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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第5章/第5節/3 

3 処遇の概要

(1) 概  説
 少年院における処遇は,在院者の特性や心身の発達程度を考慮し,明るい環境の下で,規律ある生活に親しませ,勤勉な精神を養わせるとともに,健全な生活経験を豊富に積ませることなどを通じて,その社会不適応の原因を除去することを始め,長所を伸長し,心身共に健全な少年の育成を期して行われる。
 在院者の基本的な衣食住については,衣類,寝具,その他日常生活に必要な物品等は少年院から貸与又は給与されているが,規律や衛生に害がないと認められる場合には,自己の物品の使用も許可されている。飲食物の給与は,病気のため特別な飲食物をとらせる必要のある場合を除き,均等に給与されている。一般在院者に対しては,総給与熱量は1人1日当たり3,100kcalで,主食の米と麦の混合割合は,重量比でおおむね米80対麦20とされている。1日の副食費は,平成2年度(会計年度)で347円となっている。このほか,誕生日など特別な日の副食を彩るため,正月の三が日には1人1日当たり250円計750円が,祝祭日及び誕生日には1人1日当たり60円が,また,行事に際して1人当たり年間600円がそれぞれ加算される。
 病気のために医療を必要とする者は,各少年院に配置されている医師の診療を受ける。しかし,専門的又は長期の医療を要する者は,医療少年院に収容するか,外部の病院に通院若しくは入院させるか,又は自宅などの適当な場所で適切な医療を受けさせている。
(2) 教育課程
 少年院においては,全国的に統一した教育課程(在院者の特性及び教育上の必要性に応じた教育内容を総合的に組織した標準的な教育計画)を編成し,矯正教育の目的の効果的な達成を図るものとされている。これによれば,具体的に,教育課程は,[1]生活指導,[2]職業補導,[3]教科教育,[4]保健・体育,[5]特別活動の各指導領域から構成されている。また,入院から出院までの期間を,新入時,中間期,出院準備の三期に分け,それぞれの期に応じた教育目標や教育内容が発展的,段階的に設定されている。なお,教育課程は,課業として実施するものとされ,1週間の標準課業時間は,昼間でおおむね33単位時間(1単位時間は50分),夜間でおおむね11単位時間,計44単位時間を下回らない範囲で,施設や地域の実情に応じて定められている。
ア 個別的処遇計画
 分類処遇制度により,各少年院には,共通した問題性等を有する少年が収容されているが,個々の少年を見ると,非行の原因となっている問題及び今後伸長すべき長所等は異なっている。このため,実際の処遇に当たっては,施設としての処遇方針に沿いながら,特に少年個人に焦点を当てた具体的な教育計画が立てられる。これは,個別的処遇計画と呼ばれており,少年鑑別所で作成された処遇指針等を参考にして,少年にとって最も適当かつ有効と考えられる処遇内容・方法を系統的に配列したものであり,入院後できるだけ早期に作成され,個々の少年に対する矯正教育を実施するに当たって柱となるものである。
 個別的処遇計画には,非行と密接に関連している問題や資質上の問題,保護環境上の問題などに対応した,例えば,シンナーなどの薬物の濫用をやめること,不良仲間や暴力団との関係を断ち切ること,親子の関係を改善することなどの個人別教育目標が設定されている。この教育目標は,出院までに収容者に達成させるべき重点事項であり,その達成をより効果的に行うために,少年院における生活に即した形に具体化され,処遇の進展に応じて段階的に設定されている。なお,この処遇計画は,固定したものではなく,少年の教育を展開していく過程において,必要な場合には,少年鑑別所の再鑑別を行うなどして,適宜修正を加えている。
イ 生活指導
 生活指導は,在院者の心身の発達程度,資質等の特性を踏まえ,非行に直接関係のある生活態度やものの考え方を是正し,社会生活への適応を図ろうとするもので,矯正教育の最も中心的なものである。具体的内容としては,[1]薬物濫用防止教育や交通安全教育などを始め,非行にかかわる態度及び行動面の問題に対する指導,[2]資質上の問題に対する指導,[3]家族関係や交友関係の調整など保護環境上の問題に対する指導,[4]健全な生活習慣や遵法的な生活態度の育成など基本的生活態度に関する指導,[5]美的・道徳的な情操に関する指導などである。その実施方法は,在院者の特質に応じて最も有効と考えられるものが選ばれており,読書指導,グループカウンセリング,役割活動,心理劇,問題性別の指導など20種類に上る指導技法が用意されている。
 このうち,問題性別の指導は,共通の問題を有する在院者で小集団を編成し,一定の期間それぞれの問題に応じた指導を加える処遇方法である。III-86表は,問題性別の指導として行われた特別講座の実施状況を見たものである。平成元年においては,有機溶剤や覚せい剤などの薬物の濫用を防止するための指導として薬物問題の特別講座を設けている施設が最も多い(50庁)。次いで,交通安全教育や無免許運転・暴走族などの問題に関する交通・暴走族問題(39庁),家庭内の不和・葛藤などに関する親子・家庭問題(32庁),入院前の不良仲間や暴力団との関係に関する不良交友・暴力団問題(29庁)なごとなっている。また,特に女子の施設では,性・異性問題に関する特別講座を設けているところが多い。そのほか,情緒未成熟,職場不適応,生活マナーなどの問題に対する指導も実施されている。これらは,視聴覚教材を利用したり,集団討議,カウンセリング,講話など種々の方法によって行われる。

