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 平成16年版 犯罪白書 第5編/第2章/第1節/1 

第1節 成人矯正の発展

1 監獄法の制定と行刑思想(戦前)

 現行刑法と同時に,明治41年10月1日から施行された監獄法が現在の行刑の基本となる法律である。監獄制度の全般について,法律の形式でしかも単行法をもって規定することは当時としては珍しいことであり,その意味で,同法律は世界的に先駆的な立法であった。他方で,同法律は,拘禁,戒護,懲罰といった監獄の管理面を重視した法律であり,犯罪者の改善更生・社会復帰といった理念を明確に定める規定を持っていない。
 このような理念を初めて明文化したのは,昭和8年制定の行刑累進処遇令(司法省令)である。同省令1条は,「本令は受刑者の改悛を促し其の発奮努力の程度に従ひて処遇を緩和し受刑者をして漸次社会生活に適応せしむるを以て其の目的とす」ると定め(原文片仮名書き),自由刑の執行が単なる自由のはく奪に尽きるものではなく,受刑者の改善更生・社会復帰をも目指すものであることを明らかにした。このように,改善更生・社会復帰のための働き掛けを行う意味を含めて自由刑を執行するとき,そのような行政作用を行刑という。行刑累進処遇令は,行刑の理念を明らかにするとともに,累進処遇の前提として「受刑者ノ分類」を制度化することにより,戦後における分類処遇の先駆的役割を果たすものでもあった。