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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/3 

3 保安関係法令

(1) 銃砲刀剣類等取締関係法令
 終戦時における銃砲刀剣類及び火薬類の取締りは,銃砲及び火薬類の製造,譲渡,譲受,所持,輸出入等を規制し,その違反者を処罰する規定等を定めた銃砲火薬類取締法(明治43年法律第53号)によってなされていた。
 終戦直後の連合国の占領下,軍の武装解除がなされるとともに,占領政策の一環として,国内民間人が所持する銃砲刀剣類も取締対象とされることとなり,連合国軍最高司令官は,日本政府に対し,銃砲刀剣類をはじめとする武器等の収集・引渡しを命じる旨の命令を発した。この指令履行のために,昭和21年にいわゆるポツダム勅令として銃砲等所持禁止令(昭和21年勅令第300号)が公布(同年6月施行)され,これによって,日本国民による銃砲火薬類及び刀剣類の所持が特定の場合を除いて禁止された。
 その後,昭和25年には,日本政府に銃砲刀剣類の取締りがゆだねられることになったことから,いわゆるポツダム政令として銃砲刀剣類等所持取締令(昭和25年政令第334号)が公布(同年11月施行)され,銃砲等所持禁止令は廃止された。銃砲刀剣類等所持取締令は,銃砲刀剣類の所持の原則的禁止,刃渡り15センチメートル未満のあいくち又はこれに類する刃物の携帯の禁止等を定め,違反者を処罰する規定を設けたが,これと同時に所持許可の対象を広げ,許可基準や行政処分についての規定の整備がなされた。27年4月には日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)の発効に伴い,いわゆるポツダム政令である同取締令は,ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く警察関係命令の措置に関する法律(昭和27年法律第13号)により法律としての効力を有して存続することとなった。また,30年には,銃砲に空気銃を,刀剣類に刃渡り5.5センチメートルを超える飛出しナイフをそれぞれ含める改正が行われている。
 なお,火薬類の規制については,その製造,販売,貯蔵,運搬,消費等を規制し,違反者を処罰する規定等を定めた火薬類取締法(昭和25年法律第149号)が銃砲刀剣類等所持取締令と同時期に施行(昭和25年11月)され,銃砲火薬類取締法は廃止された。
 昭和33年には,銃砲刀剣類等所持取締令が廃止され,銃砲刀剣類等所持取締法(昭和33年法律第6号)(以下「銃刀法」という。)が公布(同年4月施行)された。同法は,実質的には銃砲刀剣類等所持取締令の内容を引き継ぐものであったが,新たに,所持の許可・登録を受けた銃砲刀剣類についても,業務その他正当な理由がある場合を除いて,これを携帯し又は運搬することを禁止する規定が設けられた。銃刀法は,その後平成8年末までの間に16回にわたる改正がなされているが,その主要なものは以下のとおりである。
 昭和35年から36年にかけては,著名な政治家等に対する刺殺・刺傷事件の続発を見ていたところ,37年4月に,一部改正(同年10月施行)がされ,刃渡り5.5センチメートル以下の飛出しナイフのうち一定の要件のものを刀剣類に含めるとともに,従来から携帯が規制されていたあいくち類似の刃物について,規制対象を刃体の長さが6センチメートルを超えるものに広げた。
 昭和40年の一部改正(同年7月施行)では,けん銃密輸入事犯の急増という背景事情の下,輸入に係る罪が新設され,不法所持罪の法定刑が引き上げられた。また,規制態様に輸入が加わるなどしたため,法律名が銃砲刀剣類所持等取締法と変更された。
 昭和40年代前半には,模造けん銃を使用した犯罪のひん発,ライフル銃を使用した重大な人質・立てこもり事件等の発生を見ていたところ,46年の一部改正(同年5月施行)では,模造けん銃の所持の禁止,ライフル銃所持の制限強化等が定められた。
 昭和52年の一部改正(同年7月施行)においては,銃器を使用した暴力団の対立抗争事件の増加,改造けん銃の増加等の社会情勢の下,けん銃等の密輸入や不法所持に対する罰則の強化,模造銃器の販売目的所持の禁止などが定められるとともに,罰金額の全面的引上げがなされている。同時に,武器等製造法(昭和28年法律第145号)の一部改正もなされ,けん銃等の密造の法定刑が引き上げられるとともに,営利目的による密造に係る罪及び同未遂罪が新設されている。
 平成3年の銃刀法一部改正(4年3月施行)では,新たにけん銃部品の輸入や所持の規制がなされた。