III-86表 特別講座実施状況(昭和62年〜平成元年)

 なお,在院者には,保護環境上の問題を有する者が多いことから,前記特別講座による指導のほか,親子・家族関係の調整や問題解決のために,保護者をも含めた指導が行われている。これは,在院者と保護者との通常の面会時をはじめ,特別に保護者の来院を求めて行う保護者会,保護者の宿泊のために特別に設備された「家庭寮」と呼ばれる建物で,親子水入らずで一晩を過ごさせる宿泊面会などを通じて実施されている。
ウ 職業補導
 平成元年の少年院新収容者のうち54.6%は無職であり,また,職業に就いている者でも転職を繰り返したり,勤労意欲に欠けていたりする者が多い。しかし,進学及び復学する者以外の多くの者は,出院後直ちに職業生活に入る必要があるところから,これらの少年に対して勤労意欲の向上を図り,職業に関する知識や技能を付与することは,矯正教育の重要な領域の一つとなっている。職業補導の具体的内容は,[1]職業の選択及び職業生活への適応を容易にさせるため,職業情報の提供,技能実習,職業生活に関する相談助言などを行う職業指導,[2]職業能力開発促進法等関係法令に基づいて行う職業訓練(職業訓練課程において実施されている。),[3]職業指導等の応用実習として又は社会生活への円滑な移行を図る手段として,院外の事業所などに委嘱して行う院外委嘱職業補導である。少年院で実施している技能実習としての職業補導の主な種目は,溶接,木工,金属加工,建設機械運転,農園芸,陶芸,手工芸,家事サービスなど多種目に上る。なお,平成元年度(会計年度)中に職業補導関係の資格・免許を取得した人員は,III-87表のとおりであり,在院中に何らかの資格・免許を取得した者は,延べ3,890人である。このうち,職業訓練課程において関係法令に基づいた訓練を修了した者には,労働省職業能力開発局長名の職業訓練履修証明書が授与されている。また,最近では,社会情勢に対応してワードプロセッサやパーソナルコンピュータなどのOA機器の導入・活用も行われている。元年中に院外委嘱職業補導を受けた者は,前年からの継続者を含め408人となっている。

III-87表 資格・免許の取得人員(平成元会計年度)

