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 昭和38年版 犯罪白書 第一編/第三章/一/2 

2 交通事故の原因

 以上概観した交通事故は,必ずしも自動車交通により起されたものとはかぎらず,路面電車,トロリーバス等によるものも含まれている。しかし,自動車およびこれと機能上同一視すべき原動機付自転車(以下便宜上自動車に含ませる)によるものは,たとえば,昭和三五年は九三・五%,翌三六年は九三・二%と,交通事故の大多数を占めているのであるから,路面電車等の交通における安全の確保ももとより重要ではあるが,交通事故撲滅のための主目標は,まず何より自動車交通におわれなければならない。
 この自動車による交通事故の原因は数多く考えられる。もちろん,道路事情の悪いこともあるであろうし,自動車自体の構造的欠陥に基づくこともあろう。歩行者の近代高速度交通機関たる自動車に対する異常なまでの無関心さ,無とんちゃくさに基因することもある。また,これらの原因が種々交錯して,一つの不幸な事故へと発展していくことも見落せまい。だが,たとえば,昭和三六年の警察庁犯罪統計書は,全事故件数四九三,六九三件の主要原因を「車両等」「人」「物件その他」の三つに分類しているが,これによれば,車両等が第一原因となったものが,四八〇,一二二件と圧倒的多数を占め,人が一三,三七七件で全体の二・七%,障害物不照明,道路の不備,道路修繕中等の「物件その他」を主要事故原因とするものはわずかに一九四件にすぎず,〇・一%を占めるにとどまっている。しかも,この「車両等」と「人」を主要原因とする事故の内訳をみると,I-31表のように,その八五・五%が道路交通法のいずれかの規定に違反しているか,あるいは,少なくとも違反していると疑う余地があるものであったことが判明してくる。これは見落せない数字である。ことばを換えていえば,かりに昭和三六年中において,運転者と潜在的被害者である歩行者をも含めた国民の全部が,何はともあれ,道路交通法のみは固く遵守して,かりそめにも違反することがなかったとすれば,右の不幸な事故件数は,零に近い程度に減少する可能性があったのである。

I-31表 原因別交通事故件数の内訳と道路交通法違反(昭和36年)