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 平成 9年版 犯罪白書 第2編/第8章/第2節/1 

第2節 刑事司法における国際協力の動向

1 国際連合

 国際連合(以下「国連」という。)では,犯罪による人的及び物的な損失とその社会・経済発展への影響を減らすこと,及び,刑事司法の国連基準・規則の履行を促進することを目的とした諸活動が展開されている。
 1950年の国連総会で承認された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する国際連合会議は,刑事司法の各領域にわたる政策の提案,意見交換のための国際会議で,1955年の第1回会議以来,5年ごとに,これまでに9回開催されている。この会議においては,被拘禁者処遇最低基準規則(第1回1955年),少年司法運営に関する国連最低基準規則(いわゆる北京ルール)(第7回1985年),非拘禁措置に関する国連最低基準規則(いわゆる東京ルール)(第8回1990年)等,多数の基準・準則,決議が採択された。これらの基準・準則や決議は,後に,国連総会や経済社会理事会で採択あるいは承認を受け,各国にその履行が促された。1995年に開催された第9回会議においては,[1]法の支配を強化するための国際協力及び実用的技術援助,[2]国内的及び国際的な経済犯罪・組織犯罪に対する対策及び環境保護における刑事法の役割,[3]刑事司法と警察制度,[4]被害者の問題を含め,都市犯罪,青少年犯罪,暴力犯罪を中心とする犯罪防止策,が議題とされた。我が国はこの会議に「犯罪の防止と社会の安全のための銃器規制」決議案を提出して採択され,これを受けて,国連では各国の銃器規制制度,銃器犯罪・銃器流通の状況等を調査する銃器規制プロジェクトが進められている。
 また,経済社会理事会の下の機能委員会として,犯罪防止刑事司法委員会が1992年に設置された。この委員会は40か国で構成され,国連における刑事司法分野の政策決定に携わるものであるが,我が国は設立当初からこの委員会の構成国に継続して選出され,関与している。
 他に,国連の刑事司法に関連する機関としては,人権委員会,麻薬委員会等が挙げられるが,これら委員会においては,刑事手続,刑罰における人権問題,国際的な犯罪対策への取組等がなされている。
 麻薬対策については,1961年の麻薬に関する単一条約(昭和39年条約第22号),向精神薬に関する条約(平成2年条約第7号),麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(平成4年条約第6号)等,国連において多国間条約が採択され,我が国もこれら条約をそれぞれ批准し,これに適合した国内法制の整備がなされている。(第1編第2章第2節2参照)1991年には,麻薬関連部局等の機能を統合した国連薬物統制計画(UNDCP)が設置され,国連の薬物統制に関する全活動の調整,関係諸条約の履行促進,国際的な薬物統制の統率等について責任を負うこととなった。
 なお,国際的な捜査協力,犯人の逮捕・引渡し等のために各国警察機関を構成員として設置されている国際刑事警察機構(ICP0)は,国連とは別の国際的な機関であるが,国連との間に協力協定を締結しており,総会でのオブザーバー資格が認められるなど,両者の協力関係の緊密化が進んでいる。
 我が国にある国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)は,昭和36年に日本政府と国連との間で署名された犯罪の防止及び犯罪者の処遇に関するアジア及び極東研修所を日本国に設置することに関する国際連合と日本国政府との間の協定に基づき,設置された国連の地域研修機関である(45年以降は日本国政府の負担により運営され,日本国政府が法務総合研究所の職員の中から所長及び必要な職員を提供している。)。同研修所は,刑事司法における国連の活動の一環として,アジア太平洋諸国等の開発途上国を中心とした各国の犯罪防止・刑事司法関係の実務家に対し,国際研修・セミナーを毎年実施している。その設立から平成9年3月末までの間に105回の国際研修・セミナーが実施され,研修員は外国人1,588人,日本人947人の合計2,535人,参加国数は86か国に及んでいる。その他,研修所では,犯罪防止と犯罪者処遇に関する調査・研究を実施するなど幅広い活動を行っている。