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 平成 8年版 犯罪白書 第3編/第4章/第5節/2 

2 凶悪事犯の実態に関する調査結果

(1) 調査対象者の属性等
 以下においては,まず,本件調査の対象となった,死刑又は無期刑の選択された凶悪事犯の実態を要約して紹介する。
ア 男女別及び年齢
 対象者の男女別を見ると,殺人では,男子が145人(95.4%),女子が7人(4.6%),一方,強盗致死では,男子が287人(96.6%),女子が10人(3.4%)であり,いずれについても対象者の大部分を男子が占めている。
 なお,平成7年における殺人による検挙人員総数中に占める男子の比率は約80%である(本編第2章第2節参照)。
 III-11図は,対象者の犯行時の年齢層別構成比を見たものである。

III-11図 犯行時年齢層別構成比

 殺人においては,30歳代が最も多く,40歳代がこれに次いでおり,比較的壮年者層の占める比率が高いのに対し,強盗致死においては,30歳代が最も多いが,20歳代がこれに次ぎ,青年層の占める比率が高い。
 20歳代から40歳代までの対象者を合わせると,殺人では全体の84.9%を,強盗致死では全体の85.2%を,それぞれ占めている。
イ 同種前科の有無
 III-23表は,対象者の同種前科の有無を見たものである。

III-23表 同種前科の有無別人員

 前科のないことが明らかな対象者は,殺人では53人(34.9%),強盗致死では114人(38.4%)である。
 前科のあることが明らかな対象者は,殺人では58.6%,強盗致死では58.9%を占める。司法統計年報によると,平成6年の通常第一審における有罪総人員中の前科のある者の比率は,殺人では49.2%,強盗致死傷では52.1%であり,この比率と比較する限りにおいては,死刑又は無期刑によって処断された重大凶悪事犯に至った対象者については,わずかながら再犯傾向をうかがうことができる。
 前科のある対象者中の同種前科(殺人罪(未遂罪を含む。),強盗致死罪(強盗殺人罪及び同未遂罪並びに強盗強姦致死罪を含む。)及び強盗致傷罪のいずれかの前科をいう。)のある対象者は,殺人・強盗致死共に,各対象者総数の10%強を占めている。
ウ 職  業
 対象者の犯行時の職業の有無を見たものが,III-24表である。
 殺人では,有職者が無職者よりも多く,63.8%を占めるが,強盗致死では,わずかではあるが無職者が多く,54.2%を占めている。

III-24表 犯行時の職業の有無別人員

エ 暴力団関係の有無等
 III-25表は,対象者について暴力団関係の有無を見たものである。

III-25表 暴力団関係の有無別人員

 暴力団関係のある者は,殺人においては17.1%を占めるが,強盗致死においては5.7%にすぎない。
 警察庁の統計によると,平成7年の検挙人員中に占める暴力団勢力(暴力団の構成員及び準構成員をいう。)の占める比率は,脅迫・賭博及び恐喝については,30%から60%台を占め,暴行及び傷害等については20%台であるが,これらの数値と対比する限りでは,必ずしも暴力団関係者であることと凶悪事犯に至る者との間に,強い相関関係を認めることはできない。
(2) 主たる被殺害者に係る犯行態様等
ア 殺意の有無,殺害の計画性
 対象者が,その犯した殺人・強盗致死事件における主たる被殺害者(対象者が2名以上の者を殺賓している場合には,最も情状の重い罪名又は行為に係る被殺害者をいう。対象者の故意によらずに死亡に至らしめられた被害者を含む。)を殺害するに際しての殺意の有無を見たものがIII-12図,また,この際の殺害の計画性,すなわち,犯行に及ぶ前にあらかじめ主たる被殺害者を殺害することを予定していたかどうかについて見たものがIII-13図である。

