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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/3 

3 初犯・再犯に関する犯歴時の年齢層から見た高齢犯罪者

 7-3-1-4図は,調査対象高齢犯罪者を,犯罪を開始した年齢及び犯罪反復パターンとの組合せから,幾つかの類型に分けてみたものである。

7-3-1-4図 調査対象高齢犯罪者の犯歴時年齢別構成比

 これによると,高齢に達してから犯罪を行い,かつ,初犯でとどまっている者(以下「高齢初犯者」という。)は調査対象高齢犯罪者の53.3%と過半数を占めており,他方,2.6%の者は再犯を行っている。初犯でとどまっている者への対策としては,それまでの長い人生において罪を犯すことなく生活し,高齢になって初めて犯罪に走った要因についての分析が必要である。一方で,これら高齢初犯者に対する処分の内訳を見ると,その71.9%が罰金刑であり,また,公判請求されても執行猶予に付された者は22.6%であって,いきなり実刑に処せられた者は,わずか5%にも満たないことから,犯罪の内容自体は,それほど深刻な状況ではないものが多いと推察される。
 そこで,調査対象高齢犯罪者による犯罪の実態を高齢初犯者(2,726人)について見ると,まず罪名別では,多い順に,傷害・暴行(315人,11.6%),廃棄物処理法違反(215人,7.9%),窃盗(160人,5.9%)となっている。これらに対する処分の状況では,傷害の78.4%(182人),暴行の100%(83人),廃棄物処理法違反の91.6%(197人)の者が,罰金に処せられている。他方,窃盗では91.9%(147人)の者が懲役に処せられ,残りが罰金であったが,前者のうち97.3%(143人)の者は,懲役の執行が猶予されており,実刑はわずか4人に留まっている。
 このことについては,本章第2節において,その背景事情,犯行に走った要因等につき,刑事確定訴訟記録を基に一定の分析を試みた。他方,高齢になってから1犯目を行い,以後犯罪を繰り返す者(以下「高齢再犯者」という。)については,特徴的な傾向が見られるので次項で更に分析する。
 一方で,調査対象高齢犯罪者のうち,高齢に達する以前の犯歴がある者(以下「高齢累犯者」という。)は44.1%であり,その中に,若年時に1犯目を行って以降,中年から高齢に達するまでほぼ間断なく犯罪を続けている者が,調査対象高齢犯罪者のうちで9.8%いる(若年時1犯目以後継続)。そのうちには,多数回再犯者(10犯以上の犯歴のある者)が62.9%含まれており,一人で生涯に犯す犯罪の数が多く,犯罪傾向が強いと認められることから,諸外国にも見られるように,その属性や環境等の分析を行って,特別の対策を検討する必要がある。
 また,高齢累犯者のうちで,30代又は40代以後高齢に達するまでに1犯目を行った者(30代1犯目又は40代以後1犯目)が約半数を占めている。後記のように,これは,加齢に伴う犯罪率の低下傾向の流れに逆らって犯罪を始めているとも言え(本節末尾「年齢と犯罪傾向の関係」参照),これらの者については,特に40代以後1犯目の者を中心に,壮年期の生活の崩れなど,その詳細な分析が重要である。
 そこで,調査対象高齢犯罪者が高齢となる以前に犯した犯罪と高齢になってから犯した犯罪の「罪名の一致率(同種犯罪の反復傾向)」を,犯歴時年齢別に見ると,窃盗,傷害・暴行及び詐欺等が高かった。その中で窃盗の罪名の一致率について見ると,「若年時1犯目以後中断」の者で28.1%,「若年時1犯目以後継続」の者で56.3%,「30代1犯目」の者で53.8%,「40代以後1犯目」の者で75.0%となっている。特徴的なことは,若年時から一貫して犯罪を継続してきた者(若年時1犯目以後継続)と壮年期以降に犯罪を始めた者(40代以後1犯目)に窃盗の反復傾向が見られ,特にそれは後者において顕著である。また,傷害・暴行における罪名の一致率では,「若年時1犯目以後中断」の者で25.0%,「若年時1犯目以後継続」の者で22.0%,「30代1犯目」の者で27.3%,「40代以後1犯目」の者で30.0%となっており,窃盗のように,加齢に伴って一致率が上昇する傾向は見られない。しかし他方,いずれの年代において傷害・暴行を始めたものであっても,2〜3割の比率の者は,高齢になってからも粗暴傾向を維持している。