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 昭和38年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/8 

8 医療衛生

 昭和三六年度に,受刑者で診察を求めてきたものの数は,一日平均四,三一二人(全受刑者の七・三%)で,ほかに執務時間外に診察を求めたものは,一日平均二,〇〇六人(三・四%)に達する。また,投薬をうけたものは,一日平均五,五七三人,工場,舎房などに備えつけてある備薬の投与をうけたものは,一日平均七,七二三人(一二・二%)であった。
 また,休養者(医療を受けて,二日以上休養したもの)および非休養者(休養しないが,医療をうけて三日以上治ゆするに至らなかったもの)についてみると,昭和三六年度では,それぞれ一日平均二,七五一人(四・七%)および二,九一八人(四・九%)であった。
 次に,休養者および非休養者の主要傷病名をみると,昭和三六年の休養者二一,二九七人,非休養者二二,八六三人のうち,もっとも多いのは消化器系の疾患で,次いで多いのは呼吸器系の疾患,伝染病(結核,梅毒など),神経系および感覚器の疾患などである。

II-83表 受刑者と国民との病名別罹患率の比較(昭和36年)

 刑務所における衛生管理上,もっとも注意を要するのは,伝染病の発生である。現在,全国四四施設に防疫センターを付設し,地区所在他施設の防疫の中心として活動している。これらのセンターは,単に検便,消化器伝染病々源体の培養検出にとどまらず,水質検査のほか,防疫業務の援助・指導に加えて,赤痢菌,結核菌の治療薬剤に対する耐性試験,血液梅毒反応検査などの臨床病理検査の機能を充実してきている。なお,昭和三七年中,全行刑施設で発見されたおもな伝染病患者は,真性,疑似をあわせで,赤痢五二(六五〇),腸チフス一(二),ジフテリア一(一),しょうこう熱一(〇)で,昭和三六年中(かっこ内数字)にくらべて,著しい減少を示している。
 次に,死亡者(刑死を除く)数をみると,被告人,被疑者を含めて,昭和三六年には一二四人(一日平均収容人員に対し一・七一%)であったが,同三七年には一三三人(一・九六%)と,やや率の増加がみられる。また,病死・変死の別をみると,昭和三六年では,病死一〇二人(うち急死三九人),変死二二人(うち自殺一五人),昭和三七年では,病死一〇八人(うち急死四六人),変死二五人(うち自殺二〇人)となっている。
 疾病による刑の執行停止者数は,昭和三七年には一四二人(昭和三六年二一五人),また,勾留停止者数は一九四人(昭和三六年二三六人)となっている。
 刑務所における医療衛生は,受刑者の健康維持のため必要下可欠な業務であるが,これに従事する医師は,定員(二一七人)を充足することが困難なため(昭和三八年二月一日現在一九七人),昭和三六年から矯正医官修学資金貸与法がもうけられ,昭和三八年三月現在で五〇人に対し修学資金が貸与され,昭和三七年には二人の修学資金による修了者が矯正医官に採用された。
 また,全国矯正施設の医師を中心に,日本矯正医学会が組織され(昭和三八年一月一日現在会員数七六九人),日本医学会の分科会として,毎年一回大会(昭和三七年度東京,三八年度大阪)を開催しているほか,機関誌「矯正医学」(季刑)を発行し,矯正施設収容者処遇の科学化を推進している。