エ 教科教育
 教科教育の内容は,[1]義務教育未修了者に対する,中学校学習指導要領に準拠した各教科の指導,[2]高等学校教育を必要とする者に対する補習教育としての指導,[3]学力遅滞者及び進学希望者に対する補習教育となっている。特に教科教育課程においては,[1]及び[2]を中心とした指導がなされている。これらには,教員免許状を有する職員が直接指導に当たるほか,必要があれば,地元の学校や出身校などから教諭を招へいするなどしている。
 収容者のうち学齢生徒である者については,前記のとおり,各教科の指導を行って円滑に復学できるよう配意しているほか,特に短期処遇の対象者においては,学業の中断を避け,学校生活への復帰を容易にすることを目的として,例えば,短期間の院内教育の後,保護者のもとから出身中学校に通学させ,週末だけ帰院させる方法が,「特修科」等の名称の下,播磨少年院ほかの施設で試行されている。一方,高等学校教育を必要とする者は,通信制の課程を置く地元の高等学校へ編入させたり,また,大学等への進学を希望する者に対しては,院内において補習教育を実施し,文部省の行う大学入学資格検定を受験させる機会を与えるなどしている。
 平成元年の少年院出院者4,915人のうち,99人は学齢中に仮退院して中学校に復学し,40人は高等学校に復学している。さらに,650人が在院中に中学校の卒業証書又は修了証明書を授与されている。III-88表は,元年度(会計年度)における少年院出院者の進学状況等を見たものである。高等学校へ進学した者は68人,専修学校へ進学した者は10人であり,中学校卒業程度認定試験及び大学入学資格検定にはそれぞれ3人が合格している。なお,学校以外の教育については,簿記,書道,ペン習字,英語,レタリングなどの社会通信教育を受講させている。受講者には,受講に要する費用の全額を国が負担する公費生と,受講者自らが負担する私費生とがあり,元年度(会計年度)における受講者数は,前年度からの継続者も含めて,公費生が613人,私費生が135人となっている。

III-88表 少年院出院者の進学状況等(平成元会計年度)

オ 保健・体育及び特別活動
 保健・体育は,在院者の心身の健康を維持,増進させるため,衛生に関する知識等の習得と体力の増強を内容としている。特別活動は,在院者に共通する一般的な教育上の必要性により行われるもので,具体的内容としては,[1]日常の生活における自治委員会や役割活動等の自主的な活動,[2]工場や社会施設などの社会見学,登山やキャンプなどの野外訓練,老人ホーム慰問や公園の清掃などの社会奉仕活動等,少年院外で行う院外教育活動,[3]共通の興味・関心を中心に部を編成して行うクラブ活動,[4]余暇を健全かつ有効に活用する習慣を体得させるための各種レクリエーション,[5]四季折々に行う体育祭,文化祭などの行事からなっている。
 ちなみに,平成元年に出院した4,915人のうち,院外教育活動に参加するために外出した人員は,4,063人(82.7%),外泊した人員は452人(9.2%)である。クラブ活動としては,柔道,剣道,バレーボール,サッカーなどの運動系のもの,美術・絵画,書道,音楽などの文化系のもの,簿記・珠算などの職業・技能系のものが主に実施されている。レクリェーション及び行事として平成元年中に実施された主なものは,映画(1施設年間平均15回),誕生会(同11回),季節的な催し(同11回),講演会(同9回),運動会を含む各種の競技会(同9回),演劇・音楽等(同6回)などとなっている。
(3) 民間協力
 少年院の処遇は,これまで述べてきた教育課程の各領域の多くの分野で,民間篤志家の協力を得て行われている。その代表的なものが,篤志面接委員制度及び教誨(第2編第3章第3節3参照)である。
 III-89表は,平成元年12月31日現在における少年院の篤志面接委員数を部門別に見たものである。総数は逐年増加し,元年では785人(前年781人)となっている。部門別では,宗教関係,教育関係及び更生保護関係が多いが,商工,文芸,社会福祉,法律などの各関係者からも幅広く協力を得ている。なお,女子の委員は315人(総数の40.1%)である。元年において,篤志面接委員が在院少年に面接した回数はIII-90表のとおり,総数で1万5,140回(前年1万5,189回)であり,また,委員1人当たりの面接回数は19.3回となっている。面接内容を見ると,精神的煩もん(在院者が抱えている精神的悩み)に関するものが全体の約3分の1を占めており,教養,家庭相談,職業相談,趣味などがこれに次いでいる。

