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 平成 9年版 犯罪白書 第2編/第7章/第3節/2 

2 少年の保護観察

 (旧)少年法及び矯正院法の下では,非行少年(18歳未満)に対する社会内処遇として,少年保護司の観察が行われていた。(本編第2章第2節参照)少年保護司の観察の対象には,[1]少年審判所により少年保護司の観察に付する処分を受けた者,[2]矯正院からの仮退院を許された者,[3]少年にして仮出獄を許された者,[4]少年にして刑の執行猶予の言渡しを受けた者があり,これら4種類の保護観察は,昭和24年の現行の少年法及び犯罪者予防更生法の施行により現行の更生保護制度に引き継がれた(現行の保護観察の種類については,本編第6章第3節1参照。)。
 以下,本項では,少年に対する保護観察のうち,保護観察処分少年及び少年院仮退院者について保護観察事件の動向等を概観する。
(1) 保護観察事件の動向
 II-80図は,昭和24年以降に保護観察所(24年から27年までは少年保護観察所)が新規に受理した保護観察対象者の人員を,保護観察処分少年及び少年院仮退院者の別に示したものである。(巻末資料II-30参照)

II-80図 保護観察新規受理人員の推移(昭和24年〜平成8年)

 保護観察処分少年については,昭和26年まで急増して約2万3,000人に達した後,一時減少に転じたが,30年代に入って再び増加に転じ,41年に3万人を超えて,第二のピークを迎えた。その後は再び減少傾向にあったものの,52年以降急激に増加し,58年以降,7万人前後で推移していたが,平成3年以降は減少傾向にあり,8年には5万1,173人となっている。昭和52年以降の急激な増加は,この年に導入された交通短期保護観察(本項(4)参照)の人員の増加の影響によるところが大きい。
 少年院仮退院者については,前項で述べたとおり,昭和27年をピークに,長期的に減少傾向を続けた後,52年に少年院に短期処遇が導入されたことなどから増加に転じたが,60年代初めから再び減少傾向にあり,平成8年には3,762人となっている。
 なお,このほか少年の保護観察対象者として,少年の仮出獄者及び少年の保護観察付き執行猶予者があるが,いずれも新規受理人員は減少傾向にあり,平成8年においては,前者が1人,後者が26人となっている。
(2) 保護観察対象少年の特徴
 II-81図は保護観察処分少年(交通短期保護観察を除く。以下,本項において同じ。)について,また,II-82図は少年院仮退院者について,昭和35年以降5年ごとを取り上げて,新規受理人員の非行名別構成比の推移を見たものである。(巻末資料II-44及びII-45参照)
 まず,保護観察処分少年については,[1]当初40%前後を占めていた窃盗が,昭和50年代初めに20%近くまで低下し,最近は25%前後で推移している,[2]当初10%台で推移していた道路交通法違反が,40年代末に40%前後まで上昇したが,52年に交通短期保護観察制度が導入されて以降は,30%前後で推移している,[3]当初7%台であったわいせつ・強姦が,次第に低下し,平成に入ってからは1%以下で推移しているなどの特徴が認められる。また,少年院仮退院者については,[1]昭和50年代初めまで50%を超えていた窃盗が,次第に低下し,最近は30%台の後半で推移している,[2]当初5%前後であった傷害が,最近は10%以上に上昇している,[3]当初はほとんど該当がなかった道路交通法違反が,50年代以降徐々に上昇し,最近は10%以上を占めるようになっている,[4]一時は10%以上を占めたわいせつ・強姦及び虞犯が,最近はいずれも5%以下に低下しているなどの特徴が認められる。
 II-83図は保護観察処分少年について,また,II-84図は少年院仮退院者について,昭和35年以降5年ごとを取り上げて,新規受理人員の年齢層別構成比の推移を見たものである。
 これによると,17歳以下の少年の割合は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者共に,昭和40年から45年にかけていったん低下し,その後60年にかけて徐々に上昇する傾向が見られたが,平成に入ってからは,前者は50%前後で,後者は30%台で推移しており,構成比にあまり変化は見られない。

