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 昭和39年版 犯罪白書 第四編/第一章/二/3 

3 性犯罪,性的非行

 さきに第一編第二章の性犯罪の項において述べたとおり,わが国における性犯罪の過去一〇年間における発生状況をみると,強かん,わいせつともに昭和三三年以降飛躍的に増加し,年年上昇の傾向をみせてきた。ただ,昭和三七年度における強かんの発生件数は,その前年より若干減少しているが,わいせつ関係の犯罪が依然として増加しているので,性犯罪全体としてはなお上昇の一途をたどっている。
 しかるに少年の性犯罪のうち,強かんで検挙された者の数は,昭和三三年をピークとして,その後,年をおって減少の傾向にある。これに対してわいせつは,なお年ごとに上昇傾向を示しているが,両者を合わせた性犯罪の数は,強かんと同様に,昭和三三年を頂点として,その後,逐年減少の傾向を示している(前掲I-13表参昭)。
 しかしながら,強かんで検挙された少年の年齢構成をみると,IV-16表の(4)に示すように,かならずしも一様に減少していない。すなわち,一四〜一五才の年少少年では,昭和三三年から,昭和三四年にかけて飛躍的に増加し,その後,若干減少のけはいを示したが,昭和三六年からふたたび上昇しはじめ,翌三七年には実人員において昭和三四年をりょうがしている。ただし,同じ年齢層の基礎人口が増加しているので,人口に対する比率を求めると,昭和三四年のピークには達していない。この人口対比率を,昭和二九年を一〇〇とすれば,昭和三四年には三〇〇に達していたのが,昭和三六年には二〇〇に低下し,昭和三八年には二八三におよんでいる。
 ぐ犯行為の中で性的非行に属するものは,不純異性交遊と好女誘惑であるが,これも昭和三三年,三四年に多く,その後は減少の傾向にある。したがって,性犯罪ないし性的非行を全体としてみた場合,昭和三三年から昭和三四年にかけての,比較的急速な上昇をピークとして,その後は徐徐にではあるが減少の傾向を示しているということができる。
 ただし,このような全般的な下降ムードに逆行して一四〜一五才の年少少年では,昭和三六年頃からふたたび上昇傾向を示しているのは注目しなければならない。
 このように,性犯罪の検挙人員は総体的にみた場合,減少傾向を示しているが,少年院,少年刑務所などの矯正施設に収容されている者の中の性犯罪者の割合は年年ふえている。そこで,法務総合研究所においては,全国の少年鑑別所,少年院,少年刑務所に収容されている者のうち,性犯罪を行なった者についてその実態を調査した。
 少年鑑別所収容者については,昭和三六年の一年間に収容された者について調査を行なったが,性犯罪および性的非行を行なっている者の全収容者に対する割合は男子八・八%,女子三・七%,行為内容をみるとIV-20表に示すとおり,男子では強かんが圧倒的に多く八四%であり,女子では売春が七一%である。

IV-20表 少年鑑別所収容者中の性犯罪の行為内容(昭和36年)

 少年院収容者については,昭和三七年一月末日現在員について調査が行なわれたが,性犯罪ないし性的非行者の割合は男子の八・四%,女子の二六・六%であった。行為内容をみると,IV-21表のとおり男子では強かんが九一・四%を占め,女子では売春が六四・五%に及んでいる。

IV-21表 少年院,少年刑務所収容者中の性犯罪の行為内容(昭和37年1月末日現在)

 少年刑務所収容者については,少年院と同じ条件で調査を行なったが,性犯罪を行なっている者の割合は一五・一%で,行為内容では,IV-21表に示すとおり,八・一%の未遂を含めて,実に九六・四%が強かんであった。
 とくに男子の性犯罪で注目すべき点は,すでに述べたように,共犯関係者の多いことで,同時に調査した成人受刑者では三五・六%が共犯であるのに対し,少年鑑別所収容者の五七%,少年院収容者の六二%,少年刑務所収容者の七五%が共犯であった。しかも,多人数のグループによるいわゆる輪かんが多く,五人以上の集団犯に間関与している者の数は,少年院に収容されていた性犯罪者の二一・二%,少年刑務所に収容された性犯罪者の二五・六%にのぼっている。
 そのほか,少年の性犯罪でとくに注目すべき点は,暴行,傷害,恐かつなどの粗暴犯との関連がふかいことである。少年院に収容された性犯罪者の三五%,少年刑務所に収容された性犯照者の二九%に暴力犯罪の合併がみられ,非行が暴力犯罪で始まっている者は,少年院収容者の五〇%,少年刑務所収容者の一九%にみられる。
 なお,女子の性的非行として売春が圧倒的に多いことはすでにのべたとおりであるが,そのうち非行が売春で始まっている者は,少年院収容者の二四%にすぎない。窃盗その他の犯罪で始まっている者は一七%で,残りの五九%,すなわち大半は家出,不良交友,不純異性交遊などのぐ犯行為から出発している。
 欧米などの諸外国では,性犯罪の中に性倒錯的行為が多いが,そのような性犯罪者には病的人格者が多いとみなされている。わが国の性犯罪者については,少年鑑別所に収容された者について調査したところによると,IV-22表のとおり,精神薄弱,精神病質,精神病などの精神障害者は一五%前後で,正常者と異常者の中間的な不健康者が七〇%前後を占めている。

IV-22表 性的非行者の精神状況(昭和36年)

 青少年の性犯罪ないし性的非行は,後にのべる身体的性的成熟と密接な関連にあるものであり,粗暴犯とともにその増加の傾奸が憂慮されてきたが,一四〜一五才の年少少年を除いては,すくなくとも犯罪統計より得られたデータに関するかぎりでは,抑制的,安定的な方向に動いているということができる。