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 昭和38年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/5 

5 年少少年犯罪の増加

 最近における少年犯罪の年少化の傾向は,しばしば指摘されるところであるが,その実態をまず犯罪少年の年齢段階別の分布状況を基礎として考察してみよう。III-6表は,昭和三一年から昭和三七年までの七年間に,刑法犯で警察に検挙された一四才以上の少年を,年長少年(一八-一九才)中間少年(一六-一七才)年少少年(一四-一五才)の三段階に分けて,その分布を示したものであるが,これによると昭和三七には年少少年が数の上でもっとも多く,六〇,六一五人となっている。これを人口一,〇〇〇人あたりの比率でみると,年少少年一二・七人,中間少年一三・九人,年長少年一五・五人の割合であって,年長少年の率が最も高く,依然として数の上では問題を残している。しかしIII-6表によって,最近七年間の傾向について検討してみると,昭和三七年には二つの注目すべき現象があらわれている。その一つは,従来上昇の一途をたどっていた年長と中間少年の増加傾向が,数の上でも人口対比率でも対比率指数でも,はじめて停滞または下降のきざしをみせたことであり,他の一つは総数の順位が,昭和三六年までは年長-中間-年少少年の順で推移してきたものが,昭和三七年にいたってはじめて年少-年長-中間少年の順に変わったことである。このことは相対的に,年少犯罪少年の増加という現象をますます明らかに浮き彫りさせている。すなわち年少犯罪少年は,昭和三七年においては,数では昭和三一年の三倍に近くなり,人口対比率では一,〇〇〇人あたり七人強の増加を七年間に示しているのである。

III-6表 刑法犯年齢別検挙数(昭和31〜37年)

 少年犯罪の年少化の現象は,右に述べた犯罪少年にみられるばかりでなく,触法少年,ぐ犯少年などの非行少年についても,同様な傾向があらわれてきている。すなわち一四才未満で刑罰法令に触れる行為をした少年は,昭和三一年には二六,六六三人であったものが,その後毎年増加して,昭和三七年には六二,三〇〇人と,七年間に約二倍半の増加をみるにいたっている。また一四才未満のぐ犯少年は,昭和三二年には一一九,一七七人であったものが,昭和三六年には一五六,七四七人と三割強の増加となっており,また警視庁の統計によれば,同庁管内各所轄警察署に保護された一四才未満の家出少年は,最近五年間に五七%の増加を示している。
 このように,年少少年の犯罪または非行化が急速に進んでいることには,さまざまな理由が考えられるであろうが,その解明のための一つの手がかりとして,これら年少少年の行為の内容について分析を進めてみよう。III-7表は,昭和三六年における二四才以下の者の年齢段階別,主要罪種別の刑法犯検挙人員と各年齢層の罪種構成比率を示したものであるが,これによると一四才未満では,窃盗が大部分で八六・三%を占めており,その他の罪種はいずれも二%にも満たない。一四-一五才の年齢層では,窃盗が七三・六%で,もっとも多いが,恐かつ,暴行,傷害がそれぞれ五-七%みられる。一六-一七才となると,窃盗の率が四四・五%となり,恐かつ,傷害,暴行などの粗暴犯が,それぞれ七-一一%みられており,強かんも三・四%あらわれている。一八-一九才の年齢層では,窃盗の率が三四・六%と減少し,傷害一四・一%,恐かつ七・六%,暴行六・七%となり,二〇-二四才の年齢層では,この傾向がいっそう顕著で,窃盗は二七・三%となり,傷害が一七・九%と増加し,暴行七・四%,恐かつ四・三%となっている。これによって年齢と罪種の関係を判断すれば,年齢の低い者ほど窃盗が多くなっており,高い者ほど粗暴犯その他の犯罪が多くなっていることが明らかである。したがって,年少少年になじみやすい罪種は窃盗で,粗暴犯その他の罪種は年長少年に多くみられるものであるということができよう。

III-7表 主要罪種年齢別検挙人員(昭和36年)

 以上は昭和三六年だけの考察であるが,次に一五才以下の年少少年について,主要罪種別に最近五年間の推移を検討してみると,III-8表に示すように,窃盗が毎年増加の一途をたどっており,昭和三六年には前年に比べて一五,六二四人の大幅な増加となっている。また,粗暴犯のうち恐かつ,暴行も,累年その数が増加する傾向にある。このことは,年少少年の行為の質が年長少年に近づいてきていることを示唆するものであろう。

III-8表 年少少年主要罪名別検挙人員推移(昭和32〜36年)

 次に,犯罪をおかさなくとも,そのおそれがあると認められたぐ犯少年について,その行為内容を検討してみると,昭和三六年において一四才未満の少年のぐ犯行為は,数の上では怠学,怠業がもっとも多く,全行為の二六・八%を占め,不健全娯楽,盛り場はいかい,家出などがこれに次いで多い。これを一四-一七才の少年の行為と比較してみると,一四-一七才の少年で多くみられるものは喫煙であって,怠学怠業,不健全娯楽,盛り場はいかいなどもこれに次いで多い。しかし各年齢層のなかでの行為の千分比を算出して,その差をみると,III-9表で明らかなように,一四才未満の少年に明らかに多いものは怠学怠業であり,一四-一七才の少年に多いものは喫煙,不純異性交遊,飲酒,不良交遊である。したがって,年少少年のぐ犯行為の特色は怠学怠業であると考えられ,飲酒,喫煙,不良交遊間係は,やや年長な少年の特色であるとみられる。これを最近五年間の推移で検討すると,一四才未満の少年の千分比で増加傾向にあるものは,凶器所持,家出,怠学怠業,喫煙,不良交遊などであって,とくに喫煙が昭和三六年においては昭和三二年の三倍強,凶器所持が二・五倍強,不良交遊が一・三倍に近く増加していることが注目される。これらの行為は,やや年長の少年にみられる特色であることはさきに述べたとおりであって,このような行為が,年少少年に漸次多くみられるようになったということは,年少少年の行為の質が,年長少年のそれに近づいてきているという傾向を裏書きするものとみてよかろう。

III-9表 ぐ犯少年行為別千分比(昭和32〜36年)

 以上の諸検討を通じて明らかな事実は,怠学怠業,窃盗などの非行を特色とする年少少年の行為が増加しているばかりでなく,質的にも喫煙,不良交遊,粗暴行為などの,より悪質の行為に移りつつあることであって,このことは年少少年の社会的成熟度が早まったことと,深い関連をもつものでもあろうが,いずれにせよ憂うべき傾向であると考えられる。