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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第3節/2 

2 更生保護施設

 更生保護施設は,更生のための保護を必要としている保護観察対象者や更生緊急保護の対象者等を収容し,宿泊所の供与,教養,訓練,医療又は就職の援助,社会生活に必要な生活指導等を行う施設である。行刑施設から釈放されても行き場のない仮出獄者,保護観察付き執行猶予者,満期釈放者らは少なくなく,これらの者が再び社会に戻って更生していくためには,その足掛かりとなる場所が不可欠である。更生保護施設は,そのための施設であり,被保護者は,更生保護施設に身を寄せている間に仕事や住居を探して準備を整え,自立していく。
 法律上,国や地方公共団体が更生保護施設を営むことも可能であるが,現在その例はなく,全国にある101の施設は,すべて法務大臣の認可を受けた民間の更生保護法人によって運営されている。他方,釈放者等に対して必要な保護を与えることは国の責務でもあるから,国(保護観察所の長)から各施設に対して,その保護を委託する形態となっている。

 以下では,保護司と共に,民間における更生保護の担い手として最も重要な位置を占める更生保護施設について概観することとする。

(1) 施設数及び定員

 5-5-3-17図は,各年3月末日現在において,更生保護施設又は更生保護会を運営する団体数の推移を見たものである。昭和35年には172団体があったが,経営基盤の脆弱性,施設の老朽化などから減少を続け,平成16年3月末日現在,99の更生保護法人によって101の施設が運営されている。

5-5-3-17図 更生保護施設を営む団体数の推移

 5-5-3-18図は,各施設の分布状況及び平成16年4月1日現在における収容定員等を見たものであるが,9割近くが男子専用施設であり,収容定員の約8割が男子成人である。また,101施設の定員の平均は22.3人であり,比較的小規模な施設が多い。

5-5-3-18図 更生保護施設の分布状況及び施設数・収容定員

(2) 職員

 更生保護施設には,施設長,補導主任,補導員,調理員などの職員が勤務している。平成16年4月1日現在,全国の職員数(非常勤を含む。)の合計は581人であり,1施設当たりの平均は5.8人である。職員の平均年齢は60.3歳であり,101人(17.4%)は住込みで勤務している。また,職員のうち381人(65.6%)が保護司の委嘱を受けている(法務省保護局の資料による。)。
 犯罪や非行をした者を保護するという仕事の困難性に加え,少人数による宿直・交替勤務など厳しい条件の下,比較的高齢の者が更生保護施設における処遇を支えているのが現状である。

(3) 収容保護の動向

 5-5-3-19図は,昭和48年度以降における被保護者の実人員(折れ線グラフ)及び年間延べ人員(棒グラフ)の推移を見たものであり,平成15年度における実人員は9,695人,年間延べ人員は58万8,846人であった。近年の傾向として,実人員がおおむね横ばいで推移している中,年間延べ人員は増加を続けている。これは,入所者の在所期間が長期化する傾向にあることを意味しており,その背景には,不況による就職難があると考えられる。

5-5-3-19図 更生保護施設被保護者実人員及び延べ人員の推移

 5-5-3-20図は,昭和48年度以降における被保護者延べ人員について,種類別の構成比の推移を見たものである。同図の「援護等」は,保護観察対象者と刑の執行停止者を含むが,後者の例はほとんどなく,ほぼ全員が保護観察対象者である。

5-5-3-20図 更生保護施設被保護者延べ人員の種類別構成比の推移

 昭和48年度以降,保護観察対象者(援護等)の比率が大幅に上昇する一方,任意保護(更生緊急保護の期間を過ぎた者など,国による委託の対象とならない者を,更生保護施設が任意に保護するもの)の比率が低下しており,平成15年度においては,保護観察対象者72.5%,更生緊急保護24.6%,任意保護2.4%となっている。更生保護施設における業務の比重が,任意保護や更生緊急保護から保護観察処遇に移ってきていることが分かる。
 なお,平成15年に更生保護施設に委託保護された保護観察対象者の内訳を見ると,仮出獄者が84.1%,保護観察付き執行猶予者が9.9%,少年院仮退院者が4.2%,保護観察処分少年が1.7%となっており,大半が仮出獄者である(保護統計年報による。)。