II-81図 保護観察処分少年新規受理人員の非行名別構成比(昭和35年〜平成8年)

II-82図 少年院仮退院者新規受理人員の非行名別構成比(昭和35年〜平成8年)

II-83図 保護観察処分少年の年齢層別構成比(昭和35年〜平成8年)

II-84図 少年院仮退院者の年齢層別構成比(昭和35年〜平成8年)

 II-85図は,保護観察処分少年について,非行時における薬物等の使用状況を見たものである。近年,シンナー等有機溶剤使用者の割合が低下しており,全体としては,薬物使用歴なしの割合が高くなってきている。
 また,II-86図は,保護観察処分少年について,非行時の不良集団関係を見たものである。どの年次においても,4割近くの者は,何らかの不良集団に関係している。

II-85図 保護観察処分少年の薬物等関係構成比(昭和57年〜平成8年)

II-86図 保護観察処分少年の不良集団関係構成比(昭和57年〜平成8年)

 なお,平成8年に新たに保護観察処分を受けた少年(総数2万280人)の生活状況等の特徴は,次のとおりである。
 まず,保護者の生活程度は,普通が90.2%を占め,次いで貧困の7.1%,富裕の2.6%となっている。居住状況は,両親と同居が60.5%となっており,他の親族等を含めると,家族と同居している者が91.9%を占めている。職業別の構成比を見ると,有職者が56.2%,学生・生徒が22.5%,無職が21.2%となっている。また,教育程度は,中学校在学以下が5.6%,中学校卒業が28.2%,高等学校在学が16.1%,高等学校中退が36.0%,高等学校卒業以上が14.1%となっており,6割以上が高校在学以上であるが,中退者の占める割合が高い(保護統計年報による。)。
(3) 保護観察処遇の状況
ア 成績良好者に対する措置
 保護観察の期間中に行状が安定し,再非行のおそれがなくなったと認められる者に対しては,次のような措置(良好措置)が執られる。
 [1] 保護観察処分少年  保護観察を終了させる解除           保護観察を一時停止させる良好停止
 [2] 少年院仮退院者   保護観察を終了させる退院
 平成8年に執られた良好措置は,解除4万4,372人(前年4万7,092人),うち交通短期保護観察少年3万62人(同3万1,790人),良好停止545人(同134人),退院677人(同897人)となっている(保護統計年報等による。)。
イ 成績不良者に対する措置
 保護観察の期間中に遵守事項違反,再非行等があった者に対しては,次のような措置(不良措置)が執られる。
 [1] 保護観察処分少年      家庭裁判所へ新たな処分を求める通告
 [2] 少年院仮退院者       少年院に再収容する戻し収容
 平成8年に執られた不良措置は,通告31人(前年37人),戻し収容9人(同10人)となっている(保護統計年報等による。)。
(4) 各種の施策
ア 分類処遇制度
 II-87図は,分類処遇制度(本編第6章第3節3参照)が発足した昭和46年以降のA分類率の推移を見たものである。特に少年院仮退院者のA分類率の高さが際立っており,62年以降は30%を超える高率で推移している。

II-87図 A分類率の推移(昭和46年〜平成8年各12月31日現在)

イ 類型別処遇制度
 平成8年12月31日現在で保護観察中の保護観察処分少年及び少年院仮退院者のうち,類型別処遇(本編第6章第3節3参照)により,主な類型に該当している者の比率は,II-42表のとおりである。

II-42表 保護観察処分少年及び少年院仮退院者の類型別該当率(平成8年12月31日現在)

