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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第5章/第7節/1 

1 刑事司法における国際的な取組の動向

(1) 国際連合

 国際連合(以下「国連」という。)では,犯罪による人的及び物的な損失とその社会・経済発展への影響を減らすこと,並びに刑事司法の国連基準・規則の履行を促進することを目的とした諸活動が展開されている。
 1950年の国連総会で承認された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議は,刑事司法の各領域にわたる政策の提案,意見交換のための国際会議で,1955年の第1回会議以来,5年ごとに開催され,2000年4月にウィーンで第10回会議が開催された。この会議においては,被拘禁者処遇最低基準規則(第1回1955年),少年司法運営に関する国連最低基準規則(第7回1985年),非拘禁措置に関する国連最低基準規則(第8回1990年)など,多数の基準・準則,決議が採択された。これらの基準・準則や決議は,後に,国連総会や経済社会理事会で採択あるいは承認を受け,各国にその履行が促されている。
 また,経済社会理事会の下の機能委員会として,犯罪防止刑事司法委員会が1992年に設置され,2000年に第9会期がウィーンで開催された。この委員会は,国連における刑事司法分野の政策決定に携わるものであり,我が国は設立当初からこの委員会の構成国に選出され,関与している。
 麻薬等の薬物犯罪対策については,1991年に,麻薬関連部局等の機能を統合した国連薬物統制計画(UNDCP)が設置され,国連の薬物統制に関する全活動の調整,関係諸条約の履行促進,国際的な薬物統制の統率等について責任を負うこととなった。さらに,1998年6月には,国連麻薬特別総会が開催され,麻薬等の薬物取引に関連するマネー・ローンダリング(不法収益等の隠匿・仮装・収受)対策や司法協力の推進等を内容とする各種宣言・決議が採択された。
 国際組織犯罪分野では,1998年に国際組織犯罪条約並びに銃器,不法移民及び人の密輸に関する三つの議定書の起草のために,国連に政府間特別委員会が設立され,我が国は,平成12年12月,「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」に署名した。
 テロ対策に関しては,1997年12月に,国連総会においてテロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約が採択された。同条約には,爆発物その他の致死装置を公共の場所等で起爆させる行為等の犯罪化や容疑者の引渡しに関する規定等が盛り込まれており,平成10年4月に我が国も同条約に署名している。1999年12月には,テロリストへの資金供与行為等の犯罪化を義務づけるテロ資金供与防止条約も,国連総会で採択された。
 このほか,1998年7月には,集団殺害や戦争犯罪等の犯罪を犯した個人の刑事責任を追及するための常設の国際刑事裁判所を設立するための国際刑事裁判所設立条約がイタリアのローマにおける外交会議において採択され,我が国も設立準備委員会等に参加している。
 また,1997年に経済協力開発機構(OECD)で採択された,国際商取引における外国公務員に対する贈賄行為の犯罪化や犯罪人引渡し,捜査・司法共助等を内容とする国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約は,1999年2月に発効したが,我が国もこれを受諾している。
 なお,国際的な捜査,犯人の逮捕・引渡し等に関する協力を行うために各国警察機関を構成員として設置されている国際刑事警察機構(ICPO)は,国連とは別の国際的な機関であるが,国連との間に協力協定を締結しており,総会でのオブザーバー資格が認められるなど,両者の協力関係の緊密化が進んでいる。

(2) 主要国首脳会議

 主要国首脳会議(以下「サミット」という。)においては,ハイジャック,麻薬取引,テロ,マネー・ローンダリング,国際犯罪組織等の国際犯罪に関する問題について,しばしば首脳声明,議長声明あるいは経済宣言として取り上げられ,これらの国際犯罪の防止に関しての国際協力強化の必要性が強調されている。
 1989年に開催されたアルシュ・サミットの経済宣言に基づいて金融活動作業部会(FATF)が召集され,1990年に薬物犯罪に関するマネー・ローンダリングの犯罪化,金融機関等による顧客の身元確認及び疑わしい取引について権限ある当局への報告,不法収益の没収及びその保全,国際協力の強化等のマネー・ローンダリング対策についての勧告を行っている(旧40の勧告)。1996年に,同勧告は改訂され,マネー・ローンダリング罪の前提犯罪を薬物犯罪以外の重大犯罪にも拡大すべきことなどが勧告された(新40の勧告)。
 国際組織犯罪については,1995年のハリファックス・サミットの議長声明を受けて,国際組織犯罪対策に関する上級専門家会合が設置され,1996年のリヨン・サミットにおいて,情報提供者・証人等の保護,電子監視,アンダーカバー・オペレーション,コントロールド・デリバリー(監視付き移転)等の技術の重要性と有効性等を含む国際組織犯罪対策についての40の勧告が発表され,1997年のデンヴァー・サミットにおいてその勧告の実施状況について報告が行われた。さらに,1998年のバーミンガム・サミットにおいて,組織犯罪に関する国連条約の交渉に向けた努力を支持することについて意見の一致をみた。
 1999年のケルン・サミットでは,組織犯罪に関する国連条約及びテロに対する資金提供に関する国連条約に係る交渉の一層の促進を図ることについて合意がなされ,国際組織犯罪対策に関する上級専門家会合及びテロに関する上級専門家会合に対し,2000年に,その進ちょく状況に関する報告の提出を行うよう要請がなされた。
 1999年には,モスクワで国際組織犯罪対策G8閣僚級会合も開催され,「国際組織犯罪対策における世界的課題」,「国際組織犯罪の資金的側面」及び「ハイテク分野における国際組織犯罪対策」の議題が取り上げられた。
 2000年の九州・沖縄サミットでは,国際組織犯罪対策として,国連国際組織犯罪条約の年内採択の支持,ハイテク犯罪対策のための政府と産業界の対話の促進,薬物犯罪対策のための国際的な協力の強化,マネー・ローンダリングを含む金融犯罪対策の重要性,汚職等の腐敗行為への対策の重要性,国連において開始される見込みである腐敗と闘うための新たな文書に関する交渉を開始するための準備,発展途上国の刑事司法制度の強化への支援,被害者等に対する援助の重要性,また,テロ対策として,テロ対策のための情報交換及びテロの資金源対策の推進等について合意がなされた。