(4) 更生保護施設の処遇機能の強化

 更生保護施設の持つ刑事政策上の重要性にかんがみ,平成6年に老朽施設の改築等を促進するための補助金の支出などに関する制度が設けられたほか,8年には更生保護法人の創設等を内容とする更生保護事業法が施行され,法整備が進んだ。5-5-3-21表は,6年度以降,補助金による補助を得て改築又は改修等を行った施設数を示したものである。
 このようにして,更生保護施設の「ハード面」が整えられつつあることを受け,平成12年には,いわば「ソフト面」の整備方策として,更生保護施設の処遇機能を充実させるための基本計画が策定された。さらに,14年には,更生保護事業法の改正によって,「社会生活に適応させるために必要な生活指導」を行うことが更生保護事業の一内容であることが,法律上も明記された。これは,更生保護施設を積極的に処遇の場として位置付ける意味を有するものであった。
 このような流れの中で,各更生保護施設では,処遇機能の強化に向けて,それぞれの特性や状況を踏まえた取組を行っている。その内容としては,SST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング),関係機関及び団体と連携しての酒害・薬害教育,コラージュ療法,親子関係改善を促進するためのグループワーク,外部カウンセラーの導入などがあるが,特にSSTの導入が急速に進んでおり,平成16年4月1日現在,35の施設でこれを実施するに至っている(法務省保護局の資料による。)。

5-5-3-21表 更生保護施設の改築・改修状況

(5) 地域社会との協調

 地域社会に存在する更生保護施設にとっては,地域の人々との協調関係を形成し維持することが非常に大切な要素であり,それが,有効な処遇を支える基盤ともなる。そのため,更生保護施設においては,保護司会,更生保護女性会及びBBS会の協力を得るなどして,地域住民も参加できるイベント(餅つき大会,盆踊り大会,子育て支援講座等)を開催したり,施設の集会室を各種会合やサークルの場として地域住民に開放し,また,図書室を備えて地域住民の利用に供するなど様々な活動を行っている。

(6) 小括

 更生保護施設は,釈放後,困窮などにより更生に支障がある者に単に宿泊場所や食事を提供する場から,積極的に社会生活に適応させるための処遇を行う施設へと変容を遂げようとしている。平成15年においては,仮出獄者のほぼ4人に1人が更生保護施設を社会復帰への足掛かりとしており(5-5-2-9図参照),今や,更生保護施設は,仮出獄や保護観察といった制度を運営していく上で,必要不可欠であるといってよい。また,日ごろは目立たない更生保護施設であるが,我が国の治安を底辺で支えるものとしてその意義は大きい。頼れる身寄りのない犯罪者や非行少年を,社会がどのように保護し,改善更生の場を提供するのか。その課題にこたえる上で,更生保護施設の機能強化は,今後の犯罪者処遇の一つの鍵を握っているといえる。
SSTってどういうもの?
 SSTは,ソーシャル・スキルズ・トレーニングの頭文字を取ったものであり,「社会生活技能訓練」などと訳される援助技法です。これは,カウンセリングや心理療法などの援助技法のうち,対象者の行動上の問題点やこれをもたらす考え方(認知)に焦点を当てて,それらの改善を促す認知行動療法の一つと位置付けられており,更生保護施設のほか,少年院などでも取り入れられています。
 更生保護施設に入所する人の中には,他人とのコミュニケーションや自己表現の方法が身に付いていないため,対人関係でつまずいたり,仕事が長続きしないといった問題を抱える者が少なくありません。そこで,就職のための面接場面,飲酒やギャンブルなどの誘いを断る場面,職場でストレスを感じやすい場面,他人とトラブルになりそうな場面など,社会生活の中で実際に起こり得る様々な場面を想定して,参加者にそれを実際に演じさせることによって事前練習をさせ,他の者がそのときのやり取りや態度を評価し,意見を交換し合うことによって,社会生活を送る上で必要なコミュニケーション能力,表現力,問題解決能力等を身に付けさせるのがSSTです。
 実際の進め方は,更生保護施設の職員が進行役となり,数人から十数人の入所者が参加して,1回の訓練で5,6組がロールプレイ(役割演技)を行うというような形で行われます。他の参加者から良い評価を受ければ,練習をした者は自信を深めることができますし,「もっと声が大きい方が良かった」というような意見があれば,注意すべき点も徐々に分かってきます。SSTは,このようなロールプレイを通じて,就職活動の方法や就労先での対人関係の在り方を学ばせるねらいがあるほか,更生保護施設職員と入所者,また,入所者同士のコミュニケーションを良くする効果もあるといわれています。このような指導の一つ一つの積重ねが,入所者の更生を確かなものとしていくといえるでしょう。