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 平成15年版 犯罪白書 第4編/第2章/第4節/4 

4 少年院の処遇

 少年院の処遇は,収容の確保及び矯正教育の実施という行政目的を実現するための活動である。少年の健全育成という少年法における究極の目的のもと,非行にかかわる問題性を矯正し,社会不適応の原因を除去し,社会生活に適応する能力を付与するという矯正教育の目標を達成するために,体系的な処遇が行われている。

(1) 処遇の個別化と分類処遇

 処遇の個別化とは,対象者一人一人の個性,長所,進路希望,心身の状況,非行の傾向等を十分考慮し,個別的必要性に応じた処遇を行うことであり,少年院における矯正教育の基本方針の一つである。
 分類処遇は,この処遇の個別化を実現するための基本的な手続の一つであり,対象者一人一人について科学的な調査を行い,共通の特性及び教育上の必要性を有する者ごとに集団を編成し,社会適応を促進するためにそれぞれの集団に最も適切な処遇を実践しようとするものである。具体的な制度としては,少年院の種類,処遇区分,処遇課程及びその細分,さらには,処遇課程等ごとに編成・実施される教育課程,在院者ごとに作成・実施される個別的処遇計画等が挙げられる。

(2) 段階処遇

 在院者の処遇段階は,法令上,1級,2級及び3級に分け,さらに1級及び2級を上下に分けており,入院者は,2級下に編入される。その後,改善・進歩に応じて各段階に移行させる。
 段階処遇は,在院者の向上意欲を喚起し,自発的な努力によって自己の改善進歩の効果を上げさせ,その成果としてなるべく早く目標を達成しようとするねらいのもと,在院期間を通して一律に処遇するのではなく,それぞれの段階にふさわしい処遇目標,内容,方法を設定して処遇するものである。
 なお,少年院の処遇は,入院から出院に至るまで一貫した系統的なものであることが必要であり,新入時教育,中間期教育及び出院準備教育の三期の教育過程に区分して,それぞれの期に応じた教育目標や教育内容が発展的に設定されている。
 教育過程と処遇段階は,新入時教育過程が2級下,中間期教育過程が2級上及び1級下,出院準備教育過程が1級上に,おおむね対応している。

(3) 指導領域

 矯正教育は生活指導,職業補導,教科教育,保健・体育,特別活動の五つの指導領域に区分されており,相互に補足し合いながら指導を展開している。

ア 生活指導

 生活指導は,健全な社会生活を送る能力を付与するため,在院者の性格,生活経験,ものの見方や考え方,価値観,非行と関係ある問題性等を踏まえ,少年院の全生活場面に現れる具体的な事象を最大限に活用して効果的な処遇を展開する矯正教育の根幹をなす。個別指導と集団指導のバランスを図りながら,集団生活による相互作用を通じて対人関係のトレーニングや自己洞察等の処遇を展開している。また,他の指導領域の教育内容とも密接に関連させながら,組織的・系統的に実施している。
 生活指導の内容は,次のとおりである。
[1] 非行にかかわる意識,態度,行動面の問題に対する指導
[2] 資質上の問題に対する治療的指導
[3] 情操のかん養に関する教育
[4] 基本的生活習慣,遵法的・自律的生活態度及び対人関係に関する指導
[5] 保護環境(家族関係,交友関係等)上の問題に対する指導
[6] 進路選択,生活設計及び社会復帰への心構えに対する指導

