前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 8年版 犯罪白書 第1編/第4章/第2節 

第2節 関係法令の制定

 猛毒ガスサリンによる無差別テロ事件の再発を防止するため,政府は,地下鉄サリン事件発生後,サリンの製造,所持等を取り締まるための法律案を国会に提出し,平成7年4月21日,「サリン等による人身被害の防止に関する法律」(平成7年法律第78号)が公布,即日施行された(ただし,罰則規定については5月1日,また,一部については「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」(平成7年法律第65号)の施行の日である5月5日に各施行された。)。
 「サリン等による人身被害の防止に関する法律」の概要は,以下のとおりである。
(1) 目  的
 サリン等の製造,所持等を禁止し,その発散行為の罰則,発散による被害発生の場合の措置を定めることで,サリン等による人の生命・身体の被害の防止及び公共の安全の確保を図ること。
(2) 「サリン等」の定義
[1] サリン(メチルホスホノフルオリド酸イソプロピル)
[2] サリン以上の又はサリンに準ずる強い毒性を有し,一定の要件に該当する物質で政令で定めるもの。これに該当するものとして,ソマン,VXなどが定められた(サリン等による人身被害の防止に関する法律の規定による規制等に係る物質を定める政令(平成7年政令第317号))。
(3) 罰  則
[1] サリン等を発散させる罪(サリン等を発散させて公共の危険を生じさせた者)及び同未遂罪は,無期又は2年以上の懲役。予備罪は,5年以下の懲役(実行の着手前に自首した者は刑の減軽又は免除となる。)。(5条)
[2] サリン等を製造等する罪(サリン等の製造,輸入,所持,譲渡し,譲受け)及び同未遂罪は,7年以下の懲役。発散目的でサリン等を製造等する罪及び同未遂罪は,10年以下の懲役(実行の着手前に自首した者は刑の減軽又は免除となる。)。サリン等を製造・輸入する罪の予備罪及び発散目的でサリン等を製造・輸入する罪の予備罪は,3年以下の懲役。(6条)
[3] 資金等提供罪(情を知って,サリン等を発散させる罪,サリン等を製造・輸入する罪,又は発散目的でサリン等を製造・輸入する罪に当たる行為に要する資金,土地,建物,設備,器具,原材料等の提供)は,3年以下の懲役。(7条)
(4) 被害発生時の措置等
 サリン等(及びその疑いがある物質)の発散により,人の生命・身体に被害が生じ又はそのおそれがある場合,警察官,海上保安官,消防吏員が警察法等関係法令に従い,立入りの禁止,人の退去,物品等の回収・廃棄等被害を防止するために直ちに採るべき必要な措置を定めるとともに,国民に対し,サリン等発見時の速やかな通報及び右措置に対する協力を義務付けた。
 なお,同法律と相前後して,平成7年4月5日,上記「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」が公布され,一部の規定を除いて,5月5日に施行された。これは,「化学兵器の開発,生産,貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」の適確な実施を確保するため,化学兵器(砲弾,ロケット弾等の兵器で,毒性物質等を充てんしたもの)を使用して毒性物質等を発散させる行為(同未遂及び予備),化学兵器の製造(同未遂及び予備),所持・譲渡し・譲受け(同未遂),化学兵器製造目的での原料物質の所持(同未遂)等を処罰するものである。