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 平成20年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節/1 

第1節 刑事手続と被害者とのかかわり

1 不起訴処分に対する不服申立制度

 公訴権は,原則として検察官のみに付与されており,また,検察官には公訴の提起について広い裁量権がある。しかし,検察官が判断を誤り,起訴すべき事件を起訴しない可能性もあることから,検察官の公訴を提起しない処分(不起訴処分)に対する不服申立ての制度として,検察審査会に対する審査申立て及び管轄地方裁判所に対する付審判請求(「準起訴手続」ともいう。)の制度がある。
(1)検察審査会に対する審査申立て
 検察審査会は,選挙人名簿に基づき,くじで選定された11人の検察審査員(任期6か月)により組織され,申立てにより又は職権で,検察官の不起訴処分の審査を行い,「起訴相当」,「不起訴不当」又は「不起訴相当」の議決を行う。
 これまで,検察審査会の議決には,いわゆる法的拘束力はなく,検察官は,同議決を参考にしつつも,公訴を提起するかどうかは最終的には自ら判断するものとされていたが,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)により一部改正された検察審査会法(昭和23年法律第147号)において,一定の場合に検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度が導入され,平成21年5月21日から施行されることとなった。新制度では,検察官が不起訴処分とし,検察審査会が「起訴相当」の議決を行った事件につき,検察官が再度不起訴処分にした場合又は一定期間内に公訴を提起しなかった場合には,検察審査会は,再度の審査を行わなければならない。そして,検察審査会が,再度の審査の結果,「起訴をすべき旨の議決」(以下「起訴議決」という。)を行ったときは,裁判所により検察官の職務を行う弁護士(以下「指定弁護士」という。)が指定され,この指定弁護士が,起訴議決に係る事件について,公訴を提起し,その維持に当たることになる。また,同じく同法の一部改正により,同年4月1日から,検察審査会の設置数の下限(200庁)を定める規定が撤廃されることを受け,全国に201庁あった検察審査会は,165庁に統合されることとなった。
 検察審査会における事件の受理・処理人員(最近5年間)は,5-2-1-1表のとおりである。

5-2-1-1表 検察審査会事件受理・処理人員

 平成19年の新受人員のうち,刑法犯は2,096人であり,罪名別に見ると,業務上過失致死傷が478人と最も多く(業過のうち道路上の交通事故に係るものは含むが,自動車運転過失致死傷は含まない数値である。),次いで,職権濫用(343人),文書偽造(222人),傷害(214人),詐欺(145人)の順であった。特別法犯は178人であり,労働基準法違反が41人と最も多かった(最高裁判所事務総局の資料による。)。
 起訴相当又は不起訴不当の議決がされた事件について,検察官が執った事後措置(最近5年間)を,原不起訴の理由別に見ると,5-2-1-2表のとおりである。

5-2-1-2表 起訴相当・不起訴不当議決事件の原不起訴理由別事後措置

 検察審査会法の施行後の昭和24年から平成19年までの間に,累計で,延べ15万770人の処理がされ,延べ1万7,190人について起訴相当又は不起訴不当の議決がされている。このうち,延べ1,373人が起訴され,1,227人が有罪(自由刑429人,罰金刑798人)になっており,無罪(免訴及び公訴棄却を含む。)を言い渡された者は78人である(最高裁判所事務総局の資料による。)。
(2)付審判請求
 付審判請求は,公務員による各種の職権濫用等の罪について告訴又は告発をした者が,不起訴処分に不服があるとき,事件を裁判所の審判に付するよう管轄地方裁判所に請求することを認める制度である。
 地方裁判所は,付審判の請求に理由があるときは,事件を裁判所の審判に付する旨の決定を行う。この決定により,その事件について公訴の提起があったものとみなされ,裁判所は,公訴の維持に当たる者を弁護士の中から指定し,検察官の職務を行わせる。
 平成19年の付審判請求の受理人員は202人,処理人員は206人であり,付審判決定はなかった(司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料による。)。