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 平成 9年版 犯罪白書 第1編/第1章 

第1編 憲法施行50年の犯罪動向

第1章 序  説

 これまでの犯罪白書の多くは,発行の前年を中心とする犯罪動向及び犯罪者処遇の実情を概観するとともに,そのときどきの刑事司法上の課題とされた特殊なテーマを選んでその特徴を分析検討することを企ててきた。しかし,本白書は,50年間の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を幅広く回顧するとの意図から,例年の構成を改め,全編にわたって,特集である1日本国憲法施行50年の刑事政策」について記述を行っている。
 戦後,昭和22年5月に日本国憲法が施行されると,相前後し,人権の尊重の思想を基調として,刑事司法に係る諸法制度及び刑事司法諸機関の役割が大幅に改革されることとなった。刑罰法規については,刑法が十数回にわたって一部改正され,多くの特別法が制定され改廃されている。また,刑事訴訟法等手続法も全面的に改正され,刑事司法諸機関も,その後の犯罪情勢に対応しながら発展を遂げてきたともいえる。そこで,本白書においては,過去約半世紀の間の,犯罪動向と犯罪者処遇の実情,刑罰法規,刑事司法諸機関の組織及び刑事政策に関する諸施策の変遷とその特徴について回顧と展望を試みている。
 ただ,この極めて膨大な対象を,限られた紙数の中に記述するためには,重大事件の記述や特定の犯罪について十分な分析をする余地はなく,また,社会変動と犯罪動向との関係の詳細を明らかにするととも困難であって,基本的には,警察,検察,裁判,矯正及び保護の各種統計資料による分析にとどめざるを得ない。しかしながら,単に数値の変動について記述することにとどまらず,可能な限りにおいて,ときどきの社会情勢等の時代背景と関連させつつ記述することに努めてはいる。また,刑罰法規の変遷についても,すべてを網羅するものではなく,犯罪動向との関連において,主要と思われる罰則に係る法令の制定や改廃に限って触れている。同様に,刑事司法諸機関の組織等の記述についても,従来から本白書が対象としていた法務省管下の検察,矯正及び保護の各機関の組織に重点を置いている。
 さらに,各種統計資料の分析といっても,ある時期以降の数値しか明らかにされていない統計資料も多くあり,また,長い年月の間に,統計の基礎となる概念や集計の基準が変わっているものなどもある。そこで,本白書においては,50年を回顧するに際し,この50年の刑事政策を研究する上で意義深いと思われる事項については可能な限り50年にさかのぼった統計数値を紹介することとした。ただし,50年間の数値を紹介することにさほどの意味が認められないと思われる場合などについては,原則として最近10年間を,あるいは,ある時期に興味深い変動のあった事項については,その時期以降の数値を,可能な限り20年,30年という区切りのよい範囲で,それぞれ振り返るに止めている。また,本来はより長い期間について紹介するべきと思われる事項であっても,上述の理由によって,ある年次にまでしか統計数値を正確にさかのぼれないことなどから,やむを得ず,限られた年次についての紹介に止めた部分もある。
 なお,白書の従前との継続性を保つべき資料としての性格にかんがみ,従前は当該対象年次の統計数値について記述していた事項については,平成8年分についても触れるように心掛けたし,本白書は過去の犯罪白書の集大成として,過去の特集の内容を総括するとの意図から,これら特集で明らかにされた興味深い犯罪現象等に係る数値の推移,変動等に関して,その後について追跡調査を行ったものもある。
 これらの結果に基づき,本白書は,「第1編 憲法施行50年の犯罪動向」,「第2編 憲法施行50年の犯罪者処遇」及び「第3編 まとめ」の3編とした。
 その第1編は,この第1章序説のほか,第2章刑罰法規の変遷,第3章刑法犯の動向,第4章特別法犯の動向,第5章少年非行の動向,第6章諸外国の犯罪動向との対比,第7章犯罪被害とその国家的救済,及び,第8章日本人の国外における犯罪と被害の全8章で構成されている。
 また,その第2編は,第1章犯罪者・非行少年の処遇を規律する法規の変遷,第2章処遇の概要,第3章検察,第4章裁判,第5章成人矯正,第6章更生保護,第7章非行少年の処遇,及び,第8章刑事司法における国際協力の全8章で構成されている。
 そして,第3編は,第1章憲法施行50年の犯罪動向,第2章憲法施行50年の犯罪者処遇,及び,第3章おわりにの全3章で構成されている。