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 平成12年版 犯罪白書 第6編/第4章/第3節/2 

2 調査の結果

(1) 調査対象者の属性

ア 男女別及び年齢

 調査対象人員124人のうち,女性は2人(1.6%)のみであった。
 犯行開始時点における年齢は,最若年者が25歳,最高齢者が69歳であり,20歳代の者が7人,30歳代の者が22人,40歳代の者が51人,50歳代の者が31人,60歳代の者が13人であった。
 調査対象者の年齢層別構成比を平成6年から10年までの間に刑法犯により第一審で有罪に処せられた者(以下,本節において,「刑法犯有罪総人員」という。)の年齢層別構成比と比較したものが,VI-23表である。調査対象者においては,40歳代の者が41.1%を占めており,50歳代の者が25.0%,60歳代の者でも10.5%に達するなど,全体に年齢層が高く,刑法犯有罪総人員では最も構成比が高い20歳代の者の構成比は,5.6%にとどまっている。

VI-23表 調査対象者の年齢層別構成比

イ 前科

 調査対象者のうち,前科を有する者は91人(73.4%),前科を有しない者は33人(26.6%)である。司法統計年報によると,刑法犯有罪総人員における前科を有する者の構成比は59.2%であり,調査対象者の方が,前科を有する率がかなり高い。
 前科を有する者のうち,同種前科(競売入札妨害,強制執行妨害又は破産法違反の前科をいう。以下,本節において同じ。)を有する者は1人(0.8%)である。当該前科は,競売入札妨害によるもので,犯行時においては,既に執行猶予期間が経過していたものである。
 異種前科(同種前科以外の前科)を有する者は90人(72.6%)であり,そのうち自由刑(懲役刑又は禁錮刑)に処せられた前科を有する者は59人(47.6%)である。この異種前科により自由刑に処せられた59人について,さらに犯行時における前科との関係を見ると,累犯の関係にある者が10人,執行猶予中である者が5人,実刑前科となった事件の判決確定前に本件を犯した者が2人,受刑中(刑の執行停止中)の者が1人含まれている。

ウ 職業及び組織関係

 VI-24表は,調査対象者の職業及び暴力団・右翼団体との関係を見たものである。調査対象者の職業別構成比は,会社役員・団体役員(46.8%),自営業者(22.6%),無職(18.5%),会社員・団体職員(9.7%),自営業従業員(2.4%)の順に高く,企業の経営者的立場にある者(会社役員・団体役員及び自営業者)の構成比がほぼ7割に達している。

VI-24表  調査対象者の職業別・組織別関係

 一方,暴力団・右翼団体との関係を見ると,総数では,関係がある者とない者とが同数であり,暴力団員(暴力団首領及びその他の暴力団構成員をいう。以下,本節において同じ。)の構成比は29.8%に達している。警察庁の統計によると,平成6年から10年の期間における検挙人員総数に占める暴力団員の構成比は,恐喝が15.0%,賭博が10.6%,傷害が9.0%,競馬法違反が8.2%などであって,これら一般に暴力団員が関与することが多いものと思われる罪種と比較しても,調査対象者における暴力団員の構成比は非常に高い。
 また,調査対象者の職業と暴力団・右翼団体との関係のかかわりを見ると,無職の者では,暴力団・右翼団体との関係があるものが78.3%を占めており,暴力団員の構成比も69.6%に達している。また,総数のうちで大きな割合を占める会社役員・団体役員及び自営業者についても,暴力団・右翼団体との関係があるものが45.3%を占めており,暴力団員の構成比も19.8%に達している。

(2) 競売手続当事者の属性

ア 競売を申し立てられた者の業種・資本金

 調査対象事件ごとに,競売を申し立てられた企業(法人又は個人事業者)の業種と資本金を見たものが,VI-25表である。なお,このほかに,個人事業者以外の一般個人が競売を申し立てられた事件が8件,業種不明のものが1件ある。

VI-25表 競売を申し立てられた企業の業種・資本金

 業種が判明した企業について,構成比の高いものを見ると,建設業(28.8%),不動産業(25.4%),製造業及び卸売・小売業・飲食店(いずれも13.6%),サービス業(11.9%)の順になっており,このうち建設業,不動産業及び製造業については,いずれも平成8年における我が国の全事業所(農林漁業を除く。)中の業種別構成比(それぞれ9.9%,4.5%,11.9%)より高くなっている(全事業所に関する数値については,総務庁統計局の資料による。)。
 資本金については,1,000万円以上3,000万円未満のものが最も多く(47.5%),資本金が1,000万円未満の企業の構成比は11.9%にすぎない。平成8年における我が国の全会社企業においては,資本金が1,000万円未満のものが49.6%を占めており,調査対象事件にかかわる企業の資本金は相対的に高い(全会社企業に関する数値については,総務庁統計局の資料による。)。なお,これらの企業中,不動産業及びサービス業に属するものについては,資本金が1億円を超えるものも含まれている。