ウ 交通事犯少年に対する保護観察
 モータリゼーションの進行に伴う交通犯罪や非行の増加に対処するため,昭和40年4月,道路交通法違反により保護観察に付された少年に対する取扱要領が定められ,それ以外の対象者とは異なった処遇が行われるようになった。これは,従来の個別処遇の方法に加えて,安全運転等に関する集団処遇の方法を積極的に活用していることを特徴としており,併せて保護観察の諸手続の簡略化が図られることとなった。この施策は,45年には,その対象が交通関係業過事件にも拡大され,さらに49年には交通関係業過や道路交通法違反に係る他の保護観察対象者(少年院仮退院者等)にも広く適用されることとなった。
 さらに,昭和52年4月には,交通短期保護観察制度が導入された。これは,家庭裁判所の処遇勧告に基づき,交通関係の非行性が固定化していない少年に対して,安全運転等に関する集団処遇を行うとともに,毎月1回,自己の生活状況を報告させ,車両の運転による再犯がなければ,原則として3月以上4月以内の短期間に保護観察を解除するものである。
 交通短期保護観察に付された少年の新規受理人員の推移は前掲II-8O図のとおりであり,本制度が導入された昭和52年の1万2,471人から平成2年の5万298人まで増加傾向が続いたが,その後減少に転じ,8年には3万893人となっている。
 平成8年においては,全国で4,571回の集団処遇が実施され,延べ5万5,696人(1回当たり12.2人)の少年が参加している。
エ 短期保護観察
 平成6年9月から,交通関係業過や道交違反以外で保護観察処分に付された少年のうち,非行性の進度がそれほど深くなく,短期間の保護観察によって改善更生が期待できるものを対象とする短期保護観察制度が導入された。これは,家庭裁判所の処遇勧告に基づき,おおむね6か月以上7か月以内を実施期間として,少年の更生にとって特に重要な指導領域を選び,これに対応する一定の課題を与えた上で重点的な処遇を行うとともに,定期的に自己の生活状況を報告させることを中心としている。
 短期保護観察に付された少年の新規受理人員は,平成6年は366人,7年は2,708人,8年は3,367人となっている。
 短期保護観察の導入に前後し,保護観察処遇の一形態として社会福祉施設における奉仕活動等の社会参加活動が積極的に実施されるようになっており,平成8年度(会計年度)においては,短期保護観察対象少年以外を対象とするものも含めて,全国で436回実施され,1,218人が参加している。
(5) 保護観察の実施結果
ア 保護観察終了時の成績
 II-88図は保護観察処分少年について,また,II-89図は少年院仮退院者について,昭和30年以降の5年ごとを取り上げて,保護観察終了事由別人員の構成比の推移を見たものである。
 まず,保護観察対象少年については,30年に70%を超えていた期間満了の占める割合が大幅に低下して平成8年には13.3%となっており,代わって,解除の占める割合が10%台から大幅に上昇して,8年には77.0%となっている。また,少年院仮退院者については,昭和30年に80%を超えていた期間満了の割合が,多少の起伏を示しながらも,50年代の前半以降70%を下回る水準で推移している一方,30年代及び40年代を通じて3%台以下で推移していた退院の割合が,50年代前半以降大幅に上昇し,最近は20%前後で推移している。保護観察の実務の向上が図られてきたことに伴い,保護観察成績良好者に対する良好措置が積極的に執られ,処遇の短期化が図られてきていることがうかがえる。
イ 再犯の状況
 保護観察を終了した者について,保護観察期間中に再度の犯罪又は非行を起こし,かつ,新たな処分を受けた者の比率(再犯率)は,昭和50年代後半から60年前後にかけて,保護観察処分少年については20%台前半で,少年院仮退院者についてはおおむね30%前後で推移していたが,その後はいずれも次第に低下する傾向を示しており,平成8年においては,前者は14.4%,後者は19.7%となっている。

II-88図 保護観察処分少年の保護観察終了事由別構成比(昭和30年〜平成8年)

II-89図 少年院仮退院者の保護観察終了事由別構成比(昭和30年〜平成8年)