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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第六章/四/3 

3 対象者の成績と保護観察の終了

 保護観察の担当者(おもに保護司)は,実施した指導監督,補導援護の状況および本人の行状について,月ごとに保護観察成績報告書を作成して,翌月五日までに,定期に保護観察所長に提出し,また,本人の身上について重要な変動が生じたときは,随時すみやかにこれを報告しなければならないことになっている。
 保護観察成績報告書には,就学,就業状況,健康状態,家庭環境,交友状況,保護観察の実施状況,本人の現況等をつぶさに記載して,最後に,その保護観察成績を,「良」「やや良」「普通」「不良」の四段階にまとめて,総合評定をすることとなっている。評定の基準は,保護観察が本来対象者を一般の順良な社会人に更生させることを目的としており,道徳性の高い人間になることまで要求するものではないというたてまえで定められている。すなわち,「良」とは,前記諸項目に関してほとんど問題が認められず,更生意欲が積極的で,本人の気持や行動が安定しており,担当者に対する連絡状況もよく,その更生状態が一般の善良な社会人と同等の水準に到達していると認められるもの,「やや良」とは,前記諸項目に多少物足りない点があり,本人の気持や行動は,ほぼ安定しているが,更生意欲がやや消極的で,その更生状態が一般の順良な社会人と同等の水準に近づいていると認められるもの,「普通」とは,前記諸項目に問題点があり,更生意欲が消極的で,本人の気持や行動が,やや不安定であり,指導監督上相当の注意を要すると認められるもの,「不良」とは,前記諸項目に関し多くの問題点があり,更生意欲がきわめて乏しく,本人の気持や行動が不安定であり,担当者に対する連絡も悪く,遵守事項も守らず,指導監督上強力な措置を要すると認められるものである。
 いま,昭和三七年七月分の保護観察成績報告書に基づき,法務省保護局が調査した保護観察対象者の成績についてみると,II-113表のとおりであって,「成績不詳」をのぞくと,少年院仮退院者の成績が悪く,仮出獄者の成績が他に比して良好であるのが目だつ。

II-113表 保護観察種類別対象者の成績区分別人員(昭和37年7月末現在)

 保護観察の総合成績が引き続いて良好となり,これ以上指導監督と補導援護をおこなう必要がないまでに更生した者については,保護観察の種別によっては,保護観察期間中であっても,適当と認められる時期に保護観察を中止したり終了させたりする措置をとりうるし,また逆に,担当者が指導監督や補導援護に努力しても,本人が遵守事項を守らず,保護観察成績が不良であって,更生意欲が認められないと判定された者については,成績不良の程度によっては,保護観察官は本人を呼び出して訓戒したり,裁判所の発する引致状による引致という強硬手段をとったり,各種の法的強制措置をとることになる。
 成績が良好で,保護観察を続ける必要がないと認められたときの措置としては,保護観察処分少年に対する保護観察の解除と停止,少年院仮退院中の者の退院,仮出獄中の者に対する不定期刑終了などがある。また仮出獄者と保護観察付執行猶予者については,恩赦の制度を活用することができ,保護観察付執行猶予者には,刑法第二五条ノ二第二項の規定によって,地方委員会の決定により保護観察を仮に解除することができる。
 逆に,保護観察の成績が不良な者に対する措置としては,保護観察処分少年の場合における家庭裁判所への通告,少年院仮退院者については戻し収容の申し出,仮出獄者に対する仮出獄の取消や,所在不明となったときの保護観察の停止,保護観察付執行猶予者に対してなされる執行猶予取消のための検察官への申し出,さらに婦人補導院仮退院者については仮退院取消などがある。
 以下保護観察所が成績良好および不良の対象者に対してとった実際の措置をみよう。まず,成績良好の対象者に対する保護観察所のとった措置は,II-114表のとおりであって,措置率には著しい変化はみられないが,措置人員としては,仮解除の申請人員が急激に増加しており,退院および不定期刑終了の申請人員は,昭和三四年度までやや下降線をたどったが,以後再び増加の傾向にあり,全体の措置人員は上昇している。次に,成績不良の対象者に対する措置状況はII-115表のとおりで,全体の措置率は低下しているが,措置人員としては,戻し収容の申し出,保護観察停止の申請および検察官への申し出人員が増加の傾向にあり,逆に減少しているものは家庭裁判所への通告および仮出獄取消の申請,申報の人員であり,全体としてみれば,成績不良者に対する措置人員も上昇している。保護観察対象者の人員が,前述のように減少しているにもかかわらず,成績不良および成績良好のいずれの対象者に対しても,とられた措置が増加していることは,それだけ保護観察が綿密となり,手が行きとどいてきたことの証左であろう。

II-114表 成績良好者に対して保護観察所のとった措置(昭和32〜36年)

II-115表 成績不良者に対して保護観察所のとった措置(昭和32〜36年)

 次に,保護観察対象者の保護観察終了の状況をみると,II-116表に示すとおり,仮出獄者の成績は他に比して非常に良好であるが,保護観察期間が比較的短期であることを考慮に入れなければならないことはもちろんである。また,後に第三編において述べるように,保護観察処分少年および少年院仮退院者の取消率が累年増加しているのに,保護観察付執行猶予者の取消率が急速に減少しているのが目だっているが,これは執行猶予の期間が比較的長期(最高五年)であり,その初期には取消により終了する者が多く,期間の進行とともに無事期間を満了する者がふえる結果によるものであって,保護観察付執行猶予の制度が本格的に適用されるようになってから,少なくとも五年を経過するまでは当然におこる現象である。しかし昭和三六年度においてもなお,保護観察付執行猶予者で猶予の取消しを受けた者が,保護観察付執行猶予終了者の三二・六%を占めているのは注目すべきである。

II-116表 仮出獄者および保護観察付執行猶予者の保護観察終了人員とその事由別率(昭和32〜36年)

 保護観察付執行猶予者については,法務総合研究所が,昭和三三年中に東京保護観察所の保護観察に付された日本人男子八九五人について,昭和三六年一月に逮捕,処分歴の調査を行なった結果によると,II-117表に示すように,窃盗犯罪者はその他の犯罪者よりも,年少の者は年長の者よりも,また逮捕前歴の多い者は少ない者よりも,それぞれ再犯率の亮いことがわかる。今かりに,右の統計を用いて,窃盗犯罪者について年齢と前歴により再犯率を表示すれご,II-118表のようになる。この再犯率は保護観察に付することの適否の判断をするにあたって,一つの参考となるであろう。

II-117表 法務総合研究所の調査による保護観察付執行猶予者の実態

II-118表 年齢別・逮捕回数別再逮捕・再犯入所率