前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成18年版 犯罪白書 第2編/第6章/第1節/1 

第6章 刑事司法における国際協力

第1節 刑事司法における国際的な取組の動向

1 国際連合

(1) 総論

 国際連合(以下「国連」という。)は,犯罪による人的・物的な損失及びその社会・経済発展への悪影響を減らすこと,並びに刑事司法の国連基準・準則の履行を促進することを目的として活動している。
 1950年の国連総会で承認された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議(現名称は「国連犯罪防止刑事司法会議」)は,刑事司法の各領域にわたる政策の提案,意見交換のため,1955年の第1回会議以降5年ごとに開催されている。2005年4月にバンコクで開催された第11回会議において,加盟国が「バンコク宣言」を採択し,犯罪人引渡しや司法共助を含めた分野に関し,犯罪・テロ対策に関する国際協力の改善を図る意思を再確認するとともに,各国に対し,組織犯罪,テロ,腐敗,経済・金融犯罪等への対策を呼び掛けた。
 また,経済社会理事会の下の機能委員会として,犯罪防止刑事司法委員会が1992年に設置された。同委員会は,国連における刑事司法分野の政策決定に携わるもので,毎年1回,ウィーンで開催され,我が国は,設立当初からその構成国に選出されている。

(2) 薬物犯罪対策

 「
1961年の麻薬に関する単一条約」,「向精神薬に関する条約」に引き続き,1998年12月,「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」が国連において採択され,これまでに我が国は,これらの条約を締結し,国内法を整備したほか,国連薬物犯罪事務所(United Nations Officeon Drugsand Crime, UNODC)が中心になって取り組んでいる国際的な薬物犯罪対策分野での国際協力にも力を入れている。

(3) 国際組織犯罪対策

 2000年の国連総会において,重大犯罪の共謀又は組織的な犯罪集団の犯罪活動等への参加,マネー・ローンダリング(犯罪収益の洗浄)及び腐敗行為等の犯罪化,犯罪収益の没収及びそのための国際協力,組織犯罪に係る犯罪人の引渡し,法律上の相互援助,証人の保護等について定めた「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「国際組織犯罪防止条約」という。)が採択された。2003年5月に同条約締結につき国会承認が得られたが,関連国内法が成立していないため,未締結のままとなっている。
 また,同条約を補足する「人(特に女性及び児童)の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書」(以下「人身取引議定書」という。),「陸路,海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書」(以下「密入国議定書」という。)及び「銃器並びにその部品及び構成部分並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書(仮称)」(銃器議定書)の各議定書も,2001年までに国連総会で採択された。2005年6月8日,人身取引議定書及び密入国議定書の締結につき国会承認が得られ(国際組織犯罪防止条約未締結のため,両議定書も未締結)これらの国内担保法として,同月16日,人身取引等に係る罰則整備等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律」(平成17年法律第66号)が成立し,同年7月12日(一部は同年12月10日及び同月22日)から施行されている(一部未施行)。

(4) 児童・女性等に対する犯罪対策

 1989年の国連総会において「児童の権利に関する条約」が採択され,我が国は,1994年,同条約を批准している。2000年の国連総会において,「児童売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」及び「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」が採択され,2004年4月,その締結につき国会承認が得られた。「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」については,我が国は,2004年8月に批准し,同年9月から効力が生じている。また,「児童売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」については,我が国は,2005年1月に批准し,同年2月から効力が生じている。同議定書の国内担保法として,2004年6月11日,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第106号)が成立し,同年7月8日から施行されている。

(5) 汚職・腐敗対策

 2003年10月,国連総会において,外国公務員等に対する贈賄の犯罪化や腐敗収益の被害国への返還の枠組み等について定めた「腐敗の防止に関する国際連合条約」が採択され,2006年6月2日,同条約締結につき国会承認が得られた。

(6) テロ対策

 国連では,従来からテロを防止する目的で,テロリストをいずれかの国で処罰できるようにするための国際条約等が採択されてきた。1999年,国連総会において,「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」が採択された。我が国は,2002年6月に同条約を締結し,テロ防止対策に関する12の国際条約及び議定書のすべてについて締結済みとなった。2001年9月の米国における同時多発テロ事件以後,既存のテロ防止関連条約を改正する動きがあり,2005年7月には,国際原子力機関において,「核物質の防護に関する条約」の改正が採択された。さらに,同年10月,国際海事機関において,「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」及び「大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書」の改正議定書が採択された。また,2005年4月には,国連総会において,新たなテロ防止関連条約である「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約(仮称)」が採択され,我が国は,同年9月に署名した。