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 平成 2年版 犯罪白書 第2編/第2章/第2節/2 

2 終局裁判

(1) 第一審
 昭和63年中の地方裁判所,家庭裁判所及び簡易裁判所による第一審裁判所としての終局裁判の結果を見たものがII-9表及びII-10表である。
 地方裁判所及び家庭裁判所の終局処理人員総数は,前年より4,086人減少して5万7,790人(地方裁判所の終局処理人員は,前年より4,028人減少して5万7,488人,家庭裁判所の終局処理人員は,同じく58人減少して302人である。)となっている。これを罪名別に見ると,前年と同様に覚せい剤取締法違反が1万3,698人(総数の23.7%)と最も多く,以下,業過8,990人(同15.6%),道交違反6,995人(同12.1%),窃盗4,844人(同8.4%),傷害4,067人(同7.0%),詐欺3,852人(同6.7%)の順となっている。前年に比べ,ほとんどの罪名で減少しており,特に,公職選挙法違反(1,035人・84.1%減)及び賭博・富くじ(338人・ 28.7%減)などの減少が目立っている。なお,総数のうち302人は,家庭裁判所の処理に係る少年の福祉を害する成人の刑事事件であって,懲役言渡し人員151人中146人(96.7%)は児童福祉法違反によるもの,罰金言渡し人員148人中103人(69.6%)は労働基準法違反によるものである。地方裁判所及び家庭裁判所においては,終局処理人員5万7,790人中,無罪言渡し人員は50人(0.1%)である。
 簡易裁判所の通常手続による終局処理人員総数は,前年より1,894人(13.8%)減の1万1,867人である。懲役言渡し人員1万505人中9,766人(93.0%)が窃盗であり,通常手続による罰金言渡し人員1,008人中684人(67.9%)は,業過及び道交違反によるものである。簡易裁判所の通常手続においては,終局処理人員1万1,867人中無罪言渡し人員は32人(0.3%)であるが,業過の終局処理人員296人中無罪言渡し人員は15人(5.1%)である。

II-9表 罪名別地方・家庭裁判所終局処理人員(昭和63年)

II-10表 罪名別簡易裁判所終局処理人員(昭和63年)

 簡易裁判所の略式手続によって,昭和63年中に罰金又は科料に処せられた者は,131万6,801人であり,罪名別構成比で見ると,業過及び道交違反が合わせて95.7%と圧倒的に高く,これに次ぐ傷害が0.8%である。
(2) 上訴審
 昭和63年に言い渡された第一審判決に対する上訴の比率(上訴率)を見ると,地方裁判所の判決に対しては9.3%,簡易裁判所の判決に対しては4.5%となっている。63年の高等裁判所の控訴受理人員は5,576人で,これを控訴申立当事者別に見ると,被告人側のみの申立てによるものは98.2%,検察官のみの申立てによるものは1.3%,双方からの申立てによるものは0.3%である。
 II-11表は,昭和63年中に高等裁判所が控訴審として処理した結果を,罪名別に見たものである。終局処理人員総数は,前年より369人減の5,820人で,そのうち17.7%は控訴が取り下げられ,65.6%は控訴が棄却され,16.2%は原判決が破棄された上改めて判決が言い渡され(破棄自判),0.2%は原判決が破棄されて更に審理を尽くすべく第一審に差し戻され,又は移送されている。控訴審終局処理人員総数に占める取下げ人員の比率を罪名別に見ると,覚せい剤取締法違反が28.8%,窃盗が26.5%と高く,同じく破棄自判の比率を罪名別に見ると,業過が31.2%,詐欺が30.9%と高い。破棄理由を見ると,破棄人員総数956人中320人(33.5%)は量刑不当によるものであり,自判の結果,裁判が覆されて無罪となった者は,そのうち20人である。なお,検察統計年報によれば,検察官が第一審の無罪判決を不服として控訴した事件のうち,63年中には31人の被告人に対し控訴審の判決が言い渡されているが,そのうち28人(90.3%)については,第一審判決が覆されて有罪となっている。
 昭和63年中に言い渡された控訴審の判決に対する上告の比率を見ると,全体では35.6%で,第一審判決に対する上訴率に比べると高くなっている。63年の最高裁判所の上告受理人員は1,626人であるが,そのうち検察官の申立てに係る者は3人である。63年中に最高裁判所が上告審として終局処理した人員は,前年より38人増の1,623人で,その内訳は,上告取下げ285人(17.6%),上告棄却1,326人(81.7%),原判決破棄5人(0.3%)などとなっている。

II-11表 罪名別控訴審終局処理人員(昭和63年)

II-12表 罪名別死刑・懲役・禁錮の第一審科刑状況 (昭和63年)

II-13表 罪名別第一審の死刑言渡し人員(昭和40年〜63年)