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 平成 8年版 犯罪白書 第3編/第6章/第2節/2 

2 凶悪事犯少年の特質

(1) 年齢・職業
 III-35図は,対象者の入所時年齢について,一般事犯少年(一般事犯少年の数値は,平成7年の矯正統計年報のうち,少年鑑別所に関する資料に基づくものである。以下,本節において同じ。)との比較において見たものである。殺人事犯少年では19歳の者が半数近くを占め,強盗事犯少年では16歳から18歳までの者が多く,約7割を占めていることが特徴である。
 対象者の非行時の職業では,殺人事犯少年の42.9%,強盗事犯少年の35.7%が無職であるが,これは一般事犯少年の無職率(39.1%)と大差はない。学生・生徒の比率は,殺人事犯少年では22.9%,強盗事犯少年では32.4%,一般事犯少年では19.7%で,強盗事犯少年でその比率が高いが,これは16歳から18歳が主体である強盗事犯少年の年齢から考えると,うなずける結果である。

III-46表 凶悪事犯少年の罪名別人員

(2) 家庭の状況
 保護者が実父母である者の比率は,殺人事犯少年で60.0%,強盗事犯少年で64.1%であり,少年鑑別所新収容者全体におけるその比率(55.8%)よりも,殺人事犯少年でやや高く,強盗事犯少年で高い。また,非行時,家族と同居していた省の比率は,殺人事犯少年で68.6%,強盗事犯少年で80.0%であり,一般事犯少年のその比率(76.0%)と比較すると,殺人事犯少年でやや低く,強盗事犯少年でやや高い。
 家庭内が不和であったり父母の離婚を経験したりしている者の比率は,殺人事犯少年で40.2%,強盗事犯少年で36.5%である。また,非行時,家族と同居していた者でも,殺人・強盗事犯少年共に約3割が,家庭内が不和であったり父母の離婚を経験したりしている。
 家庭の生活程度は,一般事犯少年では,富裕2.9%,普通76.3%,貧困17.0%であり,殺人事犯少年ではそれぞれ2.9%,77.1%,20.0%で,両者の間に大きな差はない。一方,強盗事犯少年では,それぞれ4.2%,81.2%,14.0%であり,一般事犯少年より生活の程度が豊かな者の比率がやや高い。

III-35図 凶悪・ 一般事犯少年別年齢別構成比

(3) 同種事犯歴
 強盗事犯少年のうち10人(2.2%)が,過去に強盗事犯で検挙されているが,殺人事犯少年のうち過去に殺人事犯で検挙されたことがある者はいない。
(4) 薬物濫用等の経験
 III-36図は,対象者における,薬物濫用等の経験について調査した結果を示したものである。薬物濫用経験のある者は,殺人事犯少年で25.7%,強盗事犯少年で32.8%である。また,対象者中,非行時に薬物を濫用していた者の比率は,殺人事犯少年の16.7%,強盗事犯少年の11.1%であり,どちらもシンナー等有機溶剤を濫用していた者の比率が高いが,覚せい剤や麻薬・あへんを濫用していた者もわずかながらいる。
 いじめを受けた経験は,殺人事犯少年で40.0%,強盗事犯少年で23.7%であり,逆にいじめを行った経験は,殺人事犯少年で8.6%,強盗事犯少年で16.4%である。

III-36図 凶悪事犯少年に占める薬物濫用等の経験者の比率

(5) 被害者数
 III-37図は,今回の非行に際し,加害者1人に対して何人の被害者がいるかを,その構成比において見たものである。強盗事犯少年では,その22.2%が複数の者に対して被害を加えている。
 今回の非行に際して,1人の対象者が与えた被害として最も大きいのは,殺人事犯少年で被害者4人,強盗事犯少年では11人で返る。被害者は,殺人事犯少年35人に対し延べ44人,強盗事犯少年451人に対し延べ652人となっている。
 以下,凶悪事犯少年の被害者についても触れるが,加害者が共犯関係にあり,それぞれが同一被害者に対して加害を行っている場合,同一被害者が複数回計上されている場合があり,特に共犯率が90%近くに上る強盗事犯少年については結果が重複する可能性が大きい。したがって,ここでは殺人事犯少年の被害署についてのみ触れることとするが,殺人事犯少年35人中8人には共犯者がおり,被害者に関する結果は一部重複している。