III-89表 篤志面接委員数(平成元年12月31日現在)

III-90表 篤志面接相談内容別実施回数(平成元年)

 一方,平成元年12月31日現在における少年院の教誨師数は341人であり,元年中の教誨実施回数は,総数で3,597回(教誨師1人当たり10.5回)である。その内容は,在院者の希望や必要に基づいて行う彼岸法要,講話,個別面接などである。宗派別の内訳は,仏教66.0%,神道18.2%,キリスト教15.8%となっている。
 そのほか,院外委嘱職業補導,教科教育及び院外教育活動等においても,事業所,学校,各種団体,公共施設,個人などから援助・協力を受けており,職業実習,教諭の派遣依頼,各種施設の見学・利用,地域の行事への参加など,その形態や方法は,地域の特性と施設の実情によって多彩なものとなっている。
(4) 在院期間
 少年院在院者で,少年院における教育活動を通じて矯正の目的が達成されたと認められる者は,地方更生保護委員会等の決定により退院させ,また,少年院の教育課程を修了し,仮に退院を許し社会内において処遇を行う方が適当であると認められる者は,同委員会の決定により仮退院させて,それぞれ社会復帰させる。仮退院の場合には,出院後保護観察所の保護観察を受けるが,再非行を犯すなどにより,少年院に再収容されることもある(第2編第4章第2節及び本章第7節参照)。平成元年中の少年院出院者4,915人のうち,仮退院による者は4,614人(93.9%)である。処遇区分別に退院,仮退院の人員と平均在院日数を見ると,交通短期処遇(男子)は,280人全員が仮退院で97日,一般短期処遇は,退院が1人であるのを除いて,1,517人が仮退院で151日(男子150日,女子161日)となっている。長期処遇では,退院が300人で363日(男子362日,女子389日),仮退院が2,816人で357日(男子357日,女子363日)となっており,平均在院日数は,退院の女子を除きいずれも1年を下回っている。
 ところで,少年院の収容期間は本来不定期であって,在院者の矯正・改善の進み具合の違いにより,出院までの期間は在院者個々で異なっているが,少年院では,できる限り早期に出院させて,保護観察などの施設外処遇へ移行させるようにしている。改善の度合いの評価については,全国的に統一した成績評価基準が定められている。これによれば,各在院者ごとにそれぞれの個人別教育目標の達成度を評価するほか,在院者共通に,規範意識,学習態度,対人関係などの項目での達成度や努力の度合いを評価することとされている。したがって,在院者の意欲がおう盛で,自己の問題に対する積極的な取組が行われるなどして,矯正・改善が早く進む者は,それだけ短い在院期間で出院する。逆に,指導にもかかわらず矯正・改善が進まない者には,それだけ長い指導期間が必要で,在院期間が長くなることになる。

III-55図 少年院仮退院者の処遇区分別在院期間(平成元年)

 III-55図は,平成元年の出院者のうち仮退院者について,処遇区分別に在院期間を示したものである。長期処遇では,在院期間301日から360日までの者が最も多くなっているが,200日台の者や400日を超える者もそれぞれ少なからずいる。また,一般短期処遇では,120日前後から180日前後まで,交通短期処遇では,80日前後から110日前後まで在院期間の幅が広がっており,在院者の矯正・改善の状態によって在院期間が弾力的に運営されている状況がうかがわれる。