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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第5章/第7節/1 

第7節 少年の更生保護

1 少年の保護観察

(1) 概  況
 保護観察全般については,第2編第4章第2節で触れたが,本項では,少年の保護観察を中心に述べることにする。
 少年の保護観察には,少年法24条1項1号に基づき家庭裁判所で決定された保護観察,少年院からの仮退院を許可された少年に対する保護観察,少年刑務所からの仮出獄者及び保護観察付き刑の執行猶予者に対する保護観察がある。
 平成元年において保護観察所が新たに受理した保護観察対象者は,前掲II-48表のとおりであり,保護観察処分少年は7万322人(前年比2.9%増),少年院仮退院者は4,614人(同2.9%減),少年の仮出獄者は12人,少年の保護観察付執行猶予者は80人である。なお,本項では,少年の仮出獄者及び少年の保護観察付執行猶予者については,数が少ないことから,主として少年法24条1項1号に基づく保護観察及び少年院仮退院者の保護観察について述べる。
 昭和62年以降において新たに受理した少年の保護観察対象者を,保護観察処分少年については一般事件と交通事件とに,また,少年院仮退院者については刑法犯,特別法犯及び虞犯に分けた上,非行の種類別に示すと,III-97表のとおりである。平成元年について,前年と比べて見ると,保護観察処分少年は,一般事件では,粗暴犯が2,476人で2.4%増加しているが,財産犯6,470人(前年比8.8%減),薬物犯罪2,239人(同4.9%減),虞犯660人(同11.4%減),性犯罪247人(同7.8%減),凶悪犯150人(同11.8%減)で,それぞれ減少している。交通短期保護観察を除く交通事件の保護観察処分少年は1万573人(同2.3%増)で,交通短期保護観察処分少年は4万6,586人(同5.6%増)である。

III-97表 保護観察対象者の非行種類別受理人員(昭和62年〜平成元年)

 また,少年院仮退院者については,刑法犯では,財産犯2,146人(前年比1.7%減),粗暴犯604人(同11.8%減),性犯罪216人(同1.9%増),凶悪犯125人(同16.7%減),業過93人(同7.0%減)である。特別法犯では,薬物犯罪548人(同13.3%減),道路交通法違反352人(同29.4%増)であり,また,虞犯は358人(同5.0%減)となっており,他の罪種がおおむね減少傾向の中にあって道路交通法違反の増加が目立っている。

III-98表 保護観察処分少年の保護処分歴別受理人員(昭和62年〜平成元年)

 III-98表は,交通短期保護観察少年を除く保護観察処分少年について,その保護処分歴を見たものである。平成元年では,何らかの保護処分歴(審判不開始及び不処分を含む。)のある者が63.3%となっている。
 平成元年の受理時における保護観察処分少年と少年院仮退院者の年齢は,前掲II-50表のとおりであり,15歳以下の低年齢少年の占める割合は,保護観察処分少年が12.1%,少年院仮退院者が7.2%であり,少年の保護観察全体における低年齢少年の比率は依然低いといえよう。なお,受理時において中学校在学中である少年は,昭和63年は1,668人であったが,平成元年は1,538人となり,前年に比べて130人減少している。
(2) 保護観察の実施状況
 保護観察所では,保護観察対象者を問題別に類型化して把握し,各類型ごとにその特性に応じた効率的な処遇を実施している。III-99表は,平成元年12月31日現在における交通短期保護観察少年を除く保護観察処分少年及び少年院仮退院者について,暴力組織関係者,暴走族,シンナー等濫用者,覚せい剤事犯者,校内暴力少年及び家庭内暴力少年を,それぞれの人員及び保護観察対象者総数に占める比率で示したものである。保護観察処分少年及び少年院仮退院者のいずれにおいても,シンナー等濫用者の占める比率が高く,保護観察所では,これらシンナー等濫用者に対し通常の個別処遇に加えて集団処遇を実施している。元年には,26庁の保護観察所において,計63回開催され,参加した保護観察対象少年は590人である。

