである。

1-1-2-8表 振り込め詐欺(恐喝)認知件数・検挙件数・検挙人員・検挙率・被害総額

 前記のとおり,様々な対策が講じられたことなどにより,振り込め詐欺(恐喝)の認知件数は,ここ数年,減少傾向にあったが,平成20年は,増加に転じ,2万481件(前年比14.2%増)であり,被害総額は約276億円(同9.8%増)に上っている。また,20年における検挙率は,21.5%であり,前年(17.2%)より上昇したものの,詐欺・恐喝全体の検挙率(48.0%)や窃盗を除く一般刑法犯の検挙率(43.5%)と比較すると,低い水準にある(警察庁刑事局の資料による。)。
 平成20年7月,警察庁と法務省は,振り込め詐欺の検挙の徹底,ATM周辺における対策の徹底,匿名の携帯電話と口座の一掃及び被害予防活動の徹底を柱とする,振り込め詐欺対策における基本的な考え方を取りまとめ,「振り込め詐欺撲滅アクションプラン」として公表したが,今後も,取締りを徹底するとともに,犯罪者が容易に犯行を行うことができない環境を作るため,官民を問わず,社会を挙げて各種の対策に取り組む必要がある。

(5)強姦・強制わいせつ(1-1-2-5図[9][10]参照)

 強姦の認知件数は,平成9年から増加傾向を示し,15年には最近20年間で最多(2,472件)を記録したが,16年から毎年減少し続け,20年は1,582件(前年比184件(10.4%)減)であった。検挙率は,10年から低下し,14年には62.3%と戦後最低を記録したが,15年から上昇に転じ,20年は83.8%(同4.9p上昇)であった。
 強制わいせつの認知件数は,平成11年から急増し,15年には戦後最多(1万29件)を記録したが,16年から毎年減少し続け,20年は7,111件(前年比553件(7.2%)減)まで減少したものの,高水準にある。検挙率は,11年から急低下し,14年には35.5%と戦後最低を記録したが,15年から上昇に転じ,20年は50.0%(同3.8p上昇)であった。

(6)公務執行妨害(1-1-2-5図[12]参照)

 公務執行妨害の認知件数は,事犯の性質上,検挙件数とほぼ同水準で推移しているところ,平成6年から大幅な増加傾向が続き,18年には戦後最多の3,576件を記録したが,20年は,前年に引き続いてやや減少し,3,239件(前年比330件(9.2%)減)であった。

(7)器物損壊(1-1-2-5図[14]参照)

 器物損壊の認知件数は,平成12年から大幅に増加し,15年には23万743件を記録した。その後,16年から毎年減少し続け,20年は17万8,191件(前年比7,281件(3.9%)減)まで減少したものの,高水準にある。検挙率は,元年から15年までおおむね低下傾向が続き,その後,16年から,若干上昇しているものの,20年は7.4%であり,一般刑法犯全体と比べて低い。
 平成20年における器物損壊について,認知件数の被害対象別構成比を見ると,1-1-2-9図のとおりである。

1-1-2-9図 器物損壊 認知件数の被害対象別構成比

(8)収賄等

 平成20年における収賄の検察庁新規受理人員及び終局処理人員は,1-1-2-10表のとおりである。

1-1-2-10表 収賄 検察庁新規受理・終局処理人員

 平成20年における公務員犯罪の罪名別の検察庁新規受理人員及び終局処理人員は,1-1-2-11表のとおりである。
 新規受理人員について,罪名別に見ると,自動車運転過失致死傷等が1万7,161人(78.5%)と最も多い。

1-1-2-11表 公務員犯罪 検察庁新規受理・終局処理人員(罪名別)

(9)組織的犯罪

 組織的犯罪処罰法違反の検察庁新規受理人員及び通常第一審における没収・追徴金額の推移(最近8年間)は,1-1-2-12図のとおりである。
 平成12年の組織的犯罪処罰法施行後,新規受理人員は増加傾向にあるが,20年は547人で,前年比17.6%減であった。また,最近は,各年,5〜20億円程度の犯罪収益等が剥奪の対象とされている。

1-1-2-12図 組織的犯罪処罰法違反 検察庁新規受理人員・没収・追徴金額の推移