イ 職業補導

 職業補導の目標は,勤労を重んずる態度と個性に応じて職業を選択する能力を助成することである。年少少年に対しては,職業についての基礎的な知識と技能を与え,これを応用する能力を養うこと,中間少年及び年長少年に対しては年少少年のそれに加え,独立自活に必要な程度の知識と技能を与え,これを応用する能力を養うこととされている。
 職業補導の内容は,次のとおりである。
[1] 職業意識・知識・技能等を高めるために行う生産実習,技能実習等在院者の特性に応じた職業実習,職業情報の提供,職業生活に関する相談助言その他の指導を行う職業指導
[2] 職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練
[3] [1]及び[2]の応用実習,その他社会生活への円滑な移行を図る手段として院外の事業所等に委嘱して行う院外委嘱職業補導
 職業補導の主な種目は,平成15年4月1日現在,男子では土木建築,溶接,農園芸等,女子では応接サービス,事務・ワープロ,介護サービス等である(法務省矯正局の資料による。)。
 4―2―4―14図は,平成14年における出院者が職業補導の中で取得した資格・免許の取得人員について,資格・免許の種類別構成比を見たものである。職業補導に関連のある資格・免許を取得した者は,出院者の35.3%に当たる2,133人で,前年に比べて0.7ポイント上昇している。
 また,院外委嘱職業補導を受けた者は376人(6.2%)である(矯正統計年報による。)。

4―2―4―14図 少年院出院者の資格・免許取得人員の種類別構成比

ウ 教科教育

 義務教育未修了者に対しては,中学校の課程を履修させるため,教科教育課程に編入し,中学校学習指導要領に準拠した教科教育を系統的に実施し,進路に応じて受験指導等も行っている。高等学校教育を必要とする者には,通信制の課程を置く高等学校に編入させるほか,大学等への進学を希望する者に対しては,それに応じた補習教育を実施して,文部科学省の行う大学入学資格検定を受検する機会を与えている。そのほか,学力遅滞者,進学・復学希望者に対する教育など必要な指導を行っている。さらに,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,簿記,電子・電気,書道・ペン習字,レタリングなど文部科学省認定の社会通信教育を受講させている。
 平成14年中に出院した者のうち,出院後に中学校又は高等学校に復学した者はそれぞれ123人,136人であり,在院中に中学校の修了証明書を授与された者は317人である(矯正統計年報による。)。

エ 保健・体育

 保健・体育は,健康の回復・増進,集中力・忍耐力・持久力のかん養等を目的として実施され,入院前に不健康な生活をしていた少年も多いことから,その重要性が認識されている。入院前の非行や生活習慣を考慮しながら,健康管理,疾病予防等に関する指導を行うとともに,種々の運動を通して,基礎体力の向上を図り,ルールを守る大切さや対人関係における協調性等を身に付けさせている。

オ 特別活動

 特別活動は,主として集団で行われる教育活動で,[1]自主的活動,[2]院外教育活動(社会見学,奉仕活動等),[3]クラブ活動,[4]レクリエーション,[5]行事がある。余暇時間の活用,生活に潤いを与えるという観点からも,特別活動の役割は大きい。

(4) 医療,給養

 在院者の健康を維持・増進させることは,矯正教育の目標を達成する上で重要であり,各少年院には医務課が設置され常勤の医師が配置されている。通常の診療は各施設において行われているが,専門的又は長期の医療を必要とする者は,医療少年院に収容される。その他,必要と認めるときは,外部の病院に入院・通院させるなど,適当な場所において医療を受けさせることもある。
 平成14年中に出院した者のうち,在院中に病室等で治療を受けた者は,医療少年院で長期にわたる医療を受けた者を含めて1,674人(27.7%)である。これらの者の病名を見ると,呼吸器系の疾患が69.3%で最も多く,次いで精神及び行動の障害7.3%,消化器系の疾患5.3%となっている(矯正統計年報による。)。
 在院者の衣食住という基本的生活については,衣類,寝具,学用品,その他日常生活に必要な物品が給貸与される。食料については,病気等のため特別な食事を摂らせる場合を除いて全員均等に給与されている。

(5) 民間協力,援助

 少年院の教育は,各指導領域における多くの場面で民間篤志家の協力を得て行われており,その一つとして,篤志面接委員と教誨師による面接活動等がある。篤志面接委員は,精神的悩みに対する助言,教養指導等を行い,教誨師は,在院者の希望に応じて個別面接等を行っている。平成14年12月31日現在の少年院の篤志面接委員数は738人,教誨師数は360人である(法務省矯正局の資料による。)。
 また,法令上で社会資源を活用できる道が開かれており,職場に委嘱する院外委嘱職業補導,学校に委嘱する院外委嘱教科教育といった院外委嘱教育も適宜行われている。