III-99表 保護観察対象者の類型別人員(平成元年12月31日現在)

 平成元年に保護観察を終了した,交通短期保護観察少年を除く保護観察処分少年及び少年院仮退院者の状況は,前掲II-53表のとおりであり,最近3年間における保護観察対象少年の保護観察終了状況を,保護観察処分少年については,一般事件と交通事件とに,少年院仮退院者については,長期処遇と短期処遇とに分けて見たものが,III-100表である。
 平成元年に保護観察を終了した保護観察処分少年のうち,経過が良好で保護観察を解除された者の比率は,一般事件で57.5%,交通事件で84.7%である。また,再犯・再非行を犯すなどして新たに保護処分又は刑事処分を受け,家庭裁判所の決定により従前の保護観察処分が取り消された者の比率は,一般事件で17.6%,交通事件で5.1%である。
 一方,平成元年に保護観察を終了した少年院仮退院者のうち,経過が良好のため退院申請を行い,地方更生保護委員会の決定により退院とされた者の比率は,短期処遇で27.2%,長期処遇で11.3%である。また,経過が不良のため地方更生保護委員会の申請に基づき,家庭裁判所の決定により,少年院に戻し収容の措置がとられた者,及び再非行等により保護処分が取り消された者を合計した比率は,長期処遇の少年で21.1%,短期処遇の少年で18.5%である。

III-100表 保護観察の終了状況(昭和62年〜平成元年)

 III-101表は,平成元年における保護観察の終了状況を,保護観察の実施期間別に示したものである。すなわち,保護観察処分少年の保護観察の受理から解除までの期間は,一般事件の少年の場合は,2年以内の者が81.6%を占めており,交通事件の少年の場合には,1年以内の者が80.4%,1年を超えて2年以内の者が17.7%を占めている。また,少年院仮退院者のうち,退院までの期間が1年以内の者の比率は,長期処遇を受けていた少年では,19.6%であり,短期処遇を受けていた少年では42.9%である。

III-101表 保護観察の実施期間別終了状況(平成元年)

(3) 交通短期保護観察
 交通関係業過や道交違反で保護観察処分の決定を受けた少年のうち,家庭裁判所により短期の保護観察が相当である旨の処遇勧告が付された者に対しては,原則として,保護観察官による特別な処遇を短期間のうちに実施する交通短期保護観察が行われている。これは,安全運転に関する討議を中心とした集団処遇と,少年から毎月1回生活状況に関する報告を行わせることを主な内容とするものであるが,保護観察開始後3か月以上4か月以内に,車両の運転による再犯がなく,集団処遇に出席し,生活状況に関する報告を行い,かつ,少年の更生上特に支障がなければ,保護観察は解除される。なお,6月を超えても解除できない状態にある者に対しては,保護観察処分の決定をした家庭裁判所の意見を聴いて,交通関係業過や道交違反で通常の保護観察処分に付された者と同様の処遇が行われる。
 III-102表は,最近3年間における交通短期保護観察の受理・終了状況を示したものである。交通短期保護観察少年の受理人員は,毎年増加を続けてきたが,昭和62年4月に道路交通法の一部が改正され,反則通告制度の適用範囲が拡大されたこともあって,63年は52年の制度発足以来初めて減少した。しかし,平成元年には再び増加し,4万6,586人となっている。また,同年中に保護観察が終了した交通短期保護観察少年は4万4,835人であるが,そのうち,4万4,571人が解除によって終了している。最近3年間に実施した集団処遇の回数,参加延べ人員及び1回当たりの参加人員は,III-103表のとおりであり,元年においては,実施回数4,845回,参加延べ人員8万4,303人,1回当たりの参加人員17.4人である。

III-102表 交通短期保護観察少年の受理・終了状況(昭和62年〜平成元年)

III-103表 交通短期保護観察少年に対する集団処遇実施状況(昭和62年〜平成元年)