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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第5章/第1節/1 

第5章 保護観察処遇の動向と課題

第1節 成人に対する保護観察処遇の概要

1 保護観察の目的と方法

 保護観察は,我が国における社会内処遇の根幹をなす制度であり,遵守事項を守るよう対象者を指導監督し,また,その者に本来自助の責任があることを前提に補導援護することによって,その改善更生を図ることを目的とする。それはまた,本人の社会復帰を助け,再犯を防止することによって,社会の安全を守るということでもある。
 仮出獄者に対する指導監督は,[1]対象者と適当な接触を保ち,常にその行状を見守り,[2]遵守事項を守らせるために必要適切な指示を与えることなどによって行われる。また,補導援護は,[1]教養訓練の手段を助けること,[2]医療及び保養を得ることを助けること,[3]宿所を得ることを助けること,[4]職業を補導し,就職を助けること,[5]環境を改善し,調整すること,[6]更生を遂げるため適切と思われる所への帰住を助けること,[7]社会生活に適応させるために必要な生活指導を行うことなどを通じて実施される。いずれについても,必要かつ相当な限度で,その者に最もふさわしい方法で,公正かつ誠意ある態度で行うことが基本となっている。保護観察付き執行猶予者に対する指導監督及び補導援護も同様である。
 我が国の保護観察は,約1,000人の保護観察官(犯罪予防活動等,保護観察以外の職務に従事している者を含む。)と約5万人の保護司との官民協働によって実施されている。保護観察官は,一定の地域を包括的に担当しており,担当地域内に居住する者が保護観察となった場合,まず,面接調査,指導等の導入手続を行い,問題点を明らかにして処遇計画を立てる。次いで,その者に適した保護司を選んで担当を依頼し,依頼を受けた保護司は,その後定期的に本人と面接しながら,処遇計画に沿って指導・援助を行っていく。特に配慮を要する事案については保護観察官が直接に担当するなど,保護観察官が積極的に関与することもある。このように我が国の保護観察は,保護観察官の専門性と保護司の地域性・民間性を車の両輪のように組み合わせることによって,一方だけでは実現できない処遇効果を生むように工夫されている。
 そのほか,更生保護施設に入所する保護観察対象者については,更生保護施設を担当する保護観察官が導入手続を行った後,保護司を兼ねる更生保護施設職員が,保護観察官と連携しながら指導・援助を行うこととなる。
『保護観察官の一日』
 Aさんは,首都圏の保護観察所に所属する保護観察官です。四つの市を担当し,200件余りの保護観察事件と,100件余りの環境調整事件を受け持っています。このような職務を担当する保護観察官を「地区担当官」と呼ぶことがあり,Aさんの担当する地区内には70人近い保護司がいます。
 朝,出勤すると早速電話が鳴り出し,保護司から保護観察対象者の処遇に関する相談がありました。保護司からの相談や連絡の電話が何件か続き,一段落ついたころ,今朝仮出獄した者が,引受人と一緒に保護観察所に出頭しました。事件への反省,現在の心境,今後の生活計画などについてよく話し合い,保護観察中の遵守事項や,注意すべきことについて指導しました。
 午後は,新たに保護観察となった少年2人と別々の時間帯で面接の予定があり,まずは1人目の少年と保護者に会って導入面接を行いました。導入面接では,事件の内容・原因,少年の生活歴,家庭や交友の状況,心身の状況などを踏まえて,今後の保護観察について説明をし,必要な指導・援助を行います。終了後,その少年にふさわしいと思われる保護司を選んで連絡し,担当をお願いしました。2人目の少年と保護者については,事件の内容や家庭環境が複雑であったため,時間をかけて導入面接を行いました。面接を終えて事務室に戻ると,関係機関や保護司,保護観察対象者本人から電話連絡があったというメモが机に置かれていました。一つ一つ対応しているうちに,別の保護司が,最近問題行動の多い保護観察対象者を連れてやってきました。しばらく待ってもらってから三人で面接室へ入り,二人からじっくりと事情を聴いた上で,生活態度について本人に注意指導しました。
 面接や相談を終えた後は,デスクワークが待っています。今日面接した保護観察対象者や,引受人・保護者の顔を思い浮かべながら,事件調査票,処遇計画票,面接票,保護司への連絡書といった書類を作っていきます。中でも,処遇計画票は,保護観察を進めていく上で基本となる大事なものなので,力が入ります。
 明日は,担当地区内の公民館へ出向いて,午前中は面接技法に関する保護司研修を行い,午後は定期駐在として,その一室で何人かの保護観察対象者や環境調整事件の引受人と面接する予定です。その後,直接担当している保護観察対象者の家を訪ねて,実際の生活ぶりを見ながら,本人や親と話し合いの場を持つこととしています。