III-12図 殺意の有無別構成比

III-13図 殺害の計画性の有無別構成比

 確定的殺意を有していた者が,殺人・強盗致死共に90%以上を占めているが,強盗致死では,わずかながら,殺意がなかったにもかかわらず死刑又は無期刑という重い刑罰を科せられた対象者がいる。
 殺人・強盗致死共に,半数以上が,殺害の計画性を有していた。
 なお,法務総合研究所が以前に行った調査(全国の支部を除く地方裁判所においで昭和56年中に有罪判決の確定した者を対象としたもので,昭和58年版犯罪白書に調査結果を記述した。以下「58年白書調査」という。)によると,一般的に殺人は,突発激情的な事犯が多く,そのために計画性のないものが比較的多いともいわれていたが,死刑・無期刑確定者である対象者については,殺人では65.8%に殺害の計画性が認められる。
 さらに,本件調査の対象者については,強盗致死においてさえ,他人を殺害しようとの計画性が認められたものが53.5%を占めていることが注目される。
イ 殺害の動機
 III-26表は,殺人についての対象者について,被殺害者を殺害した動機を見たものである。
 「58年白書調査」においては,一般的に殺人では,「憤怒」に基づくものが多いとされていたが,対象者に関しては,総数のうちに際だって高い比率を占める動機は見当たらず,「その他の利欲目的」,「報復・怨恨」,「憤まん・激情」,「保険金入手目的」及び「痴情・性的動機」等の動機に基らくものが,いずれも10%台の比率を示している。

III-26表 殺害の動機別人員(殺人)

ウ 殺害に使用した凶器等の種類及び殺害の態様
 対象者が,主たる被殺害者を殺害するに際し,殺害のために使用した凶器等について見たものがIII-27表,殺害の態様について見たものがIII-28表である。
 使用した凶器等については,殺人では,「刀剣類・刃物」,「ひも・コード・布類」,「手足等身体の部分使用」及び「銃砲」等による犯行が,いずれも20%前後を占めている。強盗致死では,「ひも・コード・布類」を使用した犯行が45.1%と最も高い比率を占め,「刀剣類・刃物」の使用によるもの(31.3%)がこれに次いでいる。
 殺害の態様は,殺人・強盗致死共に「絞殺(扼殺を含む。)」の比率が32.9%,49.5%と最も高い。以下,殺人では「刺殺」(18.4%),「銃殺」(17.8%)の順,強盗致死では,「刺殺」(26.9%),「撲殺」(14.1%)の順となっている。

III-27表 殺害に使用した凶器等の種類別人員

III-28表 殺害の態様別人員

エ 強盗の態様
 III-29表は,強盗致死について,強盗行為の態様を見たものである。
 「その他の屋内強盗」(例えば,同居中の者が他の同居人から金品を強奪するものなど。)の構成比(35.4%)が最も高く,以下,「誘い出し・おびき出し」(14.1%),「押入り強盗」(13.5%),「上がり込み強盗」(10.1%)がこれに続いている。

III-29表 強盗の態様別人員

オ 被殺害者の死亡状況
 III-14図は,被殺害者の死亡状況を見たものである。
 主たる被殺害者を「即死」させたものが,殺人では78.3%,強盗致死では86.5%を占めている。
カ 共犯者の有無と役割
 III-30表は,共犯者の有無・役割を見たものである。
 共犯者のあるものは,殺人・強盗致死共に20%台である。
キ 罪証隠滅行為の有無
 III-31表は,対象者が主たる被殺害者を殺害した後に,死体損壊・遺棄又は放火等の罪証隠滅行為に出たか否かを見たものである。
 総数に占める比率は,殺人は隠滅行為に出たものが52.6%と,他方,強盗致死では隠滅行為に出なかったものが52.5%″とわずかに高い。

III-14図 被殺害者の死亡の状況別構成比

III-30表 共犯者の有無・役割別人員

III-31表 罪証隠滅行為の有無別人員

III-15図 被殺害者数別構成比

(3) 被害者数及び殺害行為に関連する行動等
ア 被殺害者数
 III-15図は,対象者の犯行による被殺害者数を見たものである。
 殺人では1名を死亡させたものの構成比が42.8%と最も高いが,2名を死亡させたちの(38.8%)との間に,構成比の大きな差はない。殺人では最高6名を死亡させた例がある。
 強盗致死では,1名を死亡させたものが91.9%を占めている。強盗致死では最高7名を死亡させた例がある。
イ 生命保険金騙取の有無
 対象者が,主たる被殺害者を殺害した後に,被殺害者を被保険者とする生命保険金を騙取したものは,殺人では12人(7.9%),強盗致死では9人(3.0%)ある。
ウ 性的加害の有無
 対象者が,殺人又は強盗致死の機会に被殺害者又はその他の者に対し,強姦行為に及ぶなどの性的被害を与えたか否かを見ると,殺人では30人,強盗致死では26人の合計56人(12.5%)が性的加害行為に及んでいる。
(4) 被殺害者に関する事項等
ア 主たる被殺害者の年齢
 III-16図は,主たる被殺害者の年齢層別構成比を見たものである。

