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 平成16年版 犯罪白書 第2編/第6章/第3節/1 

第3節 捜査・司法に関する国際共助

1 捜査共助等

(1) 捜査共助に関する国際協力

 我が国の刑事事件の捜査(公判における補充捜査を含む。以下,本節において同じ。)に必要な証拠が外国に存在する場合,共助に関する条約により別のルートを定めていない外国に対しては,外交ルートを通じて国際礼譲による捜査共助を要請することとなる。また,我が国が,外国の刑事事件の捜査に必要な証拠の提供等について外国から協力を求められた場合,我が国は,国際捜査共助等に関する法律(昭和55年法律第69号)の定める要件及び手続に基づいて,相互主義の保証の下に,共助に関する条約を締結していない外国に対しても捜査共助を行っている。
 国際捜査共助等に関する法律は,昭和55年10月に施行された国際捜査共助法が,平成16年6月9日に公布された国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第89号,同年6月,一部12月施行)により,名称が変更されたものである。従来,我が国は,どの国とも捜査共助に関する二国間条約を締結していなかったが,捜査協力関係の一層の強化を目指し,平成11年以降,米国との間で交渉が進められた結果,15年8月,刑事に関する共助に関する日本国とアメリカ合衆国との間の条約(以下「日米刑事共助条約」という。)の署名に至り,同条約は,16年5月にその締結について国会により承認された。日米刑事共助条約においては,条約に基づく共助の実施を法的義務と位置付けた上で,共助の要請・受理は外交ルートを経由することなく,あらかじめ指定した「中央当局」を通じて行うことや,一定の範囲での共助条件の緩和など,迅速・確実な共助の実施を確保するための規定が置かれている。改正前の国際捜査共助法には,条約に基づき共助が請求された場合の規定は何ら置かれていなかったが,改正後の国際捜査共助等に関する法律は,このような日米刑事共助条約の締結に向けての必要な法整備を行い,捜査共助の円滑な実施を促進するための諸規定を設けるとともに,今後米国以外の国とも同様の共助条約を締結する際の受け皿を提供するものである。
 なお,近時,国際的な犯罪に対処するために策定された多数国間条約においても,条約に規定される一定の犯罪に関する捜査,訴追,司法手続において,相互に最大限の共助を与える旨を定めるほか,より一層効率的な共助の実現を目指して,「中央当局」の指定に関する規定が置かれることも多い(本章第1節記載の「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」等)。

(2) 我が国からの外国に対する捜査共助等の要請

 我が国の刑事事件の捜査に必要な証拠の収集について外国に共助を求める場合,検察庁又は警察等が外交ルートを経由してこれを行っている。
 通常,検察庁の依頼によって共助の要請をする場合には,「検察庁→法務省→外務省→在外日本公館→相手国の外務省」,警察の依頼による場合には,「都道府県警察→警察庁→外務省→在外日本公館→相手国の外務省」という経路をたどり,それぞれ,当該国の司法当局等が捜査を実施することとなる。
 なお,日米刑事共助条約においては「中央当局」制度が採用されているため,同条約発効後は,米国に対しては,我が国の法務省又は警察庁は,外交ルートを経由することなく,米国の司法省に直接共助の要請をすることができることとなる。
 また,外国に対して,刑事事件の捜査に必要な情報や資料の提供等の協力を求める方法としては,国際刑事警察機構(ICPO)ルートによる方法もある。この場合は,一般に,各都道府県警察の協力の依頼が,ICPOの我が国における国家中央事務局である警察庁を通じて,ICPOに加盟している外国の警察に伝達され,当該警察において処理されることとなる。
 2-6-3-1図は,最近10年間の捜査共助件数の推移を見たものである。
 検察庁の依頼により我が国から外国に対して要請した捜査共助について見ると,この10年間の嘱託件数は,合計で169件,相手国(地域を含む。)は27か国である(法務省刑事局の資料による。)。
 このほか,警察の依頼により我が国から外国に対して行った捜査共助の要請を最近3年間について見ると,平成13年に24件,14年に15件,15年に10件である(警察庁刑事局の資料による。)。

(3) 外国からの我が国に対する捜査共助等の要請

 国際捜査共助等に関する法律には,外国から証拠の提供の要請を受けた場合とICPOから協力の要請を受けた場合について,それぞれの手続が定められている。最近10年間における外国から我が国に対する捜査共助要請の受託状況は,2-6-3-1図のとおりである。受託件数は,合計で225件,要請国は33か国(地域を含む。)である(法務省刑事局の資料による。)。
 なお,日米刑事共助条約発効後は,米国については,米国の司法省から外交ルートを経由することなく直接我が国の法務省に共助が要請されることとなる。

2-6-3-1図 捜査共助の件数の推移