 その後,平成5年6月には,けん銃による犯罪の多発に対する政府の取組みとして4年7月に設置された「けん銃取締り対策に関する関係省庁連絡会議」の申合せを受けた銃刀法及び武器等製造法の一部改正(5年7月施行)がなされている。この改正により,けん銃等に係る罰則の法定刑が大幅に引き上げられるとともに,けん銃等を適合実包と共に携帯するなどした場合に適用される加重所持罪,けん銃等の譲渡し等の罪が新設される一方,けん銃等を提出して自首した場合の刑の必要的減免規定も設けられるなどした。
 しかしながら,その後もけん銃にかかわる犯罪は後を絶たず,前記連絡会議における新たな申合せを受け,平成7年にも一部改正(同年6月施行)が行われている。この改正においては,不特定若しくは多数の者の用に供される場所等に向かって,又はこれらの場所等においてけん銃等を不法に発射する行為に係る発射罪,けん銃実包の所持,輸入,譲渡し及び譲受けの罪が新設される一方,けん銃実包を提出して自首した場合の刑の必要的減免規定も設けられた。また,けん銃等の営利目的輸入の罪及びけん銃部品輸入の罪に関する罰則の強化,送り荷中のけん銃等を取り除いて行うクリーン・コントロールド・デリバリーを実効あるものにするため,けん銃等でない物品をけん銃等として輸入等する罪の新設等も行われた。
(2) 軽犯罪法
 終戦時においては,今日の軽犯罪法で定める違法行為と同様な行為は警察犯処罰令(明治41年内務省令第16号)に定められるとともに,この違反者に対しては,違警罪即決例(明治18年太政官布告第31号)により,警察署長等が即決で裁判することとされていた。
 戦後,日本国憲法の制定に伴い,同31条,73条6号「ただし書き」及び98条の規定の下,警察犯処罰令,違警罪即決例ともに憲法に適合しないものとなった。違警罪即決例は昭和22年5月の裁判所法の施行とともに廃止され,また,軽犯罪法(昭和23年法律第39号)が23年5月に公布・施行され,これとともに警察犯処罰令が廃止された。
 なお,軽犯罪法制定当時の国会審議においては,同法が警察犯処罰令のように労働運動,農民運動等の大衆運動の弾圧に使われるのではないか,1条の各罰号に用いられている「正当な理由がなくて」又は「みだりに」などの用語が,解釈や事実認定の上で濫用されるおそれがあるのではないかなどの点についても議論がなされ,衆議院各会派共同提案の修正案として,4条の「適用上の注意」が加えられたという経緯がある。
 同法は1条1号から34号に掲げる行為に対して,拘留又は科料に処する旨を定めたほか,情状により,その刑を免除し,又は拘留及び科料を併科することができるとしたが,昭和48年の改正(49年4月施行)によって,21号に掲げられていた動物を虐待する行為が削除されている。
(3) 暴力団対策法
 暴力団については,昭和62年ころからの団体数及び構成員数の漸増,特定の広域暴力団への集中統合,いわゆる民事介入暴力の増加やその手口の巧妙・陰湿化,対立抗争事件数は減少しながらも銃器発砲事件数の割合の増加や民間人を巻き添えにするなど事件の悪質化等の傾向が見受けられた。このような背景事情の下,平成3年5月,暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い,暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずること等により,市民生活の安全と平穏の確保を図ることを目的として,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)(以下「暴力団対策法」という。)が公布(4年3月施行)された。
 暴力団対策法は,我が国の法律上初めて暴力団を反社会的存在として明確に位置付けるとともに,適用範囲を明確にするために一定の要件に該当する暴力団を指定し,指定暴力団の構成員による具体的行為のうちで従来の刑罰法令では対処し難い不当な行為を規制対象とした。この規制手段としては公安委員会による中止命令等の行政命令によるものとし,刑事罰はその実効性を担保するためのものとして位置付けられている。また,民間の公益的団体による暴力団排除活動を側面から援助し,促進するための措置を定めるとともに,暴力団員による不当な要求によって生じた被害の回復等の援助措置を設けている。
 暴力団対策法は平成5年5月に一部改正(同年5月及び8月施行)がなされているが,この改正においては,競売の対象となるような土地等に係る明渡し料等の要求行為,不当な株式買取り等の要求行為等を中止命令等の対象となる暴力的要求行為に含ませるなど,暴力的要求行為に係る規定,暴力団への加入強要や脱退妨害に係る規定,暴力団員の暴力団からの離脱及び社会復帰を促進するための規定等の整備がなされている。
 さらに,平成9年6月には,指定暴力団員と一定の関係にある者が当該指定暴力団等の威力を示して行う不当な要求行為も準暴力的要求行為として規制の対象とするなどの一部改正がなされている。