III-16図 主たる被殺害者の年齢層別構成比

 殺人においては,20歳代が主たる被殺害者であるものの比率が23.0%と最も高く,20歳代から50歳代までで70.4%を占めている。
 強盗致死においては,70歳以上が主たる被殺害煮であるものの比率が18.2%と最も高いものの,20歳代から70歳以上まで,いずれもが10%台を占めており,おおむね均等に分布している。
 なお,20歳未満の者を主たる被殺害者とするものも,殺人では20.4%を,強盗致死では4.0%を,それぞれ占めている。
イ 主たる被殺害者の男女別
 III-17図は,主たる被殺害者の男女別構成比を見たものである。
 主たる被殺害者が女子であるものの比率は,殺人では52.6%,強盗致死では55.2%を占めている。
 「58年白書調査」においては,殺人(死刑又は無期刑を科せられたものに限らない。)については,469人の殺人被害者(未遂に係るものを含む。)中に女子は154人(32.8%)を占めていることに対比すると,死刑又は無期刑が科せられた者を対象者とする本件特別調査における殺人での女子被殺害者の占める比率の高さが注目される。

III-17図 主たる被殺害者の男女別構成比

ウ 対象者と主たる被殺害者との関係
 III-18図は,対象者と主たる被殺害者との関係を見たものである。
 強盗致死では「他人」の全体に占める比率が50.5%であるのに対し,殺人では「他人」が42.8%である。
 「58年白書調査」の結果によると,殺人の被害者469人中の416人(88.7%)が犯人と面識を有しており,この数値と対比する限りでは,対象者の被殺害者との間の面識率の低さが注目される。

III-18図 主たる被殺害者と犯人の関係別構成比

エ 主たる被殺害者の被害状況
 III-19図は,主たる被殺害者の被害時の状況について見たものである。
 殺人,強盗致死共に,被殺害者が犯人と「応対中」に殺害されたものの比率が,それぞれ39.5%,47.5%と,最も高い。
 殺人では,被殺害者が「就寝中」(13.2%)に殺害されたもの(被殺害者が犯人に起こされた後に,あるいは自ら犯人に気付いて起きた後に殺害されたものを含む。)及び「通行中」(13.2%)に殺害されたものの比率がこれに次いでいる。
 強盗致死では,「応対中」に続いて,「就寝中」(18.5%),「勤務中」(15.5%)の順となっている。

III-19図 主たる被殺害者の被害状況別構成比

オ 主たる被殺害者との関係における酌むべき事情
 主たる被殺害者による犯行の挑発等,被殺害者の行為が犯罪をじゃっ起し,あるいは有力な原因となるなどの対象者にとって酌むべき背景事情(以下丁被害者との関係における酌むべき事情」という。)が認められるかについて見ると,殺人では,対象者に酌むべき事情が認められないものは135人(88.8%)であるのに対し,これが認められるものは17人(11.2%)である。
 強盗致死でも,対象者に酌むべき事情が認められないものが292人(98.3%)と大部分を占め,これが認められるものはわずか5人(1.7%)である。
 一般に殺人では犯人側にこのような酌むべき事情が認められることも多く,「58年白書調査」の結果によっても,殺人の被害者427人に関し,犯人の側に酌むべき事情が全くなかったものは187人(43.8%)であることと対比しても,死刑・無期刑の確定者である対象者についての上記数値は注目される。
カ 主たる被殺害者の遺族の被害感情
 主たる被殺害者の遺族の被害感情について見ると,判決書から知り得た限りでは,殺人では,対象者98人(64.5%)について遺族が犯人の「極刑」を,26人(17.1%)について「厳罰」を,それぞれ希望しており,遺族がゆうじょ「宥恕」しているものは8人(5.3%)である。
 強盗致死では,対象者180人(60.6%)について遺族が「極刑」を,74人(24.9%)について「厳罰」を,それぞれ希望するのに対して,「宥恕」しているものは4人(1.3%)である。
(5) 犯行後の情状等
ア 被害弁償・慰謝の措置
 被害弁償・慰謝の措置について見ると,判決書からうかがえる限りでは,多少なりとも被害弁償・慰謝の措置がなされたものは,殺人では41人(27.0%),強盗致死では53人(17.8%)である。
イ 反省・悔悟の有無
 対象者の反省・悔悟の情の有無について見ると,判決書の記載による限りでは,反省・悔悟の情が認められる者は,殺人では96人(63.2%),強盗致死では209人(70.4%)である。
 これに対し,反省・悔悟の情が認められない者は,殺人では23人(15.1%),強盗致死では29人(9.8%)であり,「一応,反省・悔悟の情を示しているが,真に反省・悔悟しているとは認められない者」は,殺人では20人(13.2%),強盗致死では39人(13.1%)である。