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 昭和39年版 犯罪白書 第三編/第一章/五/2 

2 刑務事故,懲罰事犯の処理

 懲罰事犯に対しては,監獄法の規定によって懲罰が科され,きわめて悪質な事犯の場合には,刑事事件として,検察官へ事件を送致または告発するなどの手続がとられる。昭和三七年に懲罰を科された事犯(二八,五三六人,内容についてはIII-43表(2)参照)について,それぞれおもな懲罰の種類を一つだけ拾ってみると,III-45表の受罰人員欄に示すとおりである。もっとも重い軽へい禁(二か月以内の期間,懲罰房に収容して,必要不可欠と認める場合のほかは,居室から出さないで,反省黙居させる方法)を科されたものが八二・四%でもっとも多く,以下,叱責(一二・二%),作業賞与金の減削(一・九%),文書,図画の閲読禁止(一・七%)などの順である。事犯によっては,他の種類の懲罰が併科される。昭和三七年の受罰者では,主たる懲罰のほかひとり平均〇・八種の懲制が併科されており,もっとも軽い叱責のほかは,たいてい他の懲罰が併科されているといえる。併科される懲罰のなかでは,文書,図画の閲読禁止がもっとも多く,(併科された懲罰延数の八九・三%),作業賞与金の減削(四%),運動停止(二・九%),などである。なお,減食,作業賞与金の減削,賞遇廃止などは,受刑者に限られ,自弁の糧食や衣類,が具の着用の禁止などは,受刑者以外のものに科されている。

III-45表 懲罰の種類別受罰人員(昭和37年)

 在所中の行為により起訴された人員は,昭和三七年には二九〇人におよんでいるが,そのうち受刑者は二三四人を占める。罪名別にみると,III-46表のとおり,傷害が大部分を占めている。

III-46表 在所中の行為により起訴された被収容者(昭和37年)

 懲罰事犯に対しては,以上のような処置がとられるわけであるが,法務総合研究所が法務省矯正局の協力を得て行なった問題受刑者,とくに集団地遇の困難なもの(三六三人)についての抽出調査では,次のような事実が明らかにされた。
 第一に,集団処遇困難者として処遇されているものは,大部分が懲罰事犯をくりかえしていること,たとえば,軽へい禁の懲罰をうけたものは,全体の八七%を占め,その回数は,ひとりあたり平均三・七回となっており,懲罰の効果がほとんどみられないこと。
 第二に,これらのものは,懲罰終了後もひきつづいて独居に収容し,相談助言,生活指導,情操教育あるいは医療を施すように努力しているが,専門職員の不足,あるいは独居の不足(昨年も指摘したとおり独居の定員は,全体の三〇%にも満たない)から,所期の効果をあげえないこと。
 第三に,過半数のものが,明らかに精神障害(精神病,精神病質,神経症および精神薄弱)であると診断されていること,しかし,他方,四〇%近くのものは,正常またはそれに近いパーソナリティの持ち主であることは,それぞれ異なった処遇のくふうを必要とするものであること。
 第四に,懲罰事犯となるような行動の発生の起源は,たいてい施設収容時にまで,さかのぼることができること。すなわち,入所時オリエンテーションの不十分なために,やむを得ずとられた施設生活への適応のまずさと理解されるものが少なくないこと。このことに関連して,問題受刑者の中には,未決当時の行状,あるいは前刑当時の行状から,今回の受刑にあたって当初から独居に収容され,あるいはそのような心構えで処遇され,かえって本人の態度を悪化させている例が注意されたこと(一一・六%)。
 第五に,問題行動は,被収容者の施設収容にともなう種々の心理的不満が,職員や仲間の言動をきっかけとして発生しているものが多いこと。いいかえると,ふだんの被収容者をとりまく人間関係のあつれきの爆発として理解できる場合の多いこと。したがって,施設で集団処遇困難と考えているものに多い「攻撃的な敵意をもち,それを,職員や仲間に向けたり,まわりの器物に向ける」行動ばかりでなく,被収容者としての生活を,かれらのみの社会構造をうまく利用することによって,自己満足を得ようとしたり,孤立や逃走に目標をおいて生活するものも,実は,処遇面ではあまり目につかないが,全く同じ心理機制によっていること。