III-37図 加害者1人当たりの被害者数

(6) 被害者の年齢・男女別
 III-47表は,殺人事犯少年について,その被害者の年齢層及び男女別を見たものである。被害者は加害者と同年代の10歳代である者の比率が最も高く,次いで20歳代となっており,両者を合わせると約6割となる。しかし,これを男女別で見ると,男子被害者では10歳代,20歳代の者の比率が高いが,女子被害者では40歳代以上の者の比率が66.7%を占めている。40歳代以上の被害者8人のうち3人は加害者の実母,3人は加害者の祖母である。
 参考までに,殺人事犯認知件数における被害者の年齢層別構成比を見ると,40歳代が最も高く(21.7%),次いで50歳代(17.6%)で,20歳代は17.0%,20歳未満は14.5%である(本編第8章第1節1のIII-41図参照)。

III-47表 殺人事犯少年の被害者の年齢層

(7) 被害者との関係及び面識
 III-48表は,殺人事犯少年について,被害者との関係を見たものである。
 被害者が加害者の親族,又は行きずりの者である比率が共に高い。親族である被害者の内訳は,実父母5人(親族である被害者の38.5%),祖父母4人(同30.8%),兄弟姉妹1人,夫(内縁の夫を含む。)2人,子1人である。
 男女別に,殺人事犯少年と被害者との関係を示したのが,III-49表である。女子が男子に被害を加えている事犯では,被害者3人中2人が加害者の夫(内縁の夫を含む。)である。

III-48表 殺人事鉛少年と被害者との関係

III-49表 男女別に見た殺人事犯少年と被害者との関係

 参考までに,殺人事犯検挙件数中における,加害者と被害者との関係を見ると,殺人の被害者の41.6%が加害者の親族であり,親族である被害者中,子又は妻(内縁の妻を含む。)の比率は50.5%で最も高く,次いで父母(19.9%)となっている。少年の場合,妻子を伴う家族構成が少ないので,被害者との関係別構成比はおのずと成人とは異なるが,身体的弱者が被害者となりやすい点は,成人と共通している。
 III-50表は,殺人事犯少年が被害者と面識があったか,面識があった場合には,面識の程度について見たものである。面識なしの比率は,殺人事犯少年では38.6%である。参考までに,殺人事犯検挙件数中に占めるその比率を見ると14.2%となっている。

III-50表 殺人事犯少年の被害者に対する面識の有無及び程度

(8) 主たる被害場所
 殺人事犯少年の被害者について,その主たる被害場所を見たのがIII-51表である。被害者の自宅が主たる被害場所である比率は4割に満たない。参考までに,殺人事犯認知件数中のその比率を見ると,半数以上(50.5%)が自宅で被害に遭っている。

III-51表 殺人事犯少年の被害者に見る主たる被害場所

(9) 動機と計画性
 殺人事犯少年について,犯行の主たる動機を見たのが,III-52表である。憤まん・激情の比率が最も高い。
 犯行の計画性については,殺人事犯少年の被害者の27.3%が,計画的な犯行の犠牲となっている。

III-52表 殺人事犯少年の主たる動機別被害者数

(10) 凶器と犯行の方法
 III-53表は,殺人事犯少年について,凶器の準備状況を見たものである。加害者がたまたま携行していた物が凶器として使用された比率が最も高い。参考までに,殺人事犯検挙件数中に占める凶器なしの比率を見ると,13.7%であり,殺人事犯少年のその比率とほぼ変わらない。
 III-54表は,殺人事犯少年の主たる犯行方法を見たものである。主たる犯行方法では,刃物使用の比率が最も高い。殺人事犯検挙件数中においても,同様の傾向が見られる。

III-53表 殺人事犯少年の凶器の準備状況

III-54表 殺人事犯少年の主たる犯行の方法

(11) 傷害の程度
 III-55表は,被害者の身体被害の有無及び程度を見たものである。殺人事犯少年の被害者の3人に1人が死亡し,4人に1人が1か月以上の傷害を負っている。

III-55表 殺人事犯少年における被害者の身体被害の有無及び程度