イ 競売申立人

 競売を申し立てた者としては,銀行が23件(33.8%)で最も多く,以下,ノンバンク(22件・32.4%),信用金庫・信用組合・農業協同組合等の協同組織金融機関(19件・27.9%),国等の出資を受けた公庫等の公共金融機関(3件・4.4%)の順になっており,そのほか不明のものが1件(1.5%)ある。なお,ノンバンクの中には,住宅金融専門会社又はその承継人が11件含まれている。

(3) 犯行の手口等

ア 組織的関与の状況

 VI-26表は,調査対象事件ごとに,被告人と暴力団・右翼団体との関係の有無と,被告人以外の暴力団・右翼団体関係者の関与の有無とのかかわりを見たものである。

VI-26表 組織的関与の状況

 全体のおよそ8割の事件において,暴力団・右翼団体関係者の関与が認められるが,被告人自身が暴力団・右翼団体と関係がない(被告人が複数であるときは,そのいずれも暴力団・右翼団体と関係がないことをいう。)場合には,被告人以外の暴力団・右翼団体関係者が関与していたのは,16件中2件のみであり,逆に被告人自身が暴力団・右翼団体と関係している場合には,被告人以外の暴力団・右翼団体関係者も関与していた事件が,52件中33件に達した。被告人自身が暴力団・右翼団体関係者である場合には,他の暴力団・右翼団体関係者をも関与させて,更に組織的に犯行を行う傾向があることがうかがえる。

イ 犯行の手口

 競売を妨害する手段としては,担保物件に対して架空の賃借権その他の占有権限を主張すること(以下,「架空賃借権等の主張」という。),債務者に対する架空の債権を主張して担保物件を含む債務者の財産を自らが管理すると主張すること(以下,「架空債権の主張」という。),担保物件を物理的に占拠すること(以下,「物理的占拠」という。),担保物件又はその近隣に,暴力団のいわゆる代紋を掲示したり,右翼団体の街宣車を駐車したりすること(以下,「示威物件の掲示・設置等」という。),競売申立人,入札等において最高価格での買受けを申し出た者や競落許可決定を受けた者等に対する直接の脅迫(以下,「競売関係者への脅迫」という。)等,種々の手口が用いられるところであり,これら手口は重複して用いられることも多い。
 VI-27表は,競売妨害の手口(判決において罪となるべき事実として認定されたもののほか,競売を妨害する目的で行われた行為をすべて含む。)と,組織的関与の状況とのかかわりを見たものである。総数においても,組織的関与の状況別においても,架空賃借権等の主張が最も多く,物理的占拠,示威物件の掲示・設置等がこれに続いている。特に,組織的関与のない事案,すなわち被告人と暴力団・右翼団体との関係がなく,かつ,他の暴力団・右翼団体関係者の関与もない事案においては,架空賃借権等の主張の比率が92.9%と極めて高く,示威物件の掲示・設置等の比率は28.6%であり,その他の事案と比べると,相当低くなっている。逆に,最も組織的関与の度合いが強い事案,すなわち被告人自身が暴力団・右翼団体の関係者であり,かつ,他にも暴力団・右翼団体関係者が関与している事案においては,物理的占拠(78.8%),示威物件の掲示・設置等(69.7%)及び架空債権の主張(24.2%)が,いずれもその他の事案より高い比率を示している。競売関係者への脅迫は数が少ないが,被告人自身は暴力団・右翼団体関係者であるものの,他に暴力団・右翼団体関係者は関与していない事案においては,相対的に比率が高くなっている。

VI-27表 競売妨害の手口

 その他,手口において特異なものとしては,競売事件ファイルを裁判所から持ち出して隠匿したもの(1件)や,裁判所備付けの現況調査報告書に,担保物件に暴力団が関与しているとの趣旨の書き込みを無断でしたもの(1件)などがある。

(4) 科刑状況

ア 余罪との関係

 調査対象者に対する第一審における科刑状況を見ると,VI-28表のとおりである。罰金刑の1人については,検察官の求刑どおりの罰金刑が言い渡されたものである。また,競売入札妨害の法定刑の上限は懲役2年であり,競売入札妨害のみの事件であっても,被告人が累犯前科を有する者で,かつ,複数の事件につき併合審理を受けたものである場合には,法律上最高懲役6年の科刑が可能であるが,調査対象事件においては,競売入札妨害のみの事件で懲役2年を超える刑が言い渡されたものはない。

VI-28表 科刑状況(余罪との関係別)

