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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第3章/第1節/1 

第1節 「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」等

1 犯罪に強い社会の実現のための行動計画

 犯罪情勢の悪化を受けて,政府は,平成15年9月,犯罪対策閣僚会議を開催し,治安回復のため,「国民が自らの安全を確保するための活動の支援」,「犯罪の生じにくい社会環境の整備」及び「水際対策を始めとした各種犯罪対策」の三つの視点が重要であることを確認した。そして,同年12月,犯罪対策閣僚会議において,これら三つの視点を前提としつつ,今後5年間を目途に,国民の治安に対する不安感を解消し,犯罪の増勢に歯止めをかけ,治安の危機的状況を脱することを目標として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画─「世界一安全な国,日本」の復活を目指して─」を策定した。
 同行動計画は,「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」,「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」,「国境を越える脅威への対応」,「組織犯罪等からの経済,社会の防護」及び「治安回復のための基盤整備」の五つの重点課題を設定し,それぞれについて具体的な施策を推進することとした。
 その主な内容は,以下のとおりである。

(1) 平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止

 「地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現」,「犯罪防止に有効な製品,制度等の普及促進」及び「犯罪被害者の保護」の施策を推進することとした。
 「地域連帯の再生と安全で安心なまちづくりの実現」に関しては,「自主防犯活動に取り組む地域住民,ボランティア団体の支援」,「犯罪の発生しにくい道路,公園,駐車場等の整備・管理」,「学校等の安全対策の推進」等19項目の具体的な施策を挙げた(地域の犯罪予防活動については,本章第2節参照)。
 「犯罪防止に有効な製品,制度等の普及促進」に関しては,「自動車盗難防止装置の普及」,「預金口座の不正利用防止対策の推進」等15項目の具体的な施策を挙げた(金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律並びに携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律については,第1編第2章第3節参照)。
 「犯罪被害者の保護」に関しては,「刑事手続における被害者対策の推進」,「被害者等に対する支援等の推進」等8項目の具体的な施策を挙げた(犯罪被害者等基本法及び犯罪被害者等基本計画については,本章第3節6参照。刑事司法における被害者への配慮については,第5編第2章参照)。

(2) 社会全体で取り組む少年犯罪の抑止

 「少年犯罪への厳正・的確な対応」,「少年の非行防止につながる健やかな育成への取組」及び「少年を非行から守るための関係機関の連携強化」の施策を推進することとした。
 「少年犯罪への厳正・的確な対応」に関しては,「非行少年の保護観察の在り方の見直し」,「触法少年事案に関する調査権限等の明確化」,「少年法制とその運用上の問題点に関する検討」等6項目の具体的な施策を挙げた(少年法等の一部を改正する法律案については,本章第3節5参照)。
 「少年の非行防止につながる健やかな育成への取組」に関しては,「少年補導活動の強化による非行少年の早期発見・早期措置」,「地域社会における教育と少年の居場所づくりの促進」等14項目の具体的な施策を挙げた。
 「少年を非行から守るための関係機関の連携強化」に関しては,「関係機関等の連携による少年サポートチームの普及促進」等2項目の具体的な施策を挙げた。

(3) 国境を越える脅威への対応

 「水際における監視,取締りの推進」,「不法入国・不法滞在対策等の推進」,「来日外国人犯罪捜査の強化」及び「外国関係機関との連携強化」の施策を推進することとした。
 「水際における監視,取締りの推進」に関しては,「盗難自動車等の不正輸出の防止」等9項目の具体的な施策を挙げた。
 「不法入国・不法滞在対策等の推進」に関しては,「入国審査時における在留資格審査等の厳格化」,「不法滞在者の摘発強化と退去強制の効率化」,「人身取引等に係る行為を処罰するための法整備に関する検討」,「不法滞在外国人を減少させるための法整備」等18項目の具体的な施策を挙げた(不法入国・不法滞在対策等の推進については,本章第6節参照。人身取引等に係る罰則整備等を内容とする刑法等の一部を改正する法律(平成17年法律第66号)については,本章第3節2参照。入管法の一部を改正する法律については,本章第3節10参照)。
 「来日外国人犯罪捜査の強化」に関しては,「来日外国人犯罪の取締りと適切な刑事処分の推進」等2項目の具体的な施策を挙げた。
 「外国関係機関との連携強化」に関しては,「国際捜査共助の充実化と条約締結の検討」等6項目の具体的な施策を挙げた(捜査・司法に関する国際共助については,第2編第6章第3節参照)。

(4) 組織犯罪等からの経済,社会の防護

 「組織犯罪対策,暴力団対策の推進」,「薬物乱用,銃器犯罪のない社会の実現」,「組織的に敢行される各種事犯の対策の推進」及び「サイバー犯罪対策の推進」の施策を推進することとした。
 「組織犯罪対策,暴力団対策の推進」に関しては,「組織犯罪に対する有効な捜査手法等の活用・検討」,「国際組織犯罪防止条約の早期締結及び関連法の整備」等10項目の具体的な施策を挙げた(犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案については,本章第3節4参照)。
 「薬物乱用,銃器犯罪のない社会の実現」に関しては,「薬物密輸の水際での阻止」,「水際対策を始めとする銃器事犯捜査等の徹底」等11項目の具体的な施策を挙げた。
 「組織的に敢行される各種事犯の対策の推進」に関しては,「消費者保護対策の強化」等8項目の具体的な施策を挙げた。
 「サイバー犯罪対策の推進」に関しては,「サイバー犯罪条約の早期締結及び関連刑事法の整備」等6項目の具体的な施策を挙げた(犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案については,本章第3節4参照)。

(5) 治安回復のための基盤整備

 「地方警察官等の増員」,「検察官等,税関職員,海上保安官等,麻薬取締官の増員」,「出入国管理に係る体制・施設・装備等の充実強化」,「刑務所等矯正施設の過剰収容の解消と矯正処遇の強化」,「更生保護制度の充実強化」,「充実・迅速な公判審理の実現」,「凶悪犯罪等に関する罰則整備」等14項目の具体的な施策を挙げた(受刑者処遇の充実強化については,本章第4節参照。更生保護制度の改革の方向については,本章第5節参照。執行猶予者保護観察法の一部を改正する法律については,本章第3節9参照。刑事裁判の充実・迅速化については,本編第5章第1節参照。凶悪犯罪の法定刑の引上げ及び有期刑の上限の引上げを含む刑法等の一部を改正する法律(平成16年法律第156号)については,本章第3節1参照)。