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 平成 2年版 犯罪白書 第3編/第5章/第5節/1 

第5節 少年院における処遇

1 概  説

 少年院は,家庭裁判所の審判の結果,保護処分の一つである少年院送致の決定を受けた者を収容し,これに矯正教育を授ける国立の施設である。平成元年12月末現在,全国で54庁が設置されている。
 少年院の内部組織は,院長,次長の下に,首席専門官,庶務課及び医務課が置かれている。首席専門官は,少年院在院者の矯正教育を担当しており,同専門官の下に,複数の統括専門官,専門官及び教官が置かれている。矯正教育に直接携わる専門官等の職員には,教員免許又は職業訓練関係の指導員免許などの資格を有する者が多い。なお,少年院の矯正教育又は少年鑑別所の観護の業務に従事する職員(法務教官)に,教育学,心理学,社会学などの専門的知識・技能をもつ有為な人材を採用するため,平成元年度(会計年度)から,大学卒業程度の試験として「法務教官採用試験」が新たに設けられた。
 少年院には,収容少年の年齢,犯罪傾向の程度及び心身の状況に応じて,初等,中等,特別及び医療の4種類があり,かつ,男女別に分けられている。初等,中等及び特別の各少年院は,いずれも心身に著しい故障のない者を対象とし,その中でも,初等少年院は14歳以上おおむね16歳未満の者を,中等少年院は16歳以上おおむね20歳未満の者を,特別少年院は犯罪傾向の進んだおおむね16歳以上23歳未満の者を,それぞれ収容している。また,医療少年院は,心身に著しい故障のある,14歳以上26歳未満の者を収容している。
 少年院に収容される少年は,個々に資質,環境,行動傾向などで様々の問題性を有している。これらについて科学的に調査した上,共通した問題性をもつ少年をできるだけ同じ施設に収容し,より効果的な処遇の推進を図るために設けられたのが分類処遇制度である。III-53図は,この分類処遇制度に関し,少年院の種類ごとに設けられているそれぞれの処遇課程とその細分等との関係をわかりやすく示したものである。
 分類処遇制度によれば,少年院の処遇は,短期処遇と長期処遇に大別される。短期処遇は,非行傾向が単純又は比較的軽微で,早期改善の可能性が大きいため,短期間の継続的,集中的な指導と訓練により,矯正と社会復帰が期待できる者を対象とし,開放的な雰囲気の中で処遇を行っている。長期処遇は,短期処遇では矯正効果を十分挙げることが期待できない者を対象としている。

III-53図 少年院分類処遇制度

 さらに,短期処遇は,収容期間を6か月以内とする一般短期処遇と,主な非行が交通事犯に係る者を対象とし,収容期間を4か月以内とする交通短期処遇の二つに区分される。長期処遇は,収容期間が2年以内とされており,少年の矯正・改善に最も必要とする処遇に着目して,次の五つの処遇課程が設けられている。すなわち,[1]生活指導課程一社会性付与のため基本的な生活指導を必要とする者等を対象として,各種の生活指導及び教育訓練を中心とした処遇を行う。[2]職業訓練課程一職業技術の習得が社会復帰のための有力な手段となると認められる者に対し,職業能力開発促進法等に規定する職業訓練を実施する。[3]教科教育課程一義務教育未修了者や高等学校への進学あるいは復学を希望する者に対し,教科教育や補習教育を実施する。[4]特殊教育課程一精神薄弱者や情緒的に未成熟な者等に対し,専門的な治療教育などを実施する。[5]医療措置課程一身体疾患のある者及び精神病又はその疑いのある者等を対象とし,専門的治療を実施する。また,職業訓練課程を除く他の処遇課程は,それぞれ収容者の特質に応じて更に細分されている。
 個々の少年が実際に送致される少年院の指定は,家庭裁判所による少年院の種類の指定を受けて,少年鑑別所長が,分類処遇制度に基づき,少年の特性及び教育の必要性,各少年院で実施されている処遇の内容を考慮した上で行うこととされている。その際,家庭裁判所が短期処遇を行うことが適当であるとしてその旨の勧告をしたときは,それに従うほか,長期処遇を行っている少年院に送致する場合でも,処遇内容等について特別の勧告が付されたときは,その勧告の趣旨を尊重して,処遇に反映させることとしている。