 競売入札妨害の他に併合審理された事件(余罪)として,最も多いのは,架空賃借権等の主張を手口とする事案において,当該賃借権を不動産登記簿(磁気ディスクによるものを含む。)に設定(仮)登記するなどした行為を公正証書原本不実記載・同行使(電磁的公正証書原本不実記録・同供用を含む。以下,本節において同じ。)として処断したものであり,調査対象者中余罪を有する者55人のうち32人(58.2%)は,余罪中に公正証書原本不実記載・同行使を含む。競売入札妨害に関係する余罪として次に多いのは,架空賃借権等の主張を手口とする事案において,当該賃借権にかかわる契約書等を他人名義で作成するなどした行為を有印私文書偽造・同行使として処断したもの(4人・7.3%)であり,競売関係者への脅迫を暴力行為等処罰法違反として処断したもの(2人・3.6%)などがこれに続いている。この中には,競売を含む債務処理手続への介入行為を弁護士法違反で処断したもの(1人・1.8%)も含まれている。余罪を有する調査対象者のうち,これら競売入札妨害と関連する余罪のみを有する者は38人である。
 実刑率(有罪の言渡しを受けた総数中,実刑を言い渡された者の比率)は,調査対象事件全体においては26.6%,競売入札妨害及びこれに関連する余罪により判決を受けた者においては21.5%,競売入札妨害のみにより判決を受けた者においては20.3%である。また,調査対象者中,同種前科を有する者は1人のみであるが,当該者についても執行猶予が付されている。

イ 前科との関係

 企業倒産等をめぐる犯罪の実態の調査・分析という本調査目的に従い,以下においては,調査対象者中,競売入札妨害及びこれに関連する余罪のみにより判決を受けた107人(58件)について,さらに科刑状況と量刑要素と思われるものとのかかわりを分析することとする。
 VI-29表は,前科と科刑状況とのかかわりを見たものである。

VI-29表 科刑状況(前科との関係別)

 累犯前科を有する9人のうち,2人は,本件による判決言渡しの時点では前刑の執行終了から5年を経過しており,そのうち1人には執行猶予が付されている。また,執行猶予中に本件犯行に及んだ4人中2人は,本件による判決言渡しの時点では,執行猶予期間が経過しており,そのうち1人には執行猶予が付され,第一審においては実刑に処された1人についても,控訴審で執行猶予が付されている。本件による判決言渡しの時点において,前科とされる事件の執行猶予中であった2人についても,そのうち1人は,再度の執行猶予に付されている。
 累犯前科を有する者のうち,本件による判決言渡しの時点において前刑の執行終了から5年を経過していない者(7人),実刑前科となった事件の判決確定前に本件を犯した者(2人)及び受刑中の者(1人)については,法律上,本件について執行猶予に付することができないが,これらを除いた,法律上は執行猶予が可能な者における実刑率は,13.4%である。

ウ 組織性との関係

 VI-30表は,前記の107人について,暴力団・右翼団体との関係と科刑状況とのかかわりを見たものである。実刑率は,暴力団・右翼団体との関係がない者が8.9%,暴力団首領が53.8%,その他の暴力団構成員が38.9%,右翼団体主宰が16.7%,その他の右翼団体構成員が25.0%であり,暴力団・右翼団体との関係が量刑に大きく影響していることがうかがえる。

VI-30表 科刑状況(暴力団・右翼団体との関係別)

 一方,前記58件の事件ごとに,これに関与した被告人(1名で2件に関与した者が1人いるため,延べ総数は108人になる。)自身における暴力団・右翼団体との関係の有無及び当該被告人以外の暴力団・右翼団体関係者の関与の有無と科刑状況とのかかわりを見たものがVI-31表である。最も組織的関与が強い事案,すなわち被告人自身が暴力団・右翼団体関係者であり,かつ,その他にも暴力団・右翼団体関係者が関与している事案における実刑率が36.8%であるのに対し,被告人自身は暴力団・右翼団体関係者であるものの,その他には暴力団・右翼団体関係者は関与していない事案における実刑率は28.6%,被告人自身は暴力団・右翼団体関係者ではないものの,その他に暴力団・右翼団体関係者が関与している事案における実刑率は11.4%,組織的関与がない事案,すなわち被告人自身が暴力団・右翼団体関係者ではなく,かつ,その他の暴力団・右翼団体関係者も関与していない事案における実刑率は4.8%であって,科刑上,まず被告人自身の暴力団・右翼団体との関係が考慮され,その上で,事案全体における組織的関与の度合いが考慮されていることがうかがえる。

VI-31表 科刑状況(組織的関与状況別)

エ 手口との関係

 前記108人を対象として,架空賃借権等の主張,架空債権の主張,物理的占拠,示威物件の掲示・設置等及び競売関係者への脅迫の各手口につき,それぞれの手口を用いた者と用いなかった者との間で,科刑状況を比較して見たものがVI-32表である。

VI-32表 科刑状況(手口との関係別)

 用いた手口別に見て実刑率が高いのは,架空債権の主張(25.0%),物理的占拠(23.5%),架空賃借権等の主張(21.3%),競売関係者への脅迫(20.0%),示威物件の掲示・設置等(19.3%)の順である。