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 平成15年版 犯罪白書 第5編/第5章/第2節/5 

5 被害者から見た分析

(1) 被害者数と年齢層

 5―5―2―36図は,重大事犯の死亡ないし重傷(加療ないし全治1か月以上の受傷)被害者を見たものである。男性が多いが,死亡・重傷被害者全体に占める女性の死亡・重傷被害者数の比(女性比)を見ると,殺人43.6%,強盗44.5%であり,第3章で見た殺人・強盗一般の被害者の女性比が,35%前後であることを考えると,重大事犯の死亡・重傷者の被害者に関しては,女性比がやや高いと言える。
 5―5―2―37図は,被害者の年齢層を見たものである。殺人は40歳代を中心にして各層に分散しているが,強盗は逆に40歳代が少なく,20,30歳代と50歳代以上の年齢層が多く,特に60歳以上の高齢者層の被害者が殺人に比して多いのが目立つ。この点は強盗致死の被害者の年齢層分布とほぼ同様であるが,これは死刑又は無期懲役求刑事案で強盗事犯のものはほとんど強盗致死を行っているものであることによる。また,高齢の独居世帯がねらわれた事件は,34件あり,重大事犯では強盗犯が高齢者層,特に独居高齢者を一つのターゲットとしてねらっていることがうかがわれる。

5―5―2―36図 死亡被害者と重傷被害者の数

5―5―2―37図 被害者年齢層

(2) 被害者と被告人の関係―面識者に対する凶行―

 5―5―2―385―5―2―395―5―2―40図は,被害者と被告人の関係を見たものである。面識・親族関係について見ると,殺人については,親族関係のある者は19.6%,面識ある他人が63.7%,面識のない他人は16.7%である。第2章で述べたとおり殺人事件一般の場合,親族関係が41.6%,面識ある他人が42.7%,面識のない他人は15.7%であるのと対比すると重大事犯の方が親族関係のある者の比率が低い。これは,一般的には親族間の殺人の場合は,動機・背景に特殊事情があって酌量すべき事情がある場合が多く,本件調査対象のような死刑・無期懲役を求刑する事案が少ないためではないかと思われる。強盗については,親族関係が5.0%,面識ある他人が57.9%,面識ない他人が37.1%であり,面識のない場合が殺人より多いが,第2章で述べた強盗一般の場合,親族0.3%,面識ある他人9.7%,面識のない他人90.0%であるのに比べると面識ある他人や親族の割合が非常に高いことが注目される。本件調査対象者のような重大事犯の場合,面識ある者との間にもともと利害関係があり,強盗を成功させて犯行発覚を防ぐために被害者を殺害している事例が多いことによるものと思われる。
 被害者と被告人の利害関係がある場合の内容について見ると,被害者が何らかの債権(請求権)を被告人に対して有している場合が多いことが分かり,債務を免れる目的で行う2項強盗以外であっても何らかの意味で債権者を攻撃する場合が相当数に上ることが判明した。

5―5―2―38図 被告人と被害者の面識・親族関係別構成比(殺人)

5―5―2―39図 被告人と被害者の面識・親族関係別構成比(強盗)

5―5―2―40図 被告人と被害者の利害関係の内容

(3) 被害者の職種

 5―5―2―415―5―2―42図は,被害者の職業の種類と経済力等について見たものである。被害者の職種は販売営業関係,飲食店・接客サービス関係が多いが,無職者が最も多いことが注目される。被害者のうち高齢(60歳以上)で無職である者が43人あり,高齢無職者をねらった凶悪犯罪が起きていることによるものと思われる。また,経済力を見ると,不動産所有者のほか預金・現金・貸付金等金融資産を有する者や所得がある者が多く,全くの無収入者は極めて少ない。前記のように無職の被害者が多いのは無職ではあっても金融資産等を有する者や年金生活をして収入がある者が多いからであると思われる(第3章第6節5等参照)。

5―5―2―41図 被害者の職種

5―5―2―42図 被害者の経済力

(4) 被害額―高額利得犯の存在―

 5―5―2―435―5―2―44図は,強盗の被害額(強取したキャッシュカード・クレジットカードによる窃盗・詐欺の被害金額も合算),殺人の二次的被害額(保険金詐取など強盗以外による財産的被害の額)を見たものである。強盗については,50万円以下が57.5%を占める一方で,1,000万円を超える高額強盗犯も11.4%を占めており,高額な財産をねらう職業的犯罪者の暗躍がうかがわれる。殺人の場合には利欲目的以外の場合も多いので被害額なしが67.8%を占めているが,その一方で高額の生命保険金詐欺を伴う殺人等があるため,1,000万円を超える事件が16.1%,1億円を超える事件も3.4%存在する。重大事犯にあっては,強盗や殺人により一攫千金をねらう犯行が少なくないことを示唆している。

5―5―2―43図 被害金額別構成比(強盗)

5―5―2―44図 保険金詐取等強盗以外による二次的被害別構成比(殺人)