前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和39年版 犯罪白書 第一編/第三章/五/2 

2 暴力組織の種類と実態

 暴力組織または暴力団という言葉は,必ずしも明確ではないが,通常は「集団的に,または常習的に暴力的不法行為を行ない,または行なうおそれがある組織,集団」を指称しているといえよう。このような集団としてはばく徒,暴力テキ屋(以下テキ屋と称する),青少年不良団(愚連隊)が代表的なものとされているが,このほかにも,会社ごろ,新聞ごろ,売春,炭鉱,港湾暴力団,不良土建,右翼くずれ,不良興信所,押売り,事件屋,パクリ屋,暴力手配師などと称せられているものもある。これらの団体のある種のものは古い伝統を持ち,ある種のものは集団としての離合集散常ならないものもあって,必ずしも一律には論じられない点もあり,さらにこれらの組織は,さきにも述べたように秘密性,流動性がつよいためその正確な実態をは握することはきわめて困難である。したがって,統計的諸資料の解釈についても慎重に検討を加える必要があるが,一広,取締り当局のは握している資料によって,その現況を展望することとする。
 昭和三八年一二月末日現在で,警察がは握している暴力団体の数および構成員数は,五,一〇七団体一八四,〇九一人であって,これを最近六年間の傾向でみると,I-37表に示すように,団体数においては,昭和三四年に前年より六八二と大幅に増加して以来,おおむね五,〇〇〇団体前後の線を保持してきている。一方,構成員数をみると,昭和三三年に九二,八六〇人であったものが,累年増加を続け,昭和三八年には三三年の約二倍の増大を示すにいたっている。これは,一面暴力組織にたいする取締りの強化に伴って,その実態の解明がすすみ,従来,明らかにされていなかった組織構成員がは握されるにいたったという事情もあると考えられるが,また他面,暴力組織にあらたに加入する者が年年跡を断っていないという事実をも裏書きするものとみるべきであろう。

I-37表 暴力組織数および構成員数の推移(昭和33〜38年)

 このような量的増大とあいまって,最近の暴力組織は質的,内容的にも特色ある動きをみせている。これらの動きの根源となっているのは,暴力組織全体の系列化ということである。戦後,いわゆるブラックマーケットの時期を経て,それぞれの勢力が一広安定した暴力組織は,その後の社会経済的諸条件の変化とあいつぐ取締りの強化のため,その構造機能の面でも変容をきたし,外部にも自衛のための組織強化の手段を講ぜざるをえなくなってきており,その最も典型的な形として,組織の大同団結,系列化の傾向がみられるにいたっている。すなわち,さきに第一章においてふれたとおり,大都市を中心とする一部の強力な暴力組織は,その勢力範囲の拡大を図り,地方中小都市の組織に働きかけて,これを自己の系列化におこうとする動きがみえている。警察庁の調査によれば,I-38表に示すとおり,構成員一〇〇人未満の暴力組織は,最近横ばい状態であるのに対して,一〇〇人以上の大組織は累年増加して,昭和三七年には一〇三を数えるにいたっており,さらにI-39表によって,二つの都道府県以上にまたがって勢力を有する暴力組織の傾向をみると,最近三年間に一倍半以上の増加をみせていることも,この間の事情を物語るものといえよう。

I-38表 暴力団の規模別団体数(昭和35〜37年)

I-39表 2都道府県以上にまたがり勢力を有する暴力団体数(昭和35〜37年)

 このような動きは,それに伴って,地元既存暴力組織または反目関係にある他系列組織との間に,利権の争奪,構成員の獲得などの形で対立抗争を招来し,後に述べるような暴力的不法行為の原因となっていることは注